第二王子に転生したら、当て馬キャラだった。

秋元智也

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覚醒編

25話 負けた事で学べる事

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アスラはジェイムスを煽ると、わざと自分の実力
があるように言ってくる。

「ここって決闘場もあるんだろ?そこでやってみ
 ようぜ?どうせ、他者の実力も測れないんだろ」

「分かった、ルイスの前で俺が負けるわけがない
 がな」

ジェイムス兄さんも、かなりの負けず嫌いだ。

「それじゃ~、いっそ賭けをしないか?もし俺が
 勝ったら」

「お前が勝つことなど一塁もない」

「ならいいだろう?1日俺にルイスをくれよ。」

一瞬、耳を疑った。
どうしてそうなった?

いやいや、本人の知らぬところでそんな景品みた
いにされても困る。

「分かった、いいだろう。ただし、俺が勝ったら
 …今後一切ルイスに話しかけるな!いいな?」

「おっけ~、おっけ~、じゃ~やろっか!」

軽いノリのアスラに、真剣な顔のジェイムス。
完全に弄ばれているようにしか思えなかった。


アスラの実力はジェイムスと比べるとお粗末なも
のだった。

決して洗練されているわけでもなければ、しっか
り習ったものではない。

だから荒削りな魔法や剣捌きなのだ。

だが。実践はかなり多い。
魔物や、対人戦に特化した動きはあきらかに慣れ
すぎていた。

「始めるか……」

「いつでもいい。かかってこい」

「それじゃ、行かせてもらおっかな~」

呑気な声とは裏腹に一気に距離を詰める。
そのまま足払いをかけると、地面に手を付き一回
転してから立ち上がる。

ジェイムスも少しよろけながらも体制を立て直す
と、反撃に入ろうとして足を止めた。

一瞬、何かを躊躇った。

何が?
とは分からない。
ただ、このまま前に出てはいけない気がしたのだ。

その隙をつくように懐に飛び込まれると、一気に
退き距離をとった。

「どうした?逃げてちゃ勝てないぞ?」

「誰が逃げてるって?お前なんか…ルイスに触れ
 させるか」

ムキになると、真っ直ぐに突っ込む癖がある。
その時、目の前に一瞬何かが掠めた。

さっき手をついた時に握った砂を顔に目掛けて
投げていたのだった。

こう言う実践で使える戦い方をジェイムスはも
っと知るべきだった。

どんな事をしても勝つ。

それがアスラの強さの秘訣だった。

彼は孤児院育ちで、いつもお腹を空かせて生き
てきた。
孤児院の経営者は町医者で、あまり裕福ではな
かった。

貴族相手の商売などできるはずもなく、庶民相
手に診療をするような人だった。

「勝つってこう言う事を言うんだぜ?」

そう言うと、思いっきり下から蹴り上げジェイ
ムスが倒れたのだった。

起き上がる前に首もとに剣を当ててくる。
ジェイムスが負けたのだと気づかざるを得ない
状況だった。

「………」

ゴクリと唾を飲み込んだ。

「俺の勝ちだな?ルイス、行こうぜ?」

「兄さんっ……大丈夫?怪我はない?」

「……」

「兄さん?」

悔しくて拳を握りしめると、ルイスを抱きしめる。

「約束だろ?1日貸してくれるんだろう?」

渡したくないとでも言うようにぎゅっと握り締め
たのだった。
それでも、言ってしまった言葉は元には戻せない。

未練を残しながらも、ルイスを見つめてきた。

「ちょっと、僕はそんな賭けに乗るなんて言って
 ないんだけど?」

「いいじゃん、兄の許可は出たんだしさ。それと
 も…それ以上のサービスも期待していいの?」

「調子に乗るなっ!」

「さぁ、行こうぜ。」

ジェイムスから奪うとそのまま腕を引っ張ってい
く。
取り残されたジェイムスを見ていたセシリアは大
きなため息を吐き出したのだった。

「油断が招いた事ね?あの人かなり強いわよ?」

「……」

「まぁ、大丈夫でしょ?そんなに悪い人じゃなさ
 そうだし」

セシリアも、さっき教えて貰わなかったら、気づ
けなかった事は多い。

魔力の使い方、運用、起動までの時間。
あとは効率よくするにはどうしたらいいか?

全部、やってみて初めて気づける事だった。
学校だけで学べる事は少なく、実践は現場で気づ
くしかない。

それも、経験は積んだ分だけ自分のものとなる。
ジェイムスは悔しい気持ちを抑えながた、空を見
上げたのだった。

「完敗……だな………」

「そうね。でも……次は勝てばいいじゃない?」

「あぁ、勿論だ」

セシリアの言葉を胸に、立ち上がると一層稽古に
励んだのだった。
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