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98・吟遊詩人、遺跡へ行く
第298話 農園歌唱パーティ
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遺跡は第一層だけでも広大だ。
もしかして時空が歪んでる? と思うくらいに空間が広がっているのだ。
麦畑がどこまでもあり、広い通路を挟んで向こう側は野菜畑。
「おお~!! 雄大なる麦畑~! ここが遺跡の中とかちょっと冗談がきついんじゃないか~! 広すぎるだろおかしいって~!!」
「ブレッドの歌声が聞こえてくる。あいつ、歌いながら突っ込むのな」
案外常識がある男なのかも知れない。
麦畑に向かっていくと、職人たちの休憩時だったらしい。
みんなワイワイと集まり、ブレッドが突っ込む歌を聞いていた。
「うめえもんだなあ!」「やるなあ吟遊詩人!」「こりゃあ畑の端まで声が届いちまうかもなあ!」
やんややんやの大盛りあがりだ。
そりゃあ、伝説の吟遊詩人みたいな男なのだ。
聴き応えがある歌に決まっている。
職人たちの昼飯が終わるまでの間、僕は後ろで聞いていることにした。
聴衆が集まってきて乗りに乗ったブレッドが、朗々と歌い上げる。
おっ、今度は定番の叙事詩だ。
これは職人たちも知っていたと見えて、ウワーッと盛り上がった。
知らない曲より、知ってる曲がいいもんなあ。
なんかおひねりがバンバン飛んでくる。
遺跡の中では、それぞれの階層の中心にある市場くらいしか使える場所がないもんな。
「どうもどうも! 皆様! どうも! みどもの歌を聞いてくれてありがとう! おひねりもありがとう!」
大体一時間くらいのライブが終わったな。
職人たちも大満足で仕事に戻っていく。
いい気分転換になったことであろう。
「ブレッドー」
「うおわーっ!!」
せっせとおひねりを拾い集めていたブレッドは、背後から声を掛けたらピョーンと飛び上がった。
「なんだあんただったか! いやあびっくりした。おや? なんでみどもはナザルに声を掛けられてびっくりしているんだ……?」
すっかり忘れてしまったようだな……。
「まあ、ここでちょっと飯を食っていこうじゃないか。あ、奥さんどうも、ナザルです。お弁当まだありますか? え? ある? ありがたく頂戴します」
「うおっ! ぬるっと現場の奥様方の中に入り込んだ! まさに油使いとはこれだなあ……」
ブレッドが感心している。
奥様方はいつも、ちょっと多めにお弁当を作ってくるのだ。
それをちょっと分けてもらう。
こちらからはブレッドの歌声をプレゼントしたわけだからな。
もらったお弁当は、いわゆるフランスパンみたいなやつをザックリ真っ二つに切り、そこにチーズと卵焼きと生野菜を挟んだやつだ。
野菜たっぷりサンドイッチ!
こりゃあ健康的だぞ。
ブレッドと二人分を確保し、二人で麦畑を眺めながら食った。
美味い!
味付けはシンプルに塩とビネガーだけ。
ギルボウが開発したマヨネーズも、そろそろ遺跡まで出回ることだろう。
主に調理法を広めるようにしているから、奥様方が自家製マヨネーズをガンガン使うようになってくることであろう。
マヨネーズはその気になればあらゆる調味料を代用できるからな……。
だがこのシンプル味付けサンドイッチ、美味い。
温かいお茶ももらったので、これもグビグビ飲む。
ブレッドも、サンドイッチをガツガツ食べていた。
「歌うと腹が減るからね! うまーい!! お茶ももらえるの!? ありがたーい!!」
結局僕がサンドイッチ二本、ブレッドが三本食べて満腹となった。
奥様方に礼を言い、その足で麦畑を見て回る。
この畑はとにかく広い。
アーランの民の腹を満たす麦が実っているのだ。
そりゃあ広いに決まっている。
僕がアーランに来た頃には、既に存在していた麦畑だ。
それが、この国に民が増えるたびに拡張されていき、どこまでもどこまでも果てしなく続くような畑になった。
働いている職人たちの数だけでも、さっき集まってきたのが数十人。
その十倍以上はいるはずだ。
さらに彼らの家族を含めて、麦畑は千人ほどが働き、暮らしている。
お向かいの野菜畑はその半分ほどだから、すごい数だと言えよう。
アーランが今、全住民数で二万人くらいか……?
その5%が麦畑で働いていると考えると、とんでもない規模なのが分かると思う。
「いわゆる、他の国ならば郊外に広がっているはずの麦畑と村落が、アーランではすぐ足元の遺跡の中に存在しているわけだ。そして遺跡の中そのものも経済圏になってる」
「ほうほうほう!」
軽く麦畑を見て回った後、ブレッドを伴って第一階層の市場に向かうことにした。
「こっちに、採れたて野菜や麦が遺跡で消化される分が並んでいてな」
「全部を出荷しているわけじゃないんだなあ」
「それだとみんなが食う分がなくなっちゃうだろ。ちゃんと自分たちの分を確保したうえで、出荷してるんだ。ここでは遺跡の中で消費されるパンをずっと焼いている工房とかもあるぞ」
「ほほー!! みどもが知らない世界! ナザルは詳しいなあ……!」
「遺跡暮らしが数ヶ月あったからね。さらに僕は遺跡第三層の半分と第四層全てを所有する大地主でもある……」
「うほー!!」
「改めて話してて、自分がとんでもない規模の土地を所有してることを理解したぞ。一国に匹敵、凌駕するじゃないか。そりゃあ爵位が与えられるわ」
納得する僕なのだった。
さて、ブレッドはこんなもんで満足だろうか?
