俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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84・カズテスの遺跡

第256話 君を待っていたのだ

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 大魔道士カズテスが僕と同じ、地球の生まれであることはどうやら間違いないようだ。
 3DプリンターにPC、サーバー、それに彼が生活していた痕跡と思われるリクライニング式のベッドやシャワー設備などがあった。

 彼はここで一人で最後を迎えたのかもしれない。
 うーん、切ない。

 あの絵本で描かれていた、垂れ耳コボルドと並んだ気の良さそうな男性は何を願い、何を求めたのか。
 それを聞くことはもうできないのだろう。

 いやいや。
 こういうのはPCの中に記録が残っているのだ。

 僕は前世の記憶を呼び起こし、魔導PCとでも言うべきこの機械をいじった。
 マウスがない!
 カーソルを使うのね。
 流石に再現はできなかったか……。

「私には想像もできないような道具をよくぞ扱えるものだね。さすがは前世の記憶というやつかい?」

「いや、もうかなり忘れかけてるんだけど、カーソルなら感覚的に操作できるからさ。ええと、パスワード? そんなもの分かるわけがないだろうに……。あ、ヒントがある」

「意味不明な文字が並んでいるようにしか見えないな……」

「これ、日本語なんだよ。カズテスは間違いなく日本人だ。で、ヒントは……君が生きていた国を教えてくれ、か。日本だ」

 パスワード画面を突破した。
 その先には、この島の映像が背景となったデスクトップ画面がある。

 自動的に、動画が再生された。

『この映像が再生されているということは、私はもう死んでいることだろう。だが同時に、私と同じ日本から転生した者が魔導パソコンの前に立っているということに他ならない。どうか教えてくれ、遠き未来の同胞よ』

 カズテスは僕に語りかけているようだった。

『わたしは数々の作物を再現した。日本で食べていた、あの料理を死ぬまでに口にしたかった。野菜を再現した。穀物を再現した。料理そのものを表す作物を作り出した。だが、それらはどれも、この島には根付かなかった。私は種を旅人たちに託し、世界へとばらまいた。完全な再現ではなかったが、きっと味は期待に添えたのではないだろうか? どうだろうか』

「もちろん。素晴らしい食材の数々だった」

 カズテスは動画だ。
 僕の言葉は届かない。
 だが、思わずそう応えてしまっていた。

『食材はそれぞれでは力を発揮しない。一つ一つでもうまいが、組み合わせる必要がある。レシピがいるんだ。だが私は料理が良く分からない。レシピは作れなかった。君よ。レシピは今、存在しているか? 君はそれを再現することができたか?』

「もちろんだ。まだまだこれから作っていくレシピもある。だけど、あなたが用意してくれた食材があるなら、不可能なことなんかなくなる」

『君よ。私の願いを聞いてくれ。大魔法王国時代であろうと、この世界、パルメディアの食事事情は貧しい。魔法使いたちは美味しい食事を知る前に虚飾を覚え、味のしない食事の見た目を飾り付けた。食べ物をおもちゃにした。そんなのはあってはならない。私はこの世界の人々に、美味しい食事を教えてあげたかった』

 魔道士カズテスの目的は、祈りだった。
 最初は自分が、日本の食事を再現しようとしたのだろう。
 それがやがて、人に美味しい食事を食べさせてあげたいという思いに変わった。

 そして命尽きる時に、それは自分の寿命のうちには果たせぬと知った。
 だから彼は祈ったのだ。
 そして動画を残した。

 返答を自分が知ることは無いと知りながら、祈るようにこの動画を残した。

 動画がぶつ切りになった。
 多分、ここで彼は力尽きた。

 撮影は終わり、カズテスの死体はどうにかなったのだろうか。
 コボルドたちが埋葬したんだろうか。

「全ては彼が用意したものだったのか! それが世界中に根づき、芽吹き、受け継がれていたんだ」

 リップルが驚きの声を漏らす。

「ナザル、君はまさしく、この大魔道士が後世に賭けた願いを果たしてきたんだな。うん、ジーンと来たぞ」

 本当にちょっと涙ぐんでるな。
 気持ちは分かる。
 僕もなんかこう、胸が熱くなるものがあるもんな。

「カズテス、あなたが残した最後の宝であるお米をこの地で手に入れて、食材は揃うぞ。ありがとう、偉大なる過去の魔道士よ! 遺志は今、確かに僕が受け継いだ!」

 では、カズテスの遺志を受けた僕はどうする?
 知れたことである。

 今までと何ら変わらず、美食を求めて邁進するだけだ。
 というか……知識神はもしかすると、カズテスの事を知っていたのかも知れないな。
 だからこそ僕をこの島へ送り込んだのだ。

 僕はPCと魔導タービンに一礼すると、帰ることにした。

「行くぞコゲター」

「はあーい!」

 リクライニングベッドを起こしたり寝かせたりして遊んでいたコゲタが、パタパタ走ってきた。
 帰りはまた長いなあ……なんて思う。

 だがどうして、帰りはあっという間だった。
 僕ら三人を乗せた螺旋階段が動き出す。
 エスカレーターだ。

 早足くらいの速度だから、立っているだけでどんどん進む。
 そして壁面にも変化があった。

 雪山の周囲の吹雪が止み、晴れ渡った空が映し出されたのだ。
 螺旋階段を回りながら下るから、見えるのは180度のパノラマだ。
 島の隅々までが見渡せる。

 熱帯雨林にあるのは、コボルドたちの村だ。
 小さいのがわちゃわちゃ、今日も元気に動き回っている。

 大草原では、物騒な生き物たちが活動していた。
 彼らもまた、島の仲間たちなのである。

 そして島の表と裏に水田を広げているスケアクロウたち。
 誰もが動きを止めて、こちらを見ているように感じた。

 彼らは分かるのかも知れない。
 遠い昔に自分たちを生み出した造物主の思いが、今、受け継がれたことを。

 大魔道士カズテスの島、本当に来て良かったなあ……。

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