魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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『嫁』と『契約』(3)

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 私を見下ろすギルの深い青の瞳に、釘付けになる。

「俺がお前と偶然出会って、お互い偶然助けられて。俺がお前を偶然好きになって、お前も偶然そう悪い気はしていなくて。別に全部、偶然でもいいじゃないか。俺は何も困らない」

 あっけらかんと言ったギルの、台詞に負けない清々しい表情に、私は呆けて彼を見つめた。
 次いで、彼の言葉がストンと私の胸に落ちる。
 それが『運命の相手』の条件なら、自分にも当て嵌まる。私も「彼を好きになった」ことには「困っていない」。
 ギルを好きだと思うことに、引け目を感じなくてもいい? 
 あ、何だか顔が熱くなってきた……。

「……いつの間にギルと契約をしたのか、全然わかりませんでした」

 ここは「私も好きです」と返すところだろうに。私の意気地なし!

「俺が先に名乗って、お前が名乗り返しただろう。魔王が先に名乗るのは、婚姻の時だけだ」

 まさかの、第一声が結婚宣言。
 確かに、大体は立場の偉い人が後から名乗るわけで。でもって魔王より立場が上というのは、いるとしても神くらいだろう。だとすると、なるほど。『魔王から先に』という行為は、特別感がある。

「そんなわけだから、これはデートなんだ。好きな女を誘っての、れっきとしたな」

 ギルが私を好きで、私もギルが好きで。そしてこれはデートという。

(これって、ギルと私は恋人同士と思っていい……?)

 ギルはまだ、私の頭をクシャクシャと撫でている。

(あれ、ちょっと待って)

 恋人同士……違う、そうじゃない。
 ギルは私に結婚の宣言をした。
 ギルは私を『嫁』呼びしている。
 私は――好きなギルと結婚してる!!(今更)

「魔物攫いの件も解決したし、今度少し遠出してみるか? 精霊の村あたり、また毛色が違って面白いかもな」

 心の整理で忙しくしていた私の耳に、ギルが余裕の態度で次のデートプランについて話を振ってくる。
 小憎たらしい。でもそこがまた格好いい!

「精霊の村ですか。幻想的な光景が見られそうですね」

 バクバク落ち着かなかった心臓は、今度はワクワクして弾みだした。私のツボを突きまくってくるギルに、いつか殺されるかもしれない。『キュン死』とか『萌え死』とか呼ばれる、あの死因で。

「サラは、本当は人間の街の方が楽しめるかもしれないけど……」
「いえ、精霊の村の方が行きたいです。人間の街は、珍しい品物は売ってるかもしれませんが、そういうのだと私が元の世界で外国に行ったのと大差ないと思うので」
「――そうか。サラは違う世界から来たわけだし、そこが重要か。うん、どうせならここでしかできないことを、させてやりたいよな」
「今日の『カルガディウム』観光も楽しめましたよ。ああいった様式の建築は、元の世界には無いので」
「へぇ、そんなところからして違うのか。それなら精霊の村も気に入ると思うぞ」

 ギルが心底嬉しそうに言う。
 彼の中で、精霊の村で喜んでいる私が見えたのかもしれない。

(この人は、私のことでそこまで嬉しいと思ってくれるんだ)

 『ここでしかできないことを、させてやりたい』。
 この世界と元の世界との一番の違い、それはギルがいるかいないかだ。

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