憐の喜び〜あなただけ知らない〜

一茅苑呼

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第二章 ── 前田 圭一 ──

再会──秘めごとの続き【2】

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「もしもし?」

押し黙ってしまった瑤子を窺うような響きの声に、あわてて口を開く。頬がゆるんだ。

「びっくりしたわ。いきなりなんだもの」

声を立てて笑うと、つられたかのように、圭一の笑い声がした。

「それは謝るよ、ごめん。
……でも、俺のほうも、君の声を聞いて驚いたんだよ」
「どうして?」
「あんまりにも、大人っぽくなってて、ね」

瑤子は照れくさくなって、わざと幼い口調で話しだす。

「4年だよ? あれから、それだけ経ってるんだから。当たり前じゃない」
「そっか……そうだよな……」

穏やかな沈黙が流れる。
次に続くだろう言葉を受話器ごしに待つのは、苦痛ではなかった。

「───俺さ」

圭一が、静かに切りだす。

「就職が決まったんだ……東京に。だから、あっちで暮らすことになると思う」
「……おめでとう」

他に妥当な言葉が見つからず、瑤子はとりあえず、祝いを述べた。

ありがとう、と、圭一は低く応えた。
そして、その先のほうが重要だといわんばかりに、声の調子を変える。

「その前に、瑤子ちゃん言っておきたいことがあって。いまさらとも、思ったけど」

真剣さが伝わってくるような堅い声。

「───あの時の、ことだけど……」

もちだされた話題に、どきりとする。
そんな瑤子の耳に、圭一の切実な想いが届く。

「いいかげんな気持ちじゃ、なかった。君のことを可愛いと思ってたし、好きだった。
歳の差があったし、君のご両親も俺の親も、俺が興味本位にいたずらしたんだって、思ってたみたいだけど……」
「うん……」

小さく相づちをうつ。
ふたりは、双方の親によって、強制的に引き離されたのだった。

圭一の両親にしてみれば、大学受験を目前に控えた息子の将来を、そんなことに邪魔されたくなかったのだろう。

だからこそ、ふたりを躍起になって引き離しにかかったのだ。

結果、その思惑にそって、事は運んだ訳だが───。

(でも、私は……)

「私は、そんな風に思ってなかったわ。中学生だからって、そのくらいの判断はついたもの。
それに……ケイくんとするの、嫌じゃなかった」

(一番最初に、誰よりも私に近づいてくれた人……)

「───好きだったから。あなたのこと」
「あぁ……そうだよね」

互いに確認せずとも、想いは伝わっていた。
心と身体のバランスは、とれていたのだ───圭一との場合は。

だが、蒼や他の者とは、身体の関係だけが先行していた。

(それじゃ、駄目になるはずよね)

蒼との別れを思いだして、唇をかみしめる。

「それだけ伝えたかったんだ。じゃ、元気で」
「待って!」

通話が途絶えそうになって、瑤子はあわてて受話器の向こうに呼びかける。

「お願いが、あるの」

最後の───。


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