俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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79・上陸! 南の島!

第238話 見えてきた! ケーキのような島だ

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「見えてきたぞー!!」

 朝、そんな叫び声で目を覚ました。
 船に取り付けられたドラがジャーンジャーン!と鳴らされる。
 これは本来、海のモンスターや海賊が現れた時に鳴らすものなのだが……。

 こうやって大きなイベントが起こった際にも鳴らすのだ。

「リップル、起きるんだ」

「う、ううーん。もう少しだけ……」

「毎日ハンモックでゴロゴロしててお腹に肉が付いてきてるんじゃないか」

「なにおう」

 目覚めた。
 やっぱり気にしてるんじゃないか。
 日々寝転がってて、よく夜も眠れるものだ。

 コゲタはドラが鳴る前に飛び起きて、トテトテトテーッと甲板を見に行ったようだった。
 マキシフがコゲタをリードしてくれているので安心。
 持つべきものは良き先輩だなあ。

 僕も着替えてホイホイと出てくる。
 船の上では、水夫たちが体を洗っているところだった。
 リップルの力で大量の真水に恵まれた今回の航海。
 船員たちは毎日体が洗えると大喜びだった。

 で、僕が出てくるとみんなが「ナザルさんだ!」「おはようナザルさん!」「ついに島だぜ!」と親しげに話しかけてくる。
 ははは、僕の人望かな。
 まあ、僕が美味しいものをやたらと彼らに提供したからだと思うのだが。

 マキシフにリードを握ってもらいつつ、コゲタが甲板のあちこちをトテトテ走っている。
 島への到着で沸き立つ船員たちに紛れて、わあわあ騒ぐのた楽しいらしい。
 あっちに行ってはぴょんぴょん跳ねて、こっちでは船員とハイタッチしている。

 お祭り好きだなあ。

「すまんねマキシフ」

「いえ、妹が小さかった頃を思い出します」

 ははあ、マキシフはお兄ちゃんだったか!
 子供コボルドの世話はお手の物ということだ。

 まあ、コゲタは人間に換算すると多分13~4歳くらいで、この天真爛漫さは種族が本来持っている特徴なんだろう。
 野生だとそういう性質は抑えられるが、人間と一緒に暮らしていると小型コボルドはものすごく明るくなる。

「ごしゅじーん!」

「おうコゲター。島だなー」

「しま! しま! いっぱいはしるの!」

「船の中だと危なくてあんまり走れなかったもんなー」

 水平線に、小さいものが見えている。
 あれが目的の島か。
 まだ遠いようだが、追い風を上手く捉えたのでぐんぐん近づいているそうだ。

 これは楽しみだ。
 コゲタと並んで、島が近づいてくる様をじっと眺める。

 厨房係が朝食を運んできてくれた。

「悪いね!」

「いえいえ、航海中はお世話になりましたからね、これくらい! 最高の眺めで最高の朝食をどうぞ!」

 干し肉のスープとパンという、いつものメニューだ。
 これに酸っぱい果実を絞った汁がついてくる。

 だが、ぐんぐん近づく島影を見ながら食べる朝飯は美味い!
 味と香りだけではなく、目から入ってくる情報もまた美味しさになるのだなあ。

「ふおーい」

「ねぼすけなハーフエルフが来たぞ」

 ふらふら歩いてくるリップル。
 もう、航海の始まった頃のまま、リップルに好色な目線を向ける男はいない。
 みんな敬意に満ちた目で、アーラン最強の魔法使いを見ているのだ!
 またモテから遠ざかったな……!!

 なんか敬礼までされてるじゃないか。
 リップル、おざなりに礼を返しながら歩いてくる。

 そして僕らの横にどっかり座った。
 サッとやってきた調理係氏が、リップルの分の朝食を用意する。

 パンはなしで、スープと果汁だけ。
 好みを分かっておられる。

 リップルは干し肉を戻したしょっぱいスープを飲んで、「うー」とか唸った。
 そして酸っぱい果汁を飲み干して、「ひー」とか呻いた。
 目が覚めたらしい。

「陸が近いんだって?」

「ようやく会話できるようになったな。あれだよ、あれ。どんどん近づいてくる。僕の目にはこう……空に向かって伸びる円錐状の島に見えるんだが」

「ああ、円錐みたいな形をしている島だねえ」

「イメージしてたのはのどかな南の島だったので、全然違った。というか思ったよりもずっと大きいぞ、あの島。円錐は山か。てっぺんが雲に隠れるくらい高くて、半分が真っ白だ。あれは雪だな……? で、麓に森と、金色に揺れる草原みたいなものが……」

 ここまで見えているものを言語化した後、僕は気付いた。
 あれは、黄金の草原などではない!!

 あの色は、風に揺られる黄金色の作物は……!

「米……!! 米だあれは!! 米が、この世界にあった……!!」

 思わず立ち上がっていた。
 なんということだ!
 島の正面の七割を覆う黄金。
 大量に作られた田んぼがそこには存在しており、僕を出迎えるように揺れているのだった。

「ご主人うれしい!? うれしい!?」

「嬉しい! すごく嬉しいぞ! うおおおおおテンションが上がってきたああああ!! はるばる海をわたってここまで連れてきてもらった甲斐があったぞー!!」

 僕が大喜びしていると、船主が出てきた。

「米というのは、あの島で作っているあの白っぽい食べ物だろう? 茹でてもらったが、味がしなくて、そこまで旨いものでは無かったと思うが……」

「ははは、食材はどれも食べ方というのがあるんですよ。僕がそれをお目にかけましょう」

 どんな米があるのか?
 それを考えるだけで、ワクワクしてくる。

 こうして往路は終わる。
 目的としている、米と垂れ耳コボルドの島に、僕らは到着したのだ。

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