【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼

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【第一章】

彼と彼女と先輩と⑤

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約束の時間まで、まだ少しあるのをいいことに、買ってきたクラシックのCDをかけ、ベッドに身を投げた。

開け放った窓から、生暖かい風が入ってくる。

その風に溶け込むように、弦楽器の音色が流れだした。

静かな始まり方をする曲だった。

心のなかに残っている、懐かしいけれど思いだすには切なさを伴わせる、そんなメロディ───。

泣きたいような気分にさせておきながら、いたわるようなやわらかさへの転調。

しばらくその優しい旋律を聴きながら、目を閉じていたものの、耳元で蚊の飛ぶ音がしたので、仕方なしに立ち上がる。

網戸を閉めて蚊取り線香に火をつけると、煙が宙を舞い、空気のなかへ溶けるようにして、見えなくなる。

ゆるやかに流れる時間を、象徴しているかのように。

前触れもなく吹いた強い風が、腰まで伸びた髪を、ふわりともってゆく。

片手で乱れた髪を押さえたまま、窓の外に立ち並ぶ家々の向こうの夕焼けをながめた。

そっと眼鏡を外すと、景色がぼんやりとしたものとなり、オレンジ色に染まった街並みが、完成された絵画のように綺麗に見えた。

そんな風にしていると、先輩と初めて会った時のことが思いだされた。

あの日も、今日のように綺麗な夕焼け空が、校舎をつつんでいた……。

最初から、すごくなれなれしい人だった。
それなのに、嫌いになれなかったのは、どうしてだろう。

彼に、似ていたから?

それとも───。

窓辺でひざを抱え、そこに顔を伏せる。

部屋に流れる音楽に身をまかせるように、目を閉じた。

───分からない……。




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