52 / 93
断章/葵篇
『好き』のカタチ【2】
しおりを挟む☆
「や、めろっ……」
カメラから引き抜かれたフィルムが、ドラム缶の炎のなかへと近づく。
「やめろぉっっ……!!」
葵の絶叫をあざわらうかのように、フィルムは乱暴に投げ捨てられた。
取り乱す葵の姿を前にし、私はなんとか立ち上がる。
その時、左肩が鈍い音を立てた───。
無理やり解いた拘束に、信じられないといった表情で、男が一歩後ずさった。
「なっ……」
「殺すわよ。本気だから。
悪いけど、私、執念深いわよ? これでも一応、女だし。
死にたくないなら、あんたも……本気でかかってきなさいよっ……」
力をこめる右腕とは逆に、左肩の激痛から、脂汗が背中と胸もとを伝っていく。
少し……めまいがした。
「ばっ……馬鹿じゃねーの? 遊びだよ、こんなの。なに、本気にしてんだよ……?」
「遊び? 遊びだから、なんだっていうの?」
私は鼻で笑ってやった。
目の前に突き付けられた角材に、思いきり踵を叩きつける。
瞬間、弧を描いてそれが宙を舞い、コンクリートに転がった。
ひっ……と、相手が怯むのが分かった。
そのまま距離をつめ、そいつの顔の前に手の甲を突きだし、寸前で止める。
「遊びでも───」
私の拳にびびって目をつぶった男のあごを、ぐいとつかむ。
「葵の本気、燃やしてんだからねっ。
あんたも……っ……、あんたの本気のオッズを示せって、言ってんのよっ!!」
勢いにまかせ、あごを突き飛ばすように放す。
よろめいて、しりもちをついた男から、葵を捕えた二人に目を向ける。
「あんたらもっ! それなりの覚悟は、できてるんでしょうねぇっ……!?」
「───っだよ、やってらんねーよ。なんだよ、この女……」
「オレ、関係ねぇからな」
怒鳴る私の姿を見て、ただでは済まないと感じたらしく、さっきまで余裕かましてた二人が後ずさりながら倉庫を出て行く。
「ま、待てよっ……」
残された一人が、おぼつかない足取りで立ち上がった。
けれども私は、そいつの腕をつかみ寄せ、今後いっさい葵に手出ししないという約束をさせる。
機械仕掛けの人形みたいにコクコクうなずく男から、投げるように手を放した。
情けないほど手と足をバラバラに動かし、去って行くそいつの背中を見送る。
ほっとしたのと同時に気がゆるみ、片ひざをついた。
「かえでっ……!?」
視界が、揺らいだ。
葵が私の側に、駆け寄ってきたのが分かる。
葵の『本気』は守れなかったけど、『葵自身』は護れて、良かった……今回は。
気を失う寸前、葵のごめんという声と共に、抱き止められたのが分かった。
そして、覆いかぶさる顔から、あたたかな滴が落ちたのを感じた。
「前に楓にいわれた言葉、返すからね、僕。
……楓、自分の身体、大事にしなよ」
「こんなの、稽古じゃしょっちゅうだし、癖になってんのよ。
別にいいじゃない、生死に関わるわけじゃないし」
肩をすくめかけ、痛みが走る。
ごまかすように、あわててミルクティーをすすった。
葵の視線が、ちらりと動く。
私の浅はかさにあきれつつも、心配してくれているのが分かった。
そして、いまになってようやく、自分のしでかした事の重大性に気づく。
あんな風に威嚇はしたものの、仕返しされる可能性も、残っているからだ。
ひょっとしたら、あいつら、また葵に手を出すかもしれない。
そしたら……そうしたら?
「大丈夫だよ。もう、あの連中の好きにはさせないから」
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる