12 / 24
番外編『邯鄲(かんたん)の夢』
僕の想いの負債額【2】
しおりを挟む
息苦しいくらいに幸せな鼓動をなだめるように、まいさんの髪に指をからめて引き寄せて、もう一方の腕で、身体の自由を奪う。
「───ね、まいさん? さっきの言葉の続き、ちゃんと聞かせて?
僕って……なに?
心配しなくても僕以外の誰にも聞かれやしないから、きちんと言葉にして、伝えて?」
かろうじて呼吸ができそうなくらいに僕の胸から顔を離したまいさんが、本当に誰にも聞かせるつもりがないくらいの小さな声を、もらす。
「……あんたって……私には、もったいないくらい……いい男よ……!」
言いきって、照れくさそうに頬を寄せるまいさんに、くすっと笑ってみせた。
「それは違うよ、まいさん。
僕のほうが、おつりがきてしまうくらい、まいさんから幸せな気分を、たくさんもらっているんだから。
これ以上、僕の想いの負債額を増やされたら、どうやって返していいのか、解らなくなってしまうよ?」
髪のなかに入れた指先でもって、そっとまいさんを上向かせる。
上気した頬も、高ぶった感情に潤む瞳も、わずかに開かれた唇も……僕を惑わすには、十分だったけど。
───軽く触れるだけのキスにとどめて、もう一度だけ、まいさんを抱きしめ返し、やんわりと身体を離した。
「帰ろう、まいさん。───ほら、ほっぺ冷たくなっちゃってるし」
手の甲で、まいさんの片頬に触れると、我に返ったように、まいさんが歩きだした。
ぼそっと、つぶやく。
「……ちょっと反省。
なんか私、だんだん大地に毒されてきてる気がする……」
「毒されてるだなんて、ヒドイなぁ。これでもイロイロ我慢してるのに。
……今日、多香子さんに注意されたばっかりだし」
「多香ちゃんが? あんたに? なんて?」
初耳だといわんばかりに、まいさんが僕のコートの腕をつかんで訊いてくる。
僕は多香子さんに言われたことを、そっくりそのまま、まいさんに伝えた。
聞いていくうちに、まいさんが、耳までみるみる赤くなった。
「ちょ……ちょっと、ヤダーッ! あんた達、職場でナニ話してんのよーっ。
ってか明日、多香ちゃんと、どんな顔して会えばいいのっ!?」
「いまのまま、普通の可愛いまいさんの顔で、会えばいいんじゃない?」
「そういうこと言ってんじゃないわよっ」
「あ、それと。
多香子さんによると、僕の愛情表現がダメダメすぎて、まいさんが自分の魅力に気づいてないらしいってことだから。
僕は、いままで以上に、まいさんに語る想いを勉強しなきゃいけないみたい」
「……これ以上、あんたのアホ話を長くする必要が、いったいどこにあるっていうのよ?」
「ふふっ、そんなこと言って……ホントは楽しみにしてくれてるんでしょ?
朝も昼も夜も、まいさんがどれだけ素敵な女性かってこと、僕が手取り足取り教えて自覚させてあげるからね?」
「───だからっ、あんたの頭のなか、いったいどういう仕組みになってるのよーっ」
───まいさんの可愛いらしい悲鳴を聞きながら、僕は、明日からのまいさんとの『お仕事』に胸を弾ませた。
遠足前日の、小学生のように。
「───ね、まいさん? さっきの言葉の続き、ちゃんと聞かせて?
僕って……なに?
心配しなくても僕以外の誰にも聞かれやしないから、きちんと言葉にして、伝えて?」
かろうじて呼吸ができそうなくらいに僕の胸から顔を離したまいさんが、本当に誰にも聞かせるつもりがないくらいの小さな声を、もらす。
「……あんたって……私には、もったいないくらい……いい男よ……!」
言いきって、照れくさそうに頬を寄せるまいさんに、くすっと笑ってみせた。
「それは違うよ、まいさん。
僕のほうが、おつりがきてしまうくらい、まいさんから幸せな気分を、たくさんもらっているんだから。
これ以上、僕の想いの負債額を増やされたら、どうやって返していいのか、解らなくなってしまうよ?」
髪のなかに入れた指先でもって、そっとまいさんを上向かせる。
上気した頬も、高ぶった感情に潤む瞳も、わずかに開かれた唇も……僕を惑わすには、十分だったけど。
───軽く触れるだけのキスにとどめて、もう一度だけ、まいさんを抱きしめ返し、やんわりと身体を離した。
「帰ろう、まいさん。───ほら、ほっぺ冷たくなっちゃってるし」
手の甲で、まいさんの片頬に触れると、我に返ったように、まいさんが歩きだした。
ぼそっと、つぶやく。
「……ちょっと反省。
なんか私、だんだん大地に毒されてきてる気がする……」
「毒されてるだなんて、ヒドイなぁ。これでもイロイロ我慢してるのに。
……今日、多香子さんに注意されたばっかりだし」
「多香ちゃんが? あんたに? なんて?」
初耳だといわんばかりに、まいさんが僕のコートの腕をつかんで訊いてくる。
僕は多香子さんに言われたことを、そっくりそのまま、まいさんに伝えた。
聞いていくうちに、まいさんが、耳までみるみる赤くなった。
「ちょ……ちょっと、ヤダーッ! あんた達、職場でナニ話してんのよーっ。
ってか明日、多香ちゃんと、どんな顔して会えばいいのっ!?」
「いまのまま、普通の可愛いまいさんの顔で、会えばいいんじゃない?」
「そういうこと言ってんじゃないわよっ」
「あ、それと。
多香子さんによると、僕の愛情表現がダメダメすぎて、まいさんが自分の魅力に気づいてないらしいってことだから。
僕は、いままで以上に、まいさんに語る想いを勉強しなきゃいけないみたい」
「……これ以上、あんたのアホ話を長くする必要が、いったいどこにあるっていうのよ?」
「ふふっ、そんなこと言って……ホントは楽しみにしてくれてるんでしょ?
朝も昼も夜も、まいさんがどれだけ素敵な女性かってこと、僕が手取り足取り教えて自覚させてあげるからね?」
「───だからっ、あんたの頭のなか、いったいどういう仕組みになってるのよーっ」
───まいさんの可愛いらしい悲鳴を聞きながら、僕は、明日からのまいさんとの『お仕事』に胸を弾ませた。
遠足前日の、小学生のように。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
先生の秘密はワインレッド
伊咲 汐恩
恋愛
大学4年生のみのりは高校の同窓会に参加した。目的は、想いを寄せていた担任の久保田先生に会う為。当時はフラれてしまったが、恋心は未だにあの時のまま。だが、ふとしたきっかけで先生の想いを知ってしまい…。
教師と生徒のドラマチックラブストーリー。
執筆開始 2025/5/28
完結 2025/5/30
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる