俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
133 / 337
45・春の風物詩ラストが来た

第133話 邪神信者、あばれる

しおりを挟む
 磯釣りの翌日のことだ。
 冒険者ギルドに来て、たまには冒険者らしく仕事を探すか……なんてことをしていた僕なのだ。
 こうでもしないと、体が鈍ってしまう。

 第二王子というパトロンがついた今、僕は食材探しと美食開発以外、サボろうと思えば無限にサボれてしまう。
 そしてその先にあるものは何か?
 生活習慣病である。

 僕は詳しいのだ。
 前世で同期のバリバリ働く社員が出世して、管理職になって現場から離れた途端、数年でぶくぶくと太って風船のような姿になったのを思い出した。
 健康診断の結果もボロボロだったようで、動かず、美食だけを続けることはかくも人間を破壊するのかと感心したものである。

「仕事は健康に悪いが、健康のためには仕事をせねばならない……」

 すっかり便利屋業を廃業した僕は、冒険者らしく仕事を探さねばならないのだった。
 なるべくストレスが少なく、それでいて体を動かす仕事がいい。

「ナザル、ナザル」

 そこへ呼ぶ声がする。
 僕に親しげに話しかける者など数えるほどしかいない。
 大抵の人は、僕を胡散臭いと言って積極的に話しかけないのだ……失敬な。

「私はここに、季節の風物詩みたいな依頼を用意してあるんだが」

「あっ、リップル、それはもしかして朝イチで引っ剥がしたまま手元に確保しておいたのか!?」

 安楽椅子冒険者はニヤリと笑った。
 彼女もちょこちょこ外出せねば、足腰が鈍ってしまう。
 百年以上生きているハーフエルフだから、そこら辺がとくに心配らしい。

 ハーフエルフは、肉体的には老化しないって聞くんだけどどうだろう?

「季節の風物詩というと……」

「自由の神フリーダスの信者が出た」

「あー、出たかあ! そう言えばそういう季節だもんなあ」

 大掃除の時もそういう話をしていた気がする。
 去年はフリーダス信者を誅しながら芋を揚げたなあ。
 今年もやるか、揚げ芋! フライドポテト!

「何やら美味しそうな気配がしますが」

「おっ、最近よく合うなあサルシュ」

 リザードマンにして至高神バルガイヤーの神官サルシュだ。
 長い間たびに出ていた司教が戻ってきて、その間神殿を預かっていたサルシュは長期休暇という名のクビ宣告を受けているらしい。
 彼が長い間培ってきた、神殿での人脈とかそういうのが、この国の宗教でトップをやっていく人には邪魔なのだな。

 なので、サルシュは今はせっせと冒険者家業に精を出し、第二の人生を謳歌している。

「ははあ、揚げ芋ですか。大変興味があります。ワタクシめも行きましょう」

「行こう行こう。今年は三人だね」

 そういうことになった。
 僕とリップルとサルシュ。
 一見すると、相変わらず前衛職がいないのだが。

 司祭のサルシュはリザードマンらしい強靭な肉体をしているし、リップルはそもそも無詠唱で強力な魔法をぶっぱできるし、僕はまあどういう状況でも平気だし。
 問題ないでしょう。

「そう言えばナザルさんは油使いだとおっしゃってましたが」

「うんうん、油使いだが」

「それは魔法使いなのですか? 戦士なのですか?」

「分からん……」

 改めて聞かれると全くわからないな。
 後衛職のようでもあり、前衛が務まるようでもあり……。
 そもそもソロで冒険することも多かったから、常に前衛だった気もする。

 答えの出ない疑問はおいておいて、仕事に出発することにするのだった。

 また数日出ることになるので、コゲタの世話は宿のおかみさんと飼い主氏に任せることにする。
 うちの犬は上手にお留守番ができるから大丈夫であろう。

 お土産手に入れてくるからな!

 向かった先は、最近国交が回復した都市国家群、ファイブスターズは農業国フォーゼフ。
 アーランから輸出される野菜で、ピンチになっていた国だ。
 そこが最近、勢力を盛り返してきているらしいじゃないか。

「気になりすぎる」

「ナザル、今回は野菜の仕入れじゃないぞ。ちゃんとした討伐の仕事だからね」

「分かってる、分かってる……」

「あれは分かってない顔だな。サルシュ、ナザルに注意しておくんだぞ。彼はふらふらとどこまでも行くから」

「了解しました。任せてください」

 信用がないなあ!
 そんな僕らは三人で街道を行く。
 ファイブスターズとの国交が回復したため、治安も大変良くなった。
 具体的には、盗賊が出てくる確率が半分になった。

 各国の兵士も行き交うようになったからだろうね。
 僕らは安全に旅をして、片道三日ほど移動してフォーゼフに到着したのだった。

 正しくは、フォーゼフ郊外に広がる広大な畑に到着した。
 なんだろう、この畑は。
 今まで見たことがあまり無いタイプだ。

「すみません。これは何を育てているんですか」

 すぐ近くで作業をしていたおじさんに聞いてみた。

「ああ、外国の人かい? こいつはね。豆さ。ヒュージビーンズという大振りな豆を育ててるんだ。国でいろいろな用途に消費してたんだが、どうやらこの豆が外国には生えてないそうじゃないか……」

「な、な、なんだってー!! ヒュージ、ビーンズ……つまり大豆ってこと……!?」

「サルシュ!! ナザルが暴走しそうだ! 確保ー!」

「はいはい!」

「うーわー! は、離せー!」

 僕はサルシュの魔法で拘束され、そのままフォーゼフまで運ばれることになるのだった。



しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...