もしかして時空が歪んでる? と思うくらいに空間が広がっているのだ。
麦畑がどこまでもあり、広い通路を挟んで向こう側は野菜畑。
「おお~!! 雄大なる麦畑~! ここが遺跡の中とかちょっと冗談がきついんじゃないか~! 広すぎるだろおかしいって~!!」
「ブレッドの歌声が聞こえてくる。あいつ、歌いながら突っ込むのな」
案外常識がある男なのかも知れない。
麦畑に向かっていくと、職人たちの休憩時だったらしい。
みんなワイワイと集まり、ブレッドが突っ込む歌を聞いていた。
「うめえもんだなあ!」「やるなあ吟遊詩人!」「こりゃあ畑の端まで声が届いちまうかもなあ!」
やんややんやの大盛りあがりだ。
そりゃあ、伝説の吟遊詩人みたいな男なのだ。
聴き応えがある歌に決まっている。
職人たちの昼飯が終わるまでの間、僕は後ろで聞いていることにした。
聴衆が集まってきて乗りに乗ったブレッドが、朗々と歌い上げる。
おっ、今度は定番の叙事詩だ。
これは職人たちも知っていたと見えて、ウワーッと盛り上がった。
知らない曲より、知ってる曲がいいもんなあ。
なんかおひねりがバンバン飛んでくる。
遺跡の中では、それぞれの階層の中心にある市場くらいしか使える場所がないもんな。
「どうもどうも! 皆様! どうも! みどもの歌を聞いてくれてありがとう! おひねりもありがとう!」
大体一時間くらいのライブが終わったな。
職人たちも大満足で仕事に戻っていく。
いい気分転換になったことであろう。
「ブレッドー」
「うおわーっ!!」
せっせとおひねりを拾い集めていたブレッドは、背後から声を掛けたらピョーンと飛び上がった。
「なんだあんただったか! いやあびっくりした。おや? なんでみどもはナザルに声を掛けられてびっくりしているんだ……?」
すっかり忘れてしまったようだな……。
「まあ、ここでちょっと飯を食っていこうじゃないか。あ、奥さんどうも、ナザルです。お弁当まだありますか? え? ある? ありがたく頂戴します」
「うおっ! ぬるっと現場の奥様方の中に入り込んだ! まさに油使いとはこれだなあ……」
ブレッドが感心している。
奥様方はいつも、ちょっと多めにお弁当を作ってくるのだ。
それをちょっと分けてもらう。
こちらからはブレッドの歌声をプレゼントしたわけだからな。
もらったお弁当は、いわゆるフランスパンみたいなやつをザックリ真っ二つに切り、そこにチーズと卵焼きと生野菜を挟んだやつだ。
野菜たっぷりサンドイッチ!
こりゃあ健康的だぞ。
ブレッドと二人分を確保し、二人で麦畑を眺めながら食った。
美味い!
味付けはシンプルに塩とビネガーだけ。
ギルボウが開発したマヨネーズも、そろそろ遺跡まで出回ることだろう。
主に調理法を広めるようにしているから、奥様方が自家製マヨネーズをガンガン使うようになってくることであろう。
マヨネーズはその気になればあらゆる調味料を代用できるからな……。
だがこのシンプル味付けサンドイッチ、美味い。
温かいお茶ももらったので、これもグビグビ飲む。
ブレッドも、サンドイッチをガツガツ食べていた。
「歌うと腹が減るからね! うまーい!! お茶ももらえるの!? ありがたーい!!」
結局僕がサンドイッチ二本、ブレッドが三本食べて満腹となった。
奥様方に礼を言い、その足で麦畑を見て回る。
この畑はとにかく広い。
アーランの民の腹を満たす麦が実っているのだ。
そりゃあ広いに決まっている。
僕がアーランに来た頃には、既に存在していた麦畑だ。
それが、この国に民が増えるたびに拡張されていき、どこまでもどこまでも果てしなく続くような畑になった。
働いている職人たちの数だけでも、さっき集まってきたのが数十人。
その十倍以上はいるはずだ。
さらに彼らの家族を含めて、麦畑は千人ほどが働き、暮らしている。
お向かいの野菜畑はその半分ほどだから、すごい数だと言えよう。
アーランが今、全住民数で二万人くらいか……?
その5%が麦畑で働いていると考えると、とんでもない規模なのが分かると思う。
「いわゆる、他の国ならば郊外に広がっているはずの麦畑と村落が、アーランではすぐ足元の遺跡の中に存在しているわけだ。そして遺跡の中そのものも経済圏になってる」
「ほうほうほう!」
軽く麦畑を見て回った後、ブレッドを伴って第一階層の市場に向かうことにした。
「こっちに、採れたて野菜や麦が遺跡で消化される分が並んでいてな」
「全部を出荷しているわけじゃないんだなあ」
「それだとみんなが食う分がなくなっちゃうだろ。ちゃんと自分たちの分を確保したうえで、出荷してるんだ。ここでは遺跡の中で消費されるパンをずっと焼いている工房とかもあるぞ」
「ほほー!! みどもが知らない世界! ナザルは詳しいなあ……!」
「遺跡暮らしが数ヶ月あったからね。さらに僕は遺跡第三層の半分と第四層全てを所有する大地主でもある……」
「うほー!!」
「改めて話してて、自分がとんでもない規模の土地を所有してることを理解したぞ。一国に匹敵、凌駕するじゃないか。そりゃあ爵位が与えられるわ」
納得する僕なのだった。
さて、ブレッドはこんなもんで満足だろうか?
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