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98・吟遊詩人、遺跡へ行く
第296話 遺跡の中で歌うな
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途中、油でツルーっと滑って加速。
馬の歩行と同じくらいの勢いで遺跡に向かった。
ブレッドはサテュロスという種族上、なかなかの健脚らしい。
「ほっほっほっほっほっ」
とか言いながら僕の移動についてくる。
体力もあるな。
伊達にたくさん食うわけではないのだ。
世界を一人で旅する吟遊詩人だから、体力や逃げ足は重要だろうしな。
伝説と呼ばれるまで生き残ってきた以上、ブレッドがただのうるさい大飯ぐらいなはずがないのだ。
「いやはや! あんたは頭脳派の英雄だと思ってたら、案外動けるんだなあ!」
「そりゃあもちろん。僕は基本的にソロ冒険者だったからね。一人でなんでも出来なければ話にならなかったのだ」
ソロでなくなったのは、いつくらいからだったかなあ。
長い事やっていると、人付き合いやしがらみが増えていくものだ。
まあ、それも悪くないと今は思える。
得たものがとにかく多かったからな。
「おおーっ! 一人世界を行く~! 英雄ナザル~! その目は未来の美食に注がれ~! 孤独は出会う料理へのスパイス~!」
「走りながらよく歌うなー!」
「こんなもの、走ってる内に入らないからね!」
「いいだろう。スピードアップするぞ!」
僕は油の上での疾走を開始した。
スピードスケートみたいな速度になるぞ。
道行く人々を上手く回避しなければならないから、そこが腕の見せどころだ。
道路を疾走し、壁に飛び移り、油をレールにして滑りながら走る。
その後ろと、ダダダダダダダダダッ!と凄い勢いでブレッドが追いかけてくるのだ。
「やるなあ!」
「はっはっは! みどもらサテュロスは、馬と同じ速度で走れるからね! 体力も食べてさえいれば無尽蔵! 弱点は腕力がなくて欲望の我慢が効かないことだけ! どうだ参ったか!」
がはははは、と笑うブレッドが、途中でトコトコやって来ていた大型の馬車にズドーンとぶつかった。
「ウグワーッ!」
「ウグワーッ!」
「ひひーん!」
おっと、これは大惨事ではないか!?
と思ったが、ちっこいブレッドの突撃では馬車はぐらぐら揺れた程度。
さらに、頑丈なサテュロスは馬車の下をくぐり抜け、すぐに僕へ合流してきた。
「いやあ……やるもんだなあ」
「はっはっは!」
これは素直に見直した。
サテュロスの身体能力と言うか、ブレッドという男の凄さを思い知った気分だ。
何があっても止まらないぞ、吟遊詩人。
こうしてアーランの門までやって来た。
門番たちは、猛烈な勢いでやってくる僕らに目を丸くしていたが……。
「なんだ、ナザルさんか」「ナザルさん、馬に乗らないと危ないですよ。主にナザルさんの速度がありすぎて他の人が危ない」
「いやあ申し訳ない。ちょっと吟遊詩人と一緒に走っていたら勢いがついてしまって……」
「吟遊詩人?」
「みどもだよ!」
ピョーンと飛び跳ねるブレッド。
流石に肩で息をしている。
トップスピードでしばらく走ったからな。
ここからは走る必要がないぞ。
「あっ、この間入国したサテュロス!」「吟遊詩人だったんだ」
「王命を受けて、このナザルの叙事詩を書くべく取材をしているんだ!」
「へえー!!」「それは聞きたい! 頑張ってくれよー!」
「おう!! 楽しみにしててな!」
まあ、自分のことでなければ楽しみだろうな。
僕も他人の英雄譚だったら楽しみだよ。
さて、ここから一旦坂道を降って、ターン。
アーランへと登っていく道の隣に、遺跡への入口が大きく開いているのだ。
どれくらい広いかと言うと、超大型馬車が二台すれ違えるサイズ。
