俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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99・歌が出来た

第299話 吟遊詩人がコゲタについていった

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「いってきまーす!」

「ではみどもは最後の仕上げにコゲタに密着……」

「なんでコゲタに目をつけたんだ……?」

「英雄ナザルの周囲にコボルドの影あり! みどもはこのコゲタこそがナザルのモチベーションの元であると考えたのだ!」

「鋭い……!!」

 この吟遊詩人、あまりにも有能かも知れない。
 今まで誰も見抜くことが出来なかった、僕のコゲタに対する情熱を正確に理解しているのだ!

「いや、普通に君はコゲタをベタベタに愛してるから、誰からも分かるぞ」

「なんだって!?」

「おっとコゲタが行ってしまった! ではみどもも!!」

 ビューンと走っていくブレッドなのだった。
 あいつ、別に我が家の一員でもないのに、この一ヶ月くらいうちに居座っているのですっかり馴染んでしまったな……。

 家でまったりしていたら、ポーターがパカポコ戻ってきた。

「コゲタを送ってくれてありがとうなポーター」

「ぶるるー」

「最近どう? 馬房の隣でずっとサテュロスが爆睡してるじゃん。うるさかったりしない? いや、夜中に歌ってる音もしないから大丈夫だよな」

「ぶるー」

 ポーターとしては、ブレッドは善き隣人らしい。
 ポーターのお世話役として雇われているお世話役も、「いやあ、彼はむしろ手伝ったりしてくれますよ。よく馬小屋で満足してますよねえ、たくましい」とのこと。

 屋根と壁があるだけで割と大満足らしい。
 足るを知る男、ブレッド。

 そんな、我が家に様々な衝撃をもたらしてきた……いや、主に僕にだけ衝撃をもたらしたあいつも、もうじきおさらばである。
 たくさんの題材を得て、明日には我が家を発つらしい。
 そしてついに、ナザル叙事詩の制作に掛かるのだという。

 頑張ってほしい。
 いや、別に頑張らなくてもいい。

「うむむ、そろそろお腹が目立ってきた気がする。初体験だ」

 リップルが唸っている。
 確かにお腹の中の赤ちゃんが育っているのを感じるな。

 放って置くと家の中でずっと寝てたり、読書をしてたりする彼女だ。
 僕が促さないと出かけない。

「行くぞ行くぞ行くぞ。今日の散歩だぞ」

「うげー、行かなきゃいけないのかい? ゴロゴロしてたらいけないのかい?」

「赤ちゃんのためによくないだろう。たっぷり食ってるんだからそれなりに動かねば!」

「ひー」

 悲鳴を上げるリップルの背中を押し、僕は貴族街をともに散歩するのである。
 彼女を歩かせて家に帰ったら、お手伝いさんが作った弁当をゲットしてその足で遺跡へ。

 ちょっと様子を見て、進捗なんかを確認するともう夕方である。
 バリバリ作業をし、遅れている進捗については計画変更などをバリバリ行っていると、いつの間にか職人の娘たちが差し入れなどをしてくる。

「ナザル様、一晩泊まって行かれたらいかがです?」「そうですよー。わたしたちで歓待しますから」「好きにしてくださって構わないのに」

「ぎえーっ、まだ誘惑してくる! 僕はそっち方面の欲望は弱いのだ! それに子どもができるというのに浮気をするバカがどこにいるか」

 仕事をサッと片付けると、猛烈な速度で職場を立ち去る僕なのだった。
 なお、この姿は職人たちから大いに評価されているようだ。

「美食伯はあれほどの地位を得ていらっしゃるのに、偉ぶらずに自らの手を汚すことをいとわず仕事をなさる」「望めばさらなる地位も、金も女も手に入るというのに……。ただひたすらに美食の素材が揃うように欲を捨てて励む様はまさに聖人」「あのお方には勝てねえなあ……」

 僕はただ、安定して美味いものが食いたいだけなのだ!!
 さて、欲望を置き去りにする速度で、油使いはぬるりと帰宅する!

 そろそろ職人の娘たちを立ち入り禁止にするか……?
 いや、若い職人たちとのお見合いパーティを開催するべきだろうな。
 そっちの計画を立てて、僕の身の安全を確保しておこう。

 帰宅すると、コゲタとブレッドも戻って来た後だった。

「牧歌的な冒険! カッパー級になればまた別だろうけどねー。でも良い題材になったよ! なんとなくナザルが大事にしてるものが見えてきたかも」

 この曖昧なイメージで、ブレッドには十分。
 たくさんのデータを己のものにしたことで、そこから彼なりの叙事詩のビジョンを導き出すのだろう。

 彼はガツガツガツーと食事を済ませると、そのまま馬小屋に飛び込んで寝てしまった。
 よく食べ、よく寝て、よく作品を作る。
 どんな歌が出来てくるのやら。

 こうして翌日の朝。
 馬小屋にブレッドの姿は無かった。

 朝飯も食わず、吟遊詩人は旅立ってしまったらしい。
 一ヶ月に渡る取材を終え、ついに歌の作成に取り掛かる。

 どれくらい掛かるのかは分からないが……どうあっても僕はまた有名になってしまうことだろうな。
 恐ろしい恐ろしい。

「むっ!! お腹の中で蹴ってきたぞ。この子は好戦的かも知れない」

 リップルがよく分からないことを言っている。
 僕の意識は、これから生まれてくる子供のことでいっぱいになった。

 歌なんか出来た時に反応すればいい話だ。
 今はいかにリップルを健康的な状態のまま、出産まで持っていくかだぞ……!

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