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第四章 ── 槇原 実砂子 ──
快楽の報復【4】
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蒼が尚斗を呼びに行ってから、約十分後。血相を変えて尚斗はやって来た。
力なく座りこんでいる瑤子の側に駆け寄り、息をきらして言う。
「斎藤、先輩に……聞いて。ケガ、して……ない?」
心配そうに瑤子をのぞきこみながら、その場にかがむ。
サッカー部の練習途中で、なんとか抜けだしてきたのだろう。
汚れたユニフォームから、汗と土ぼこりの匂いがした。
「平気よ。
───蒼が助けてくれたから」
小さく告げると、尚斗は眉を寄せた。不愉快そうに横を向く。
「話は……だいたい聞いてるし、見当もついてる。
ずっと、言おうかどうしようか迷ってたけど、言えなくて……。
神田先輩の気持ちを考えたら、斎藤先輩のこと、悪く言うなんて……できなかった。
それに、ひがみっぽくとられたくなかったし」
いらだったように、息をつく。
以前、何かを言いかけてやめていた、尚斗を思いだす。
尚斗は尚斗で、蒼に対して良くない感情を、もっているのかもしれない。
「そういった……なんていうか、斎藤先輩のいいかげんなところが、神田先輩に今回みたいな形で被害を与えたみたいでっ……」
尚斗の片手が、床に叩きつけられる。
「神田先輩を逆恨みするなんて……。もう、斎藤先輩とは、なんの関係もないのにっ……!」
言いきったあと、ふと、自分の言葉に自信をなくしたように、瑤子を見てくる。
「関係……ないよね?」
不安そうな顔。
瑤子と現在付き合っていることが未だに実感できないらしい。
「言ったでしょ? 私は、尚斗くんが好きだって」
偽りのない、本気の言葉。
だからこそ、目の前にいる尚斗の姿が愛おしく見えてくる。
安堵感から、涙がこぼれそうになった。
「───神田先輩……」
泣き顔を見せたくなかった。
ましてや自分が、そんな弱い人間だなんて、思っていなかっただけに。
今になって、こんな風に。
あわてて目もとをぬぐいながら横を向く。瞬間、ぎゅっと尚斗に抱き寄せられた。
力強いのに、いたわるような優しさが、尚斗の腕にはこめられている。
「オレ……すごく悔しかった。
神田先輩を助けたのがオレじゃなくて、斎藤先輩だなんて……!
自分が好きな人を守れないなんて……情けねーよっ……」
のどの奥で、うめくように言う。
瑤子を大事に想ってくれているからこその、自身に対しての憤りがそこにはあった。
瑤子は、尚斗の腕のなかで、自分の想いをぶつけるように泣いた。
自分の過去の行いを恥じながら、一方で、尚斗から寄せられる想いを心地よく感じて。
……泣かずには、いられなかった。
力なく座りこんでいる瑤子の側に駆け寄り、息をきらして言う。
「斎藤、先輩に……聞いて。ケガ、して……ない?」
心配そうに瑤子をのぞきこみながら、その場にかがむ。
サッカー部の練習途中で、なんとか抜けだしてきたのだろう。
汚れたユニフォームから、汗と土ぼこりの匂いがした。
「平気よ。
───蒼が助けてくれたから」
小さく告げると、尚斗は眉を寄せた。不愉快そうに横を向く。
「話は……だいたい聞いてるし、見当もついてる。
ずっと、言おうかどうしようか迷ってたけど、言えなくて……。
神田先輩の気持ちを考えたら、斎藤先輩のこと、悪く言うなんて……できなかった。
それに、ひがみっぽくとられたくなかったし」
いらだったように、息をつく。
以前、何かを言いかけてやめていた、尚斗を思いだす。
尚斗は尚斗で、蒼に対して良くない感情を、もっているのかもしれない。
「そういった……なんていうか、斎藤先輩のいいかげんなところが、神田先輩に今回みたいな形で被害を与えたみたいでっ……」
尚斗の片手が、床に叩きつけられる。
「神田先輩を逆恨みするなんて……。もう、斎藤先輩とは、なんの関係もないのにっ……!」
言いきったあと、ふと、自分の言葉に自信をなくしたように、瑤子を見てくる。
「関係……ないよね?」
不安そうな顔。
瑤子と現在付き合っていることが未だに実感できないらしい。
「言ったでしょ? 私は、尚斗くんが好きだって」
偽りのない、本気の言葉。
だからこそ、目の前にいる尚斗の姿が愛おしく見えてくる。
安堵感から、涙がこぼれそうになった。
「───神田先輩……」
泣き顔を見せたくなかった。
ましてや自分が、そんな弱い人間だなんて、思っていなかっただけに。
今になって、こんな風に。
あわてて目もとをぬぐいながら横を向く。瞬間、ぎゅっと尚斗に抱き寄せられた。
力強いのに、いたわるような優しさが、尚斗の腕にはこめられている。
「オレ……すごく悔しかった。
神田先輩を助けたのがオレじゃなくて、斎藤先輩だなんて……!
自分が好きな人を守れないなんて……情けねーよっ……」
のどの奥で、うめくように言う。
瑤子を大事に想ってくれているからこその、自身に対しての憤りがそこにはあった。
瑤子は、尚斗の腕のなかで、自分の想いをぶつけるように泣いた。
自分の過去の行いを恥じながら、一方で、尚斗から寄せられる想いを心地よく感じて。
……泣かずには、いられなかった。
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