「ははあ、ここからはまったく奥が見通せないなあ……。噂に聞くと恐ろしく広いらしいけど」
「アーランよりも広いんだから当然だ。中には、遺跡から一年中出てこない職人もざらにいるんだぞ」
「ひえーっ! ずっと穴蔵の中とか、息が詰まってしまわないのかい!?」
「詰まらないんだなあ、それが!」
一歩中に入ってしまうと、遺跡内部の強烈な明るさにブレッドが驚く。
「うわあーっ! 遺跡の中に! 穴の中に空がある!!」
「そういうことだ。天井が特殊な構造になってて、あちこちで青空が映し出されているんだ。しかも謎のパワーで、太陽の光をそのままここまで送り届けてきている」
「なんだそれ……!? ほぼ外じゃん!!」
「外の風は入ってこないが、遺跡内部で空気が対流を起こしてるからな。換気も常に行われている。誰がどういう意図でこんな凄いものを作ったのか誰も分からないんだけどな」
「はあ~! あまりのすさまじいスケール感にクラクラしてくる~!! ここは一曲、遺跡の雄大さを称える歌でも……。おお~!! 果てしなく続く遺跡、多くの民の胃を満たし、アーランの繁栄を支える~」
「うわーっ、流石に閉鎖空間の遺跡だと響くなあ! おいブレッド、歌うな歌うな! 遺跡内で歌うのは禁止だ! 歌っていいところまで来たら教えてやるあから!」
「おや? 歌っていいという場所なんてあるのかい?」
「周囲が土に囲まれた環境がある。農園とかな。そこでは土が音を吸収するから歌っても構わないんだ」
「なるほどぉー!! みどもは今、身の内から湧き上がる感動を表現したくて仕方ない! 土のあるところを案内して欲しい~!」
「任せろ。まずはドロテアさんが発見された謎のカプセルがあった地区に……」
「そこは明らかに響いて歌えないところ!! いや、だけど気になる! 見たい~!!」
賑やかなブレッドを連れて、僕は遺跡の中を行脚するのだった。
馬の歩行と同じくらいの勢いで遺跡に向かった。
ブレッドはサテュロスという種族上、なかなかの健脚らしい。
「ほっほっほっほっほっ」
とか言いながら僕の移動についてくる。
体力もあるな。
伊達にたくさん食うわけではないのだ。
世界を一人で旅する吟遊詩人だから、体力や逃げ足は重要だろうしな。
伝説と呼ばれるまで生き残ってきた以上、ブレッドがただのうるさい大飯ぐらいなはずがないのだ。
「いやはや! あんたは頭脳派の英雄だと思ってたら、案外動けるんだなあ!」
「そりゃあもちろん。僕は基本的にソロ冒険者だったからね。一人でなんでも出来なければ話にならなかったのだ」
ソロでなくなったのは、いつくらいからだったかなあ。
長い事やっていると、人付き合いやしがらみが増えていくものだ。
まあ、それも悪くないと今は思える。
得たものがとにかく多かったからな。
「おおーっ! 一人世界を行く~! 英雄ナザル~! その目は未来の美食に注がれ~! 孤独は出会う料理へのスパイス~!」
「走りながらよく歌うなー!」
「こんなもの、走ってる内に入らないからね!」
「いいだろう。スピードアップするぞ!」
僕は油の上での疾走を開始した。
スピードスケートみたいな速度になるぞ。
道行く人々を上手く回避しなければならないから、そこが腕の見せどころだ。
道路を疾走し、壁に飛び移り、油をレールにして滑りながら走る。
その後ろと、ダダダダダダダダダッ!と凄い勢いでブレッドが追いかけてくるのだ。
「やるなあ!」
「はっはっは! みどもらサテュロスは、馬と同じ速度で走れるからね! 体力も食べてさえいれば無尽蔵! 弱点は腕力がなくて欲望の我慢が効かないことだけ! どうだ参ったか!」
がはははは、と笑うブレッドが、途中でトコトコやって来ていた大型の馬車にズドーンとぶつかった。
「ウグワーッ!」
「ウグワーッ!」
「ひひーん!」
おっと、これは大惨事ではないか!?
