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『勇者の花嫁』から『魔王の花嫁』へ(1)
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魔王が帰るなら、当然魔王城なわけで。
地面に降り立ったギルガディス――ギルに抱えられたまま、私は古城の前庭を見回した。
蠢く植物の蔦に覆われた、如何にもな外観。蔦には幾つかラフレシアのような花が咲いており、その花たちが一斉にこちらを見てくる。
(うわぁ……これ絶対、意思がある奴)
カシムの魔の手から救ってくれたギルは良い人そう(人じゃないけれど)ではあるが、配下の魔物もそうとは限らない。目下のところそこの花々が、ギルから離れたが最後、襲ってきそうな気がする。
「食人蔦たちも、サラに興味津々みたいだな」
『食人』て言った。『食人』て言ったよ。
「人を、食べるんですか」
「好むのは虫だけどな。身の危険を感じれば、必要に応じてそうする」
「身の危険……」
それは直接的なもののみだろうか。それとも魔王が誑かされていると判断された場合もだろうか。その辺の判定基準を詳しく知りたい。
というのも実はこの道中、彼のことを『ギルガディス』と呼び捨ててしまったのだ。
ゲームだと、魔王に限らず王子でも神でもキャラ名そのままで呼んでしまうよね。あのノリでつい言ってしまった。
勿論、口から出た瞬間に「あ、しまった」とは思って、様付けで言い直した。そうしたら「ギルだ」と訂正され、「はい、ギル様」と答えれば、さらに「ギル。様は要らない」と再度駄目出しを食らった。
よって恐れ多くも私は今、魔王のことを『ギル』と呼んでいる。
これ、許容範囲ですかね? 魔王本人からの要望なんですが。そこんところどうなんでしょう、食人蔦さん……。
「お、シナレフィーだ」
ギルが私を抱えたままで歩き出す。彼は城の入口から現れた青年に、「帰ったぞ」と声を掛けた。
腰まである紫の髪を揺らしながら、青年が「お帰りなさいませ」と寄ってくる。文官系なのだろうか、知的な美形という印象を受ける。
「人間ですね?」
ギクリ
傍まで来た青年の第一声に、私は思わず身を強張らせた。
無表情かつ抑揚のない声。琥珀色の瞳で私を見下ろしながら、首を傾げる彼。
これは歓迎されていない。早速歓迎されていない。
「サラ、こいつは雷竜のシナレフィーだ」
「えっ、竜!」
竜ってそれ、絶対強い。今この状況を見て、「人間風情が」とか思っていそう。そして思って当然だから、寧ろこちらが申し訳ない。
「は、初めまして。沙羅、です」
それでも勇気を奮い立たせ、挨拶をする。『人間から挨拶されたところで不快だ』よりも、『人間ごときが無視をした』の方がやばそうなので、しておく。
「で、俺の嫁なんだ」
「!?」
え、どういうこと!? いや百歩譲って勝手に決めたとして、でも今それを言っちゃう? この雰囲気で言っちゃう?
「嫁?」
ギクギクッ
シナレフィーさんの声にまた硬直するも、彼は今度は私をスルーしてギルに尋ねた。
「会ったこともないのに俺に助けを求めていたんだ。だから間違いなく、俺の嫁だ」
得意顔のギルが、胸を張って答える。
胸に手まで当て、「どうだ」と言わんばかりである。
(すみません、それ適当に言っただけです!)
ギルの自信の根拠がそれとか。
私は心の中で謝罪した。
地面に降り立ったギルガディス――ギルに抱えられたまま、私は古城の前庭を見回した。
蠢く植物の蔦に覆われた、如何にもな外観。蔦には幾つかラフレシアのような花が咲いており、その花たちが一斉にこちらを見てくる。
(うわぁ……これ絶対、意思がある奴)
カシムの魔の手から救ってくれたギルは良い人そう(人じゃないけれど)ではあるが、配下の魔物もそうとは限らない。目下のところそこの花々が、ギルから離れたが最後、襲ってきそうな気がする。
「食人蔦たちも、サラに興味津々みたいだな」
『食人』て言った。『食人』て言ったよ。
「人を、食べるんですか」
「好むのは虫だけどな。身の危険を感じれば、必要に応じてそうする」
「身の危険……」
それは直接的なもののみだろうか。それとも魔王が誑かされていると判断された場合もだろうか。その辺の判定基準を詳しく知りたい。
というのも実はこの道中、彼のことを『ギルガディス』と呼び捨ててしまったのだ。
ゲームだと、魔王に限らず王子でも神でもキャラ名そのままで呼んでしまうよね。あのノリでつい言ってしまった。
勿論、口から出た瞬間に「あ、しまった」とは思って、様付けで言い直した。そうしたら「ギルだ」と訂正され、「はい、ギル様」と答えれば、さらに「ギル。様は要らない」と再度駄目出しを食らった。
よって恐れ多くも私は今、魔王のことを『ギル』と呼んでいる。
これ、許容範囲ですかね? 魔王本人からの要望なんですが。そこんところどうなんでしょう、食人蔦さん……。
「お、シナレフィーだ」
ギルが私を抱えたままで歩き出す。彼は城の入口から現れた青年に、「帰ったぞ」と声を掛けた。
腰まである紫の髪を揺らしながら、青年が「お帰りなさいませ」と寄ってくる。文官系なのだろうか、知的な美形という印象を受ける。
「人間ですね?」
ギクリ
傍まで来た青年の第一声に、私は思わず身を強張らせた。
無表情かつ抑揚のない声。琥珀色の瞳で私を見下ろしながら、首を傾げる彼。
これは歓迎されていない。早速歓迎されていない。
「サラ、こいつは雷竜のシナレフィーだ」
「えっ、竜!」
竜ってそれ、絶対強い。今この状況を見て、「人間風情が」とか思っていそう。そして思って当然だから、寧ろこちらが申し訳ない。
「は、初めまして。沙羅、です」
それでも勇気を奮い立たせ、挨拶をする。『人間から挨拶されたところで不快だ』よりも、『人間ごときが無視をした』の方がやばそうなので、しておく。
「で、俺の嫁なんだ」
「!?」
え、どういうこと!? いや百歩譲って勝手に決めたとして、でも今それを言っちゃう? この雰囲気で言っちゃう?
「嫁?」
ギクギクッ
シナレフィーさんの声にまた硬直するも、彼は今度は私をスルーしてギルに尋ねた。
「会ったこともないのに俺に助けを求めていたんだ。だから間違いなく、俺の嫁だ」
得意顔のギルが、胸を張って答える。
胸に手まで当て、「どうだ」と言わんばかりである。
(すみません、それ適当に言っただけです!)
ギルの自信の根拠がそれとか。
私は心の中で謝罪した。
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