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【第三章】
この手を放せば②
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「あぁ。なんか、クラスで仲間はずれっぽくされてる子だっけ?」
興味なさそうに答え、その子は、
「ね、ここ編み込みしてよ」
などと言っている。
嫌な気分で、ドアごしに女の子たちの会話を聞いていた。
「そーそー、その子!
……わたしさー、けさ見ちゃったんだ、あの子が朝倉くんと一緒にいるところ」
「えーっ」
「ウソぉ。なにそれぇ」
あからさまな非難の声に、小さく溜息をついた。
朝倉くんとはタロちゃんのことだ。
きつい顔立ちのわりに人当たりがよく、部を掛け持ちするほど運動能力が高かった彼は、小学校の時から人気があった。
だから、この反応は、仕方のないものだ。
「なんかさー、わたし思うんだけど、あの子ってズルくない?」
「あ、それ分かる。
そうなんだよね、いかにも自分が悲劇のヒロインなんですって、ひたってるっていうか」
「ウンウン。
あたし、あーゆうタイプの子、きらーい」
───耳を、ふさごうかと思った。
互いについて、なんの正しい認識ももたず、一度も話したこともないだろう相手から、どうしてこんな言葉を投げつけられなくては、いけないのだろう。
そう思うと、悔しかった。
反論のひとつもできないで、トイレに閉じこもったままでいる自分が、情けなかった。
「朝倉くんも、お人好しっていうかさー。放っておけばいいのに」
「だいたいあの子が嫌われてるのって、なんか先生に密告ったりしたからなんでしょ? 自業自得じゃない」
「でしょう? なのに、朝倉くんがかばっちゃうから、あの子もつけあがるんだよ」
「だよねぇ?
……あーあ。なんかショックぅ。あたし、ケッコウ好きだったのになー、朝倉くん」
「あんなに趣味が悪いとは、思わなかったよね」
「ホントだよーッ」
そこで笑いの輪が広がり、気づくと私は扉を開けていた。
「ちょ、ちょっと……」
最初に私の存在に気づいたのは、鏡に向かって、熱心に髪を梳かしていた子だった。
他の二人も私を見つけて、驚いたように、こちらを振り返る。
「な、なによ?」
三人のなかで一番気の強そうな子が、自分たちはなにも悪くない、と、いわんばかりに胸をそらす。
私は、おかしかった。
あまりにもおかしくて、彼女たちを前にして、笑いだしてしまったくらいだ。
「なにがおかしいのよ!?」
「笑ってないで、何か言ったら?」
「そうよ! 盗み聞きしてたくせに。生意気よ、あんた!」
いっせいに三人にかみつかれ、笑うのをやめて彼女らを見返す。
「……べつに。つまらない話をしているんだなと、思っただけ」
「なっ……」
彼女たちが怒りで顔を真っ赤にさせる様を、目の端でとらえながら、三人の横をすり抜け、手を洗った。
そのままトイレを出て行こうとする私の肩を、誰かが力任せにつかんだ。
「待ちなさいよっ!」
興味なさそうに答え、その子は、
「ね、ここ編み込みしてよ」
などと言っている。
嫌な気分で、ドアごしに女の子たちの会話を聞いていた。
「そーそー、その子!
……わたしさー、けさ見ちゃったんだ、あの子が朝倉くんと一緒にいるところ」
「えーっ」
「ウソぉ。なにそれぇ」
あからさまな非難の声に、小さく溜息をついた。
朝倉くんとはタロちゃんのことだ。
きつい顔立ちのわりに人当たりがよく、部を掛け持ちするほど運動能力が高かった彼は、小学校の時から人気があった。
だから、この反応は、仕方のないものだ。
「なんかさー、わたし思うんだけど、あの子ってズルくない?」
「あ、それ分かる。
そうなんだよね、いかにも自分が悲劇のヒロインなんですって、ひたってるっていうか」
「ウンウン。
あたし、あーゆうタイプの子、きらーい」
───耳を、ふさごうかと思った。
互いについて、なんの正しい認識ももたず、一度も話したこともないだろう相手から、どうしてこんな言葉を投げつけられなくては、いけないのだろう。
そう思うと、悔しかった。
反論のひとつもできないで、トイレに閉じこもったままでいる自分が、情けなかった。
「朝倉くんも、お人好しっていうかさー。放っておけばいいのに」
「だいたいあの子が嫌われてるのって、なんか先生に密告ったりしたからなんでしょ? 自業自得じゃない」
「でしょう? なのに、朝倉くんがかばっちゃうから、あの子もつけあがるんだよ」
「だよねぇ?
……あーあ。なんかショックぅ。あたし、ケッコウ好きだったのになー、朝倉くん」
「あんなに趣味が悪いとは、思わなかったよね」
「ホントだよーッ」
そこで笑いの輪が広がり、気づくと私は扉を開けていた。
「ちょ、ちょっと……」
最初に私の存在に気づいたのは、鏡に向かって、熱心に髪を梳かしていた子だった。
他の二人も私を見つけて、驚いたように、こちらを振り返る。
「な、なによ?」
三人のなかで一番気の強そうな子が、自分たちはなにも悪くない、と、いわんばかりに胸をそらす。
私は、おかしかった。
あまりにもおかしくて、彼女たちを前にして、笑いだしてしまったくらいだ。
「なにがおかしいのよ!?」
「笑ってないで、何か言ったら?」
「そうよ! 盗み聞きしてたくせに。生意気よ、あんた!」
いっせいに三人にかみつかれ、笑うのをやめて彼女らを見返す。
「……べつに。つまらない話をしているんだなと、思っただけ」
「なっ……」
彼女たちが怒りで顔を真っ赤にさせる様を、目の端でとらえながら、三人の横をすり抜け、手を洗った。
そのままトイレを出て行こうとする私の肩を、誰かが力任せにつかんだ。
「待ちなさいよっ!」
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