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プロローグ 転生したら悪役令嬢未満でした。(3)
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『あな届』は攻略対象が複数登場する乙女ゲームではあるが、原作はシリーズ化しているドラマCDという特徴を持つ。好みのキャラのCDだけ個別に購入できるスタイルで、話の流れはどれもヒロイン(モニカで固定)との出会いから結ばれるまでが描かれていた。
ゲーム化するにあたり、各攻略対象ごとに分かれていたそれらのストーリーが、全部入りで販売された形だ。ちなみに私はシリーズのCDを箱買いしていた。全巻購入特典であるCD収納ボックスの絵柄が、リヒト王子だったので。
――話を戻そう。
そんな背景がある乙女ゲームなものだから、オープニングが終わった直後に「誰のストーリーを見ますか?」という選択肢が出る。個別ストーリー中にも一応選択肢は出るものの、どれを選んでも反応が変わるだけで、好感度なるものは用意されていない。最初にストーリーを選んだキャラと必ず結ばれる、イージー仕様となっている。
例えばリヒト王子のストーリーを選んだ場合、他の攻略対象が出てくることはあってもCDのときと同じく完全に脇役としての登場となる。ヒロインとの仲を応援することはあっても、邪魔は一切してこない。三角関係なドロドロ展開には絶対にならない。
よって、今日、第二王子リヒトとの出会いイベントが起こったということは、必然的に私がいる世界はモニカとリヒト王子が結ばれる世界線ということになるのだ。リヒト王子は推しだっただけあって、何度もCDを聴いたしゲームもプレイしたので間違いない。
(あっ。ということは、今日の訪問がリヒト王子と二人で過ごせる最後のチャンスなんだわ)
今日の出会いをきっかけにリヒト王子はモニカと急速に仲を深め、三ヶ月後に二人は秘密の恋人関係になっているはず。推しがいる世界に転生したと思ったら、もう最後の晩餐だった……!
「こうしちゃいられないわ。――ミーナ!」
私は椅子から立ち上がり、再度彼女の名前を呼んだ。
物思いに耽っていた私が急にそうしたことで、心配顔でこちらを見ていた彼女が少し驚いたように「はい」と返事する。
「この後、リヒト王子が我が家にいらっしゃるのよね? 『陽だまり』という名の店のアップルパイを用意して。それを王子に召し上がっていただきたいの」
推しとの最後の晩餐に食べるというなら、絶対、推しの大好物に決まっている。
「その店は庶民の店なのだけど、そこは皆には黙っていて頂戴。お願いね」
国中の誰一人として、リヒト王子の大好物が庶民の店の食べ物とは夢にも思わないだろう。彼もお忍びでしか食べられないのか、噂でもそんな話は聞いたことがない。出処がわからないし言えない情報は、隠しておくに限る。
「かしこまりました。ではお嬢様の御仕度の方を、別の者に言いつけて参ります。失礼いたします」
前のめりな私に圧倒されてか、ミーナが普段とは違ったやや早口で言ってくる。実際、今からいつもは出向かないような場所まで買い物に行かねばならないのだ、それも数時間後にお茶請けとして出す品物を。それは確かに焦るだろう、申し訳ないことをしているとは思っている。
(でも、これは外せないの。今日しかチャンスがないのだから。ごめんなさいっ)
私は退室したミーナが閉めた扉に、合掌のポーズで謝罪した。
ゲーム化するにあたり、各攻略対象ごとに分かれていたそれらのストーリーが、全部入りで販売された形だ。ちなみに私はシリーズのCDを箱買いしていた。全巻購入特典であるCD収納ボックスの絵柄が、リヒト王子だったので。
――話を戻そう。
そんな背景がある乙女ゲームなものだから、オープニングが終わった直後に「誰のストーリーを見ますか?」という選択肢が出る。個別ストーリー中にも一応選択肢は出るものの、どれを選んでも反応が変わるだけで、好感度なるものは用意されていない。最初にストーリーを選んだキャラと必ず結ばれる、イージー仕様となっている。
例えばリヒト王子のストーリーを選んだ場合、他の攻略対象が出てくることはあってもCDのときと同じく完全に脇役としての登場となる。ヒロインとの仲を応援することはあっても、邪魔は一切してこない。三角関係なドロドロ展開には絶対にならない。
よって、今日、第二王子リヒトとの出会いイベントが起こったということは、必然的に私がいる世界はモニカとリヒト王子が結ばれる世界線ということになるのだ。リヒト王子は推しだっただけあって、何度もCDを聴いたしゲームもプレイしたので間違いない。
(あっ。ということは、今日の訪問がリヒト王子と二人で過ごせる最後のチャンスなんだわ)
今日の出会いをきっかけにリヒト王子はモニカと急速に仲を深め、三ヶ月後に二人は秘密の恋人関係になっているはず。推しがいる世界に転生したと思ったら、もう最後の晩餐だった……!
「こうしちゃいられないわ。――ミーナ!」
私は椅子から立ち上がり、再度彼女の名前を呼んだ。
物思いに耽っていた私が急にそうしたことで、心配顔でこちらを見ていた彼女が少し驚いたように「はい」と返事する。
「この後、リヒト王子が我が家にいらっしゃるのよね? 『陽だまり』という名の店のアップルパイを用意して。それを王子に召し上がっていただきたいの」
推しとの最後の晩餐に食べるというなら、絶対、推しの大好物に決まっている。
「その店は庶民の店なのだけど、そこは皆には黙っていて頂戴。お願いね」
国中の誰一人として、リヒト王子の大好物が庶民の店の食べ物とは夢にも思わないだろう。彼もお忍びでしか食べられないのか、噂でもそんな話は聞いたことがない。出処がわからないし言えない情報は、隠しておくに限る。
「かしこまりました。ではお嬢様の御仕度の方を、別の者に言いつけて参ります。失礼いたします」
前のめりな私に圧倒されてか、ミーナが普段とは違ったやや早口で言ってくる。実際、今からいつもは出向かないような場所まで買い物に行かねばならないのだ、それも数時間後にお茶請けとして出す品物を。それは確かに焦るだろう、申し訳ないことをしているとは思っている。
(でも、これは外せないの。今日しかチャンスがないのだから。ごめんなさいっ)
私は退室したミーナが閉めた扉に、合掌のポーズで謝罪した。
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