憐の喜び〜あなただけ知らない〜

一茅苑呼

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第二章 ── 前田 圭一 ──

禁じられた想い【3】

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(そうだった……。本当なら、私のワガママをきく時間も惜しいはずなのに……)

唇をかみしめる。
文句ひとつ言わずに、こうして夜を一緒に過ごしてくれている相手に対して、とる態度ではない。

胸の前で、ぎゅっと両手を握りしめた。そうせずには口にできない言葉。

瑤子は、自分のものではないような重い唇を、ようやく動かす。

「……本当に、ひとりで…ケイくんの家に帰って、それで……集中して勉強したほうが、いいよ。
貴重な時間、私の家でつぶす必要なんて、ないもの」

言いきった反動で体を起こし、つくり笑いを浮かべた。

圭一が、小さく息をつく。

「───俺のこと、追い返したいの?」

ベッドの側でかがむと、そこに両ひじをのせ、困ったような笑みで瑤子を見つめてくる。

(そんなわけ、ない。ずっと、一緒にいて欲しい)

告げるのは簡単だ。
しかし、圭一の置かれている立場を考えると、瑤子には言えなかった。

「そうだよ。私、もう一人でも、平気だもの」

にっこりと、笑ってみせる。……みせたつもりだった。

けれど、視界は瞬く間に揺らぎ涙がひとすじ頬を伝った。

心にもない言葉きもちを告げる強さが、いまの瑤子にはなかった。

(泣くなんて、ずるい……。同情してもらいたがってるみたい)

以前、同じクラスの女の子が皆の前で泣いている姿を見た時、瑤子はそう思った。

原因は知らない。
だが、少なくとも、大勢の前で見せる涙は、他人の気を引く道具のように思えたのだ───。

そう心のうちで非難していた自分も、結局、同じことをしている。
故意ではないにしろ、自分に関心をもってもらうための手段を、使っている……。

「これ、こんなのは気にしないで。勝手に出てきただけだから……!」

あわてて涙をぬぐう。

早口でまくし立て、圭一を引き止めようとして流れた涙ではないと伝えてみせようとした。

「……解ってるよ」

しかし圭一は、そんな瑤子の複雑な本心を、きちんと把握してくれていた。

短い言葉でありながら、声の出し方や表情によって、感じることができる。

「ケイくん……ごめんね」
「謝ることないよ。俺が、瑤子ちゃんと一緒にいたいだけだから」

やわらかな微笑。
瑤子に負担をかけないようにと、彼が配慮してくれているのが分かる。
その優しさに誘われ、たまらずに瑤子は、圭一に抱きついてしまう。

「一緒にいてくれる? 本当に? ずっとこうしていても、いい?」

問い返しながら、圭一の首の後ろで腕を組むように、しがみつく。
そうでもしないと、圭一がいなくなってしまうような気がしてならなかったのだ。

圭一は瑤子をなだめるように腕を回して、うなずき返してくれた。

「大丈夫。ずっと、一緒にいる───」
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