俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
296 / 337
98・吟遊詩人、遺跡へ行く

第296話 遺跡の中で歌うな

しおりを挟む
 途中、油でツルーっと滑って加速。
 馬の歩行と同じくらいの勢いで遺跡に向かった。

 ブレッドはサテュロスという種族上、なかなかの健脚らしい。

「ほっほっほっほっほっ」

 とか言いながら僕の移動についてくる。
 体力もあるな。
 伊達にたくさん食うわけではないのだ。

 世界を一人で旅する吟遊詩人だから、体力や逃げ足は重要だろうしな。
 伝説と呼ばれるまで生き残ってきた以上、ブレッドがただのうるさい大飯ぐらいなはずがないのだ。

「いやはや! あんたは頭脳派の英雄だと思ってたら、案外動けるんだなあ!」

「そりゃあもちろん。僕は基本的にソロ冒険者だったからね。一人でなんでも出来なければ話にならなかったのだ」

 ソロでなくなったのは、いつくらいからだったかなあ。
 長い事やっていると、人付き合いやしがらみが増えていくものだ。

 まあ、それも悪くないと今は思える。
 得たものがとにかく多かったからな。

「おおーっ! 一人世界を行く~! 英雄ナザル~! その目は未来の美食に注がれ~! 孤独は出会う料理へのスパイス~!」

「走りながらよく歌うなー!」

「こんなもの、走ってる内に入らないからね!」

「いいだろう。スピードアップするぞ!」

 僕は油の上での疾走を開始した。
 スピードスケートみたいな速度になるぞ。
 道行く人々を上手く回避しなければならないから、そこが腕の見せどころだ。

 道路を疾走し、壁に飛び移り、油をレールにして滑りながら走る。
 その後ろと、ダダダダダダダダダッ!と凄い勢いでブレッドが追いかけてくるのだ。

「やるなあ!」

「はっはっは! みどもらサテュロスは、馬と同じ速度で走れるからね! 体力も食べてさえいれば無尽蔵! 弱点は腕力がなくて欲望の我慢が効かないことだけ! どうだ参ったか!」

 がはははは、と笑うブレッドが、途中でトコトコやって来ていた大型の馬車にズドーンとぶつかった。

「ウグワーッ!」

「ウグワーッ!」

「ひひーん!」

 おっと、これは大惨事ではないか!?
 と思ったが、ちっこいブレッドの突撃では馬車はぐらぐら揺れた程度。
 さらに、頑丈なサテュロスは馬車の下をくぐり抜け、すぐに僕へ合流してきた。

「いやあ……やるもんだなあ」

「はっはっは!」

 これは素直に見直した。
 サテュロスの身体能力と言うか、ブレッドという男の凄さを思い知った気分だ。

 何があっても止まらないぞ、吟遊詩人。

 こうしてアーランの門までやって来た。
 門番たちは、猛烈な勢いでやってくる僕らに目を丸くしていたが……。

「なんだ、ナザルさんか」「ナザルさん、馬に乗らないと危ないですよ。主にナザルさんの速度がありすぎて他の人が危ない」

「いやあ申し訳ない。ちょっと吟遊詩人と一緒に走っていたら勢いがついてしまって……」

「吟遊詩人?」

「みどもだよ!」

 ピョーンと飛び跳ねるブレッド。
 流石に肩で息をしている。
 トップスピードでしばらく走ったからな。
 ここからは走る必要がないぞ。

「あっ、この間入国したサテュロス!」「吟遊詩人だったんだ」

「王命を受けて、このナザルの叙事詩を書くべく取材をしているんだ!」

「へえー!!」「それは聞きたい! 頑張ってくれよー!」

「おう!! 楽しみにしててな!」

 まあ、自分のことでなければ楽しみだろうな。
 僕も他人の英雄譚だったら楽しみだよ。

 さて、ここから一旦坂道を降って、ターン。
 アーランへと登っていく道の隣に、遺跡への入口が大きく開いているのだ。

 どれくらい広いかと言うと、超大型馬車が二台すれ違えるサイズ。
 
「ははあ、ここからはまったく奥が見通せないなあ……。噂に聞くと恐ろしく広いらしいけど」

「アーランよりも広いんだから当然だ。中には、遺跡から一年中出てこない職人もざらにいるんだぞ」

「ひえーっ! ずっと穴蔵の中とか、息が詰まってしまわないのかい!?」

「詰まらないんだなあ、それが!」

 一歩中に入ってしまうと、遺跡内部の強烈な明るさにブレッドが驚く。

「うわあーっ! 遺跡の中に! 穴の中に空がある!!」

「そういうことだ。天井が特殊な構造になってて、あちこちで青空が映し出されているんだ。しかも謎のパワーで、太陽の光をそのままここまで送り届けてきている」

「なんだそれ……!? ほぼ外じゃん!!」

「外の風は入ってこないが、遺跡内部で空気が対流を起こしてるからな。換気も常に行われている。誰がどういう意図でこんな凄いものを作ったのか誰も分からないんだけどな」

「はあ~! あまりのすさまじいスケール感にクラクラしてくる~!! ここは一曲、遺跡の雄大さを称える歌でも……。おお~!! 果てしなく続く遺跡、多くの民の胃を満たし、アーランの繁栄を支える~」

「うわーっ、流石に閉鎖空間の遺跡だと響くなあ! おいブレッド、歌うな歌うな! 遺跡内で歌うのは禁止だ! 歌っていいところまで来たら教えてやるあから!」

「おや? 歌っていいという場所なんてあるのかい?」

「周囲が土に囲まれた環境がある。農園とかな。そこでは土が音を吸収するから歌っても構わないんだ」

「なるほどぉー!! みどもは今、身の内から湧き上がる感動を表現したくて仕方ない! 土のあるところを案内して欲しい~!」

「任せろ。まずはドロテアさんが発見された謎のカプセルがあった地区に……」

「そこは明らかに響いて歌えないところ!! いや、だけど気になる! 見たい~!!」

 賑やかなブレッドを連れて、僕は遺跡の中を行脚するのだった。

 
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...