僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也

文字の大きさ
72 / 75

72話 一緒に暮らそう

しおりを挟む
だらし無いにも程がある。

そう言いたげな歩夢の視線に気付くとバツが悪そ
うにポリポリと頭を掻いた。

大きなため息を吐き出すと郁也の腹をトントンっ
と叩いたのだった。

言いたい事はなんとなくわかった気がした。

『片付けろ!』

そう言いたげな目線に苦笑いを浮かべるとその日
は歩夢の卒業を祝う予定で部屋に連れて来たはず
が、大掃除をする羽目になってしまった。


「歩夢~、もうこのくらいでいいだろ?」

「……」

ふるふると首を振ると、途中で止める事を良し
とはしなかった。

「わかった、分かったからさ~、ちょっと飯に
 しね~か?腹減っただろ?」

まだ何か言いたげだったが、いきなりお腹がき
ゅう~っと鳴った事で、一時中断する事にした
のだった。

恥ずかしそうに見上げてくると郁也はニヤッと
笑う。

「ほらな?」

「……」

その日は出前を取ると、片付け終わったスッキリ
した部屋で二人で食事を食べたのだった。

「大学はここから通うだろう?」

「……」

「いいよ、部屋はもう一個あるし。それとも一緒
 に寝るか?俺はその方が嬉しいけどなっ……」

堂々と隠しもせずに言ってくるのだった。
呆れる程素直になった気がする。

どちらにしても歩夢には嘘は通じない。
だったら、思った事を素のまま言った方がいいと
思ったのだろう。

間違ってはいないが、あまりにストレートに表現
されると、歩夢の方も対応に困る。

顔を真っ赤にすると、『帰るっ!』と言わんばか
りに立ち上がったのだった。

送ると郁也が言い張ったのだが、断固として聞か
なかった。

渋々、駅まで送るとそのまま改札を通って帰るの
を見送ったのだった。

「今度荷物取りに行くからまとめとけよっ!」

「……」

返事はなかったが、歩夢の反応からしたら、きっ
と理解はしているだろう。
郁也の方も、歩夢を迎えに行ってよかったと思っ
ていたのだった。



家に帰りついた歩夢を待っていたのは、幸樹だっ
た。

今日、卒業式があると知っていたが、仕事で時間
が取れなかったので、早めに帰ってきて、祝おう
と思っていたようだ。

まどかさんも同じようにお祝いの準備をしていた。

が、一向に歩夢が帰って来なかったのだ。
昼までには帰ってくると思っていたので外食をと
考えていたのが、こんな時間になってしまった。
時計の針はとうに9時を回っていた。

スマホにも何の連絡もなかった。

「歩夢、遅かったな?今日は式だけだったんだろ?
 今までどこにいたんだ?」

「……」

話せないと分かっていても、聞いてしまう。
時計を見て、再びため息を吐いた父を見ると胃がキ
リキリと痛む。


「歩夢くん、今日は友達と一緒にいたの?せめて遅
 くなるなら連絡を入れてくれない?それに…心配
 になるでしょ?」

「お兄ちゃんおそーい、料理が冷めちゃったじゃん」
『まぁ、別に帰ってこなくてもいいけど……』

「……」

「さぁ、温め直すから食べましょう?ねぇ、幸樹さ
 んも美咲ちゃんも席について」

わざと明るく振る舞ってはいるが、幸樹とうまく行
っていないのがわかる。

歩夢も席には着くが、あまり食欲がない。

さっき、郁也と一緒に食べたばかりで、少し手をつ
ける程度で、箸を置いた。

「食欲がないの?」

「……」

「歩夢、お前の為に用意してくれたんだぞ?ちゃん
 と食べるのが礼儀だろ?」

幸樹は最近歩夢の食欲が減って来ているのも知って
はいた。

が、それでも多少減ったとしても、どこかで外食で
もしているのだろうと思って、あまり気にも留めて
いなかったのだ。

わざと、皿に盛ると歩夢の前に差し出した。

「ちゃんと食べろ。今日くらいしっかり食べるん
 だ」

「……」

ただ黙ったまま、箸を持つと、ゆっくり咀嚼した。
もちろん、なかなか箸が進まなかった。

「最近歩夢くん、食が細いものね、無理しなくても
 いいのよ?」

まどかさんだけは、無理強いしないように声をかけ
てくれた。

父親の幸樹と美咲は食欲が多い方だった。
だから余計に歩夢の少なさは目立つ。

皿に盛られた分の半分も食べられなかった。

幸樹が風呂から出ると早々に呼びに来ていた。
歩夢が席を立つと、風呂場に向かう。

その間も、美咲はキッチンでテレビを見ていた。

「美咲ちゃん、歩夢くんの事なんだけど……どう
 したら…」

「お母さん、お兄ちゃんの事なんて気にしなくて
 いいよ。私が郁也お兄ちゃんの事本気だって知
 ってるくせに……お兄ちゃんが先に誘惑するな
 んて最低!男のくせに、汚ないわ。顔も平凡な
 くせに……あんな奴お兄ちゃんじゃないもん」

「美咲ちゃんっ……」

「まどかお母さんもそうでしょ?お兄ちゃんが何
 かしたから郁也お兄ちゃんが出て行っちゃった
 んでしょ?」

美咲は知らないのだ。
歩夢が郁也を拐かしたと思っているらしかった。

「違うのよ?歩夢くんは何も悪くないの、郁也が
 そもそも…」

「郁也お兄ちゃんはいつも勉強だって見てくれる
 いい人じゃん」

「違うのっ、郁也が歩夢くんを……美咲ちゃんは
 どう思ってるの?ちゃんと聞いて。歩夢くんは
 何も悪くないの。郁也が……一方的に気になっ
 ていただけなのよ。それも一緒になる前から」

「えっ、なんで?知り合いだったの?」

「そう見たいね。気になる子がいるってのは知っ
 てはいたけど、まさかそれが歩夢くんだなんて
 私も知らなかったわ。歩夢くんはいつも否定し
 てたみたいだけどね。お願い、歩夢くんをそん
 なに責めないであげて、あの子だって辛いの」

「そんな事言われても……郁也お兄ちゃんは…お
 兄ちゃんがいる限り美咲の事本気になってくれ
 ないんだもん」

「美咲ちゃん、郁也とは結婚もできないわよ?」

「どうして?血が繋がってないし、いいでしょ?」

「そうじゃないのよ。えーっとどう説明したらい
 いかしら」

美咲の理不尽な想いは一方通行でしかない。
郁也の想いがそうだったように、歩夢には通じ
なかった。

まどかはそう思っていたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

処理中です...