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雌ネズミの退治
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「このお邸の話は、あなたなんかじゃ話にならないでしょう! あたしの部屋で聞いてもらうのは、料理長の事だけでいいの! も~~ぅ、何なのよ! このお邸はケビン様のものなの。だから、ケビン様の子どもを妊娠している、あたしのものでしょう! まさか『あの女のもの』だ、とか言わないでしょうね」
デルフィーと執事の固まった表情も気付かないほど、気が高ぶったエリカ。
確か彼女は泣きながら入室してきたはず。
でも、今は哀れな女性の姿はどこにも見当たらなかった。
発狂するエリカが発した言葉。
執事は、エリカが当主に向かって「あんた」と、わめいていることに内心、冷や冷やしていた。
そんな執事は、女という生き物は「何も分かってない」と呆れていた。
でも、デルフィーの表情を一瞬で凍り付かせたのは「あの女」と、口に出したことだった。
彼の心は、完全に定まった。
お腹の大きくなったエリカを、侯爵家がお金も渡さずに追い払う。
そんなことに対して、ほんの僅かながら不憫に思ったデルフィー。
でも、そんな彼も、どこかへ行ってしまった。
「困りましたね。まずは、私では役者不足の後継者の件は一先ず置いておきましょう。だから、別の話をエリカさんの部屋でしませんか? 2人っきりで、ゆっくりと」
彼は自分の心を必死に抑えて、嘘くさい笑顔を作っていた。
おそらく、彼の事をよく知るアベリアが見れば、気味悪がる笑顔を向けていた。
「えっ、あっ。そうね。一刻も早く、あの料理長を追い出して貰わないと、安心して暮らせないわ。さあ、行きましょう、うふふ」
デルフィーの腕を掴んで、嬉しそうに執事の部屋を後にした。
ーーーー
「やっぱり従兄弟は、女の趣味が一緒なのか? こんな時に何を考えているんだか……」
1人部屋に残された執事が、何が起きているのか訳も分からず呟いていた。
部屋の中へ案内され、繁々と彼女の部屋にあるものを見るデルフィー。
「ふっっ」
彼は、思わず吹き出しそうになったのを堪えた。
彼の愛しい人が持っていた本物を見た彼には、目の前にあるドレスは、子どものお遊戯で着る衣装にしか見えなかったから。
エリカが「自分だけに話したい」と、部屋へ彼を誘った理由も想像がついていた。
エリカがアベリアへ嫌がらせをするために、今の自分のように、料理長を誘ったのだろう。
「こっちに座って」
「いえ、私なんかはこのままで結構です」
「そう」
エリカが座る事を促したソファーへ、座る気にもなれないデルフィー。そのまま立って話を聞いていた。
「ところで、料理長とは何があったんですか?」
「あー。あのね。ケビン様が亡くなって、食べ物が喉を通らなくて。それで、心配した料理長が来てくれたんだけど(ぐすっ)。そうしたら、急に(ぐすっ)、料理長があたしのことを押し倒して……(ぐすっ)。やっぱり、恥ずかしい。あなただったら、言えるかと思ったんだけど、この先は言えない」
デルフィーは、次に言って欲しい言葉は分かっていた。
でも、不愉快過ぎて、その続きは気にならなかった。
正直なところ、エリカの口から出てくる話は、嘘か本当かもわからない。
それでも、これ以上彼女の話を聞く気にはなれなかった。
エリカと料理長の関係など、デルフィーにはどうでもいい事だった。
「わかりました。料理長の事は、私から彼に直接確認します。それと、あなたは今すぐこの邸を出て行ってください」
「はぁ、何よ急に。あなたにそんな権利も無いし、出ていく必要も無いんだから」
急に涙が枯れたエリカは、目をつりあげて怒り出していた。
「この邸の当主が、あなたに出ていくよう命令しているんです。だまって従ってください。もちろん『何も持たずに』とは言いません。この部屋のもの全てをあなたへお渡しします。相当な量のドレスや装飾品もあるようですし、生活に使ってください」
「帰る家なんてないもん、いやよ」
「そうですか。では、あなたが画策した何かが見つかって、何も持たずに出て行くことにならないよう祈る事ですね」
そう言って、デルフィーは扉へ向かう。
「何もして無いから、出て行かないわよ」
