俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
135 / 337
45・春の風物詩ラストが来た

第135話 鎧袖一触とはこのことだ

しおりを挟む
「うおおおおガキども調子に乗るなよ貴重な大豆からすぐその汚え足をどけろ!!」

 僕が叫びながら躍り出たら、邪神の信者たちが「うおわーっ!?」と叫んで飛び上がった。

「あっ、ナザルがカッとなって飛び出してしまった! 彼にもまだ熱い部分が残ってたんだねえ」

「うおおおおおワタクシめも参加しますよーっ! 邪神の信者をすり潰すのですーっ!!」

「サルシュまで!! 頑張っておいでー」

 後方傍観者気取りのリップルはさておき、僕とサルシュが鼻息も荒く並ぶ。

「な、なんだお前らは! そうか、街の大人が雇った冒険者だな!?」

「フォーゼフにはそんな冒険者いなかったはずだ! ってことは、わざわざ外部に助けを求めたってか!?」

「ぎゃははははは! 俺達がフリーダス様の声を聞いて、しかも才能があって魔神を従えてるもんだから怖くなっちゃったか!」

 一人が腹を抱えて笑い、いきなり無表情になって「やれ、魔神。殺せ」とか言った。
 魔神、外見は尻尾の生えた灰色の巨人でのっぺらぼうに口だけ真横に裂けて開いているようなやつだ。
 そいつがニヤニヤ笑いながら、大豆の上に一歩踏み出し……。

「させるかぁっ! 油を喰らうがいい!!」

 僕の油が飛来する!
 魔神の足元に滑り込み、全ての摩擦を失わせた。

『ウグワーッ!?』

 魔神、転倒する。
 そこにサルシュが駆け寄り、全身を真っ赤に燃え上がらせた。

「ふおおおおーっ!! 魔神撃滅!! バルガイヤークラーッシュ!!」

 謎の技だ!
 サルシュのアタックが、倒れた魔神に突き刺さる。

「な、なにっ!? 俺の魔神が……」

「油よ!」

「ウグワーッ!!」

 三人のフリーダス神官がすてーんと転んだ。
 もう終わりである。
 摩擦は完全にゼロにしたので、起き上がることができない。

 なお、油に巻き込まれて立てないはずのサルシュは、なんと纏う炎で油を燃やし尽くしながら魔神をガンガンぶっ叩いている。
 強い強い。
 そして僕の油の弱点が分かったぞ。

 魔法の力で燃やされると脱出されるらしい。
 油だもんなあ。

『ウグワワーッ!!』

 あっ、魔神が力尽きた。
 全身が分解されて、空気に溶けるように消えていく。

 僕は転がした神官たちを一箇所に集めた、
 僕を目掛けて、彼らは魔法を使ってくる。
 だが、不思議とそれらは僕に影響を及ぼさないのだ。

「あー、防御は任せてもらってるからね。ナザル、フリーダスの信仰に目覚めた者は解放されることはあるのかい?」

「フリーダスが飽きると信仰を取り上げて消えちゃうはず……」

「バルガイヤーの矯正施設に入れましょう。ワタクシめ、魔神を仕留めて冷静になりましたよ」

「うん、サルシュが恐ろしいということはよく分かった。素手で魔神を仕留めるかあ……」

 バルガイヤーの司祭になっただけのことはある。
 シルバー級でもトップクラスの実力者だろう。

 ……彼の聖職者らしきところを一度も見たことがないのだが……?
 炎に身を包んで突撃するのが聖職者……?

「あれはバルガイヤーの司る太陽の力を身にまとったもので、信心が足らぬものは焼き尽くされてしまうほどの危険な奇跡なのです」

「割と長時間纏ってたよね?」

「ワタクシめ、信心深いもので」

 底しれぬ人物だ……

「一瞬でフリーダス神官三名を無力化したナザルもなかなかだと思うけどね。というか、一瞬殺したらいいかどうか迷っただろう? だから彼らから攻撃を食らうことになった。駄目だよー。こういうのは非情に徹しておかないと君が死ぬよー」

「面目ない」

 リップルに叱られてしまった。
 僕もまだまだだなあ。
 ひとまず、油で彼らの口を塞いでおく。

 神の力を得た魔法、奇跡というやつは祈りの言葉を唱えられなければ発動しないのだ。
 手足を縛り、口を塞いで朝まで待ち……。

「全員を捉えましたよ。自由神の神官というのは流行り病みたいなもなので、これをバルガイヤーの矯正施設に入れることになりまして」

「バルガイヤーの矯正施設!?」

 フォーゼフの依頼人が戦慄した。
 なにか知っているのか!?

「行ったものは別人のようになって戻ってきたという……」

「そんな伝説が?」

「いや、毎年一人はフリーダスに魅入られるバカが出るので……。俺の同年代のやつが矯正施設に入れられて、一年でとてもとても敬虔なバルガイヤー原理主義者になって戻ってきて、今も司祭をやってる……」

「ははあ」

 洗脳施設ではない?

「至高なる神の信仰に目覚める……。素晴らしいことです」

 サルシュさん?
 ともあれ、フリーダス信者の三人は、最寄りの矯正施設に預けることになったのだった。
 謎の方法でサルシュが連絡を取ると、数時間で馬車がやってきた。

 僕らがふんじばった若者を馬車に放り込むと、バルガイヤーの信者たちが数人がかりで馬車を封印した。
 そして、彼らの代表らしき人物がアルカイックスマイルを浮かべた。

「これで新たなるバルガイヤーの使徒が生まれることでしょう。ご協力に感謝します」

 ああ、運ばれていってしまった。
 立派な至高神の信者になるんだぞ。

 そして、報酬の話になった。
 恐ろしく迅速な解決に、ちょっとだけ色を付けてくれるという話になったのだが……。

「ヒュージビーンズをいただけますかね?」

「ああ、構わないよ。じきにアーランにも出回るから、すぐ食べられるようになると思うけど……」

 大豆ゲット……!!
 麻袋にぎっしり詰まったそれを受け取り、僕はガッツポーズをした。
 そして豆をちょっと確認してみると……。

「……大豆というにはかなり大きいな……。まさにヒュージビーンズだ……!」

 親指の先くらいある大きな豆!!
 これ、大豆として使えるのか……!?

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...