俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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97・密着! 油使い一家!

第293話 デカくなったギルボウの店

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「おや! お出かけかい!? 本当にあんた仕事熱心なんだねえ! もちろんみどもも取材に同行するよ!」

「いいぞいいぞ、ついてこい。今日はジャンクな料理を食べる集まりなんだ。お前も食べさせてやろう」

「おほー! みどもは食いしん坊でね! 美味しいものと美味しいお酒を口にできるチャンスは逃さない主義なんだ! ありがたいなあ! 約得役得!」

「いってらっしゃい。おみやげよろしくね」

「いってらっしゃーい!!」

 留守番のリップルとコゲタなのだ。
 美味しいお料理をおみやげにするからな。

 というわけで、我が家からしばらく歩くと下町が見えてくる。
 今の貴族街近くに住むようになってから、アーランの広さというものを実感するな。

 以前は下町住まいだったし、アーランの入口が近かったからあの辺りだけで用が足りたのだ。
 だが今は違う!

 結構歩く必要が出てきた。
 まあ、生活用品の買い物だけならば貴族街近くのお高い市場があるんで、そこで事足りるんだが……。

 おお、商業地区と下町の賑が恋しい……。

「おお~、油使いは物思い歩みを進める~。その足取りに油の気配はなく~重い~。料理に使ったあとの油のよう~」

「変なことを歌い出したな!」

「みどもは吟遊詩人なのでね!!」

「職務に忠実な男だなあ」

 ちょっと感心しつつ、ブレッドとともに下町へ到着したのだった。
 そこは行きつけの食堂にして、アーランで最も美味いものが食える店。

 今や、下町の客しか来れない時間帯と予約でなければ入れない時間帯に分かれている、この辺りでは一番繁盛している店だ。

「うおっ!! ギルボウの店が倍くらいのサイズになってる!!」

 僕は腰を抜かすところだった。
 見慣れた下町のちんまりとした店構えが、ちょっとした高級レストランのようになっているではないか。
 しかも敷地二倍だけではない。
 なんと二階席とテラス席がある!

「な、なんたることだー!!」

「おお~招かれたのは素晴らしきレストラン~みどもを待つ~酒池肉林~~~!」

「願望を歌ってるんじゃないよ」

「歌は欲望の発露でありまして」

「言われてみればそうか」

「外で歌ってるやつがいると思ったら、なんだお前かナザル」

「おうギルボウ! ……立派な服を着てるなあ」

「お前だって貴族みたいな格好じゃねえか」

「美食伯になってしまったからな……」

「俺も店のオーナーだからな。今、信じられないくらい儲かってる……」

 儲かっているという割に、面白くなさそうな顔のギルボウである。
 この男は金が好きなのではない。
 自分の料理を食べて客が喜ぶのが好きなのだ。

「オーナーはなかなか厨房に立てなくてな。はー、料理人どもを指導して料理を作らせちゃいるが、腕がなあ……大したことねえんだ」

「ギルボウから見れば宮廷料理人すら一流半に落ちるからな。自分と比べるなよー」

「そうだなあ」

「おお~! まさに英雄たちの会話~! 食の巨人ギルボウ~、世界より集まったシェフを他愛もなしと一蹴し~」

「この人聞きの悪いことを朗々と歌ってるバカは誰だ?」

「ぎえーっ! 頭を掴んで持ち上げるのはおやめなされー! あいたた! あいたたたた!!」

「サテュロスのブレッドだ。伝説的吟遊詩人だぞ。僕の歌を作るために取材についてきてる」

「なるほどなあ」

 ぽいっとブレッドをアイアンクロー状態から解放するギルボウ。
 さすが、料理人たるものサテュロス一人なら片手で持ち上げられる膂力は基本だよな。

「ひいー、ひどい目にあった! これはいい歌になる!」

「たくましいなあ!」

「大したやつだなあ」

 僕もギルボウも感心してしまった。
 ということで、三人で店の中に。

 大いに店は賑わっているではないか。
 その入口から僕が入ってきたので、客も店員も一斉に注目した。

「ナザルだ!!」「ギルボウオーナーとナザルが並んでるぞ!」「下町レストランの名物だなあ。これだけでも来た甲斐があったよ」

「随分変わったなこの店は」

「ああ……。こうでもしないと客が入りきれなくてな。そして俺が一人で料理を作りゃいいんだが、おせっかいな貴族が各地から腕利きの料理人を集めて俺の下につけやがってな」

「ははあ、苦労してるんだなあ」

「ほんとだよ。こっちだこっち。おい、ジロジロ見てるんじゃないぞ。俺たちはこれから身内で美味いもの食うんだからな!」

 よく考えると、レストランのオーナーが客をのけものにして身内で美味いもの食うっていう宣言はとんでもない。
 だが、これもまた下町レストランとやらの名物らしい。

「俺達にも料理食わせてくれよー!」「楽しみにしてるからなー!」

「うるせー!!」

 お約束が分かってる客じゃないか。
 なお、この下町レストラン、下町ならではの定食やつまみ、軽食から、本格的な高級料理まで出してくるらしい。
 なお、高級な方もコース料理なんかではなく、四皿くらい一度に出てくる形式だ。

「で! で! 本日はみどもに何をごちそうしてくれるので!?」

「おう、期待してろよ吟遊詩人」

 にやりと笑うギルボウ。

「英雄様が来てるなら、英雄らしいどでかい料理が最高だ。出し物は……スパゲッティ!!」

「スパゲッティ!? パスタとやらの別の呼び名ですな?」

「おうよ。これを気取らずにガツガツ色々なものと組み合わせて食うのがスパゲッティだ。じゃあ合わせるのはなんだと思う?」

「な、な、なんであろうか!! みどもには……想像もでき……分厚いベーコン!! 焼き肉!!」

 想像できてるじゃないか。
 だが、ギルボウの表情を見るとそのブレッドの予想は外れているようだ。

 ではここで、僕からの予想を一言。

「バカみたいにでかいハンバーグだろ? それをひき肉で作ったミートソースの上に掛ける、肉々しいスパゲッティだ!!」

「正解だ!!」

 いえーい、とハイタッチする僕とギルボウ。

「うほー!!」

 ブレッドが吠えるのだった。
 そして僕らが向かった先。

 ギルマス夫人のドロテアさんもいて、色っぽい感じで手を振っている。
 これを見たブレッドは、またヒートアップするのだった。

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