「あー伝えるのを忘れてました。……くれぐれも、赤い花の球根にはご注意ください」
そう言い残し、部屋を後にした。
翌日の朝、エリカの部屋はもぬけの殻だった。そして、この邸でその姿を見る事は2度となかった。
デルフィーと執事の固まった表情も気付かないほど、気が高ぶったエリカ。
確か彼女は泣きながら入室してきたはず。
でも、今は哀れな女性の姿はどこにも見当たらなかった。
発狂するエリカが発した言葉。
執事は、エリカが当主に向かって「あんた」と、わめいていることに内心、冷や冷やしていた。
そんな執事は、女という生き物は「何も分かってない」と呆れていた。
でも、デルフィーの表情を一瞬で凍り付かせたのは「あの女」と、口に出したことだった。
彼の心は、完全に定まった。
お腹の大きくなったエリカを、侯爵家がお金も渡さずに追い払う。
そんなことに対して、ほんの僅かながら不憫に思ったデルフィー。
でも、そんな彼も、どこかへ行ってしまった。
「困りましたね。まずは、私では役者不足の後継者の件は一先ず置いておきましょう。だから、別の話をエリカさんの部屋でしませんか? 2人っきりで、ゆっくりと」
彼は自分の心を必死に抑えて、嘘くさい笑顔を作っていた。
おそらく、彼の事をよく知るアベリアが見れば、気味悪がる笑顔を向けていた。
「えっ、あっ。そうね。一刻も早く、あの料理長を追い出して貰わないと、安心して暮らせないわ。さあ、行きましょう、うふふ」
デルフィーの腕を掴んで、嬉しそうに執事の部屋を後にした。
ーーーー
「やっぱり従兄弟は、女の趣味が一緒なのか? こんな時に何を考えているんだか……」
1人部屋に残された執事が、何が起きているのか訳も分からず呟いていた。
部屋の中へ案内され、繁々と彼女の部屋にあるものを見るデルフィー。
「ふっっ」
彼は、思わず吹き出しそうになったのを堪えた。
彼の愛しい人が持っていた本物を見た彼には、目の前にあるドレスは、子どものお遊戯で着る衣装にしか見えなかったから。
エリカが「自分だけに話したい」と、部屋へ彼を誘った理由も想像がついていた。
エリカがアベリアへ嫌がらせをするために、今の自分のように、料理長を誘ったのだろう。
「こっちに座って」
「いえ、私なんかはこのままで結構です」
「そう」
エリカが座る事を促したソファーへ、座る気にもなれないデルフィー。そのまま立って話を聞いていた。
「ところで、料理長とは何があったんですか?」
「あー。あのね。ケビン様が亡くなって、食べ物が喉を通らなくて。それで、心配した料理長が来てくれたんだけど(ぐすっ)。そうしたら、急に(ぐすっ)、料理長があたしのことを押し倒して……(ぐすっ)。やっぱり、恥ずかしい。あなただったら、言えるかと思ったんだけど、この先は言えない」
デルフィーは、次に言って欲しい言葉は分かっていた。
でも、不愉快過ぎて、その続きは気にならなかった。
正直なところ、エリカの口から出てくる話は、嘘か本当かもわからない。
それでも、これ以上彼女の話を聞く気にはなれなかった。
エリカと料理長の関係など、デルフィーにはどうでもいい事だった。
「わかりました。料理長の事は、私から彼に直接確認します。それと、あなたは今すぐこの邸を出て行ってください」
「はぁ、何よ急に。あなたにそんな権利も無いし、出ていく必要も無いんだから」
急に涙が枯れたエリカは、目をつりあげて怒り出していた。
「この邸の当主が、あなたに出ていくよう命令しているんです。だまって従ってください。もちろん『何も持たずに』とは言いません。この部屋のもの全てをあなたへお渡しします。相当な量のドレスや装飾品もあるようですし、生活に使ってください」
「帰る家なんてないもん、いやよ」
「そうですか。では、あなたが画策した何かが見つかって、何も持たずに出て行くことにならないよう祈る事ですね」
そう言って、デルフィーは扉へ向かう。
「何もして無いから、出て行かないわよ」
「あー伝えるのを忘れてました。……くれぐれも、赤い花の球根にはご注意ください」
そう言い残し、部屋を後にした。
翌日の朝、エリカの部屋はもぬけの殻だった。そして、この邸でその姿を見る事は2度となかった。
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