と思ったが、ちっこいブレッドの突撃では馬車はぐらぐら揺れた程度。
さらに、頑丈なサテュロスは馬車の下をくぐり抜け、すぐに僕へ合流してきた。
「いやあ……やるもんだなあ」
「はっはっは!」
これは素直に見直した。
サテュロスの身体能力と言うか、ブレッドという男の凄さを思い知った気分だ。
何があっても止まらないぞ、吟遊詩人。
こうしてアーランの門までやって来た。
門番たちは、猛烈な勢いでやってくる僕らに目を丸くしていたが……。
「なんだ、ナザルさんか」「ナザルさん、馬に乗らないと危ないですよ。主にナザルさんの速度がありすぎて他の人が危ない」
「いやあ申し訳ない。ちょっと吟遊詩人と一緒に走っていたら勢いがついてしまって……」
「吟遊詩人?」
「みどもだよ!」
ピョーンと飛び跳ねるブレッド。
流石に肩で息をしている。
トップスピードでしばらく走ったからな。
ここからは走る必要がないぞ。
「あっ、この間入国したサテュロス!」「吟遊詩人だったんだ」
「王命を受けて、このナザルの叙事詩を書くべく取材をしているんだ!」
「へえー!!」「それは聞きたい! 頑張ってくれよー!」
「おう!! 楽しみにしててな!」
まあ、自分のことでなければ楽しみだろうな。
僕も他人の英雄譚だったら楽しみだよ。
さて、ここから一旦坂道を降って、ターン。
アーランへと登っていく道の隣に、遺跡への入口が大きく開いているのだ。
どれくらい広いかと言うと、超大型馬車が二台すれ違えるサイズ。
「ははあ、ここからはまったく奥が見通せないなあ……。噂に聞くと恐ろしく広いらしいけど」
「アーランよりも広いんだから当然だ。中には、遺跡から一年中出てこない職人もざらにいるんだぞ」
「ひえーっ! ずっと穴蔵の中とか、息が詰まってしまわないのかい!?」
「詰まらないんだなあ、それが!」
一歩中に入ってしまうと、遺跡内部の強烈な明るさにブレッドが驚く。
「うわあーっ! 遺跡の中に! 穴の中に空がある!!」
「そういうことだ。天井が特殊な構造になってて、あちこちで青空が映し出されているんだ。しかも謎のパワーで、太陽の光をそのままここまで送り届けてきている」
「なんだそれ……!? ほぼ外じゃん!!」
「外の風は入ってこないが、遺跡内部で空気が対流を起こしてるからな。換気も常に行われている。誰がどういう意図でこんな凄いものを作ったのか誰も分からないんだけどな」
「はあ~! あまりのすさまじいスケール感にクラクラしてくる~!! ここは一曲、遺跡の雄大さを称える歌でも……。おお~!! 果てしなく続く遺跡、多くの民の胃を満たし、アーランの繁栄を支える~」
「うわーっ、流石に閉鎖空間の遺跡だと響くなあ! おいブレッド、歌うな歌うな! 遺跡内で歌うのは禁止だ! 歌っていいところまで来たら教えてやるあから!」
「おや? 歌っていいという場所なんてあるのかい?」
「周囲が土に囲まれた環境がある。農園とかな。そこでは土が音を吸収するから歌っても構わないんだ」
「なるほどぉー!! みどもは今、身の内から湧き上がる感動を表現したくて仕方ない! 土のあるところを案内して欲しい~!」
「任せろ。まずはドロテアさんが発見された謎のカプセルがあった地区に……」
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賑やかなブレッドを連れて、僕は遺跡の中を行脚するのだった。
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