【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼

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【第三章】

この手を放せば③

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「───放してよ」

キッとにらみつけると、私をつかんだ子は一瞬、ひるんだ。

それを見て取り、彼女の手を振りきって、トイレの出口へ向かう。

「なーに? あの態度!」

「バッカみたい!」

「だから嫌われるのよ、性格悪すぎーッ!」

私の背中に、彼女たちの意地の悪い声がかかった。

けれども、そんな数々の中傷も、もう私を傷つける力はなかった。

私は本当におかしかったのだ。

なんの理解もせずに、私を自分たちの価値観で評価し、平気で口汚くののしる彼女らが。

そして、そんな彼女たちと、まったく同じであろうクラスメイトが。

急に愚かに思えてきたのだった。

───けれども。

そんな人たちよりも、もっと愚かしく滑稽こっけいだったのは、私だった。

私自身だったのだ。

愚かな集団の、私にはなんの思いやりももたない人たちの、そんな中傷を真に受け、傷ついていた自分自身が、一番、おかしかった……。

本当の私を知ろうともせずにいる者たちに対して、なんて臆病おくびょうに接していたのだろう。

───馬鹿らしくて、涙が出た。

そう思うことによって、クラスメイトや先ほどの女の子たちを、突き放したのに。

それなのに、私は泣いていた。

原因は解っていた。

でもその答えは、その時の私にはとてもみじめなものだった。

私は自分の心に鍵をかけ、そこに触れないようにした。





放課後。

三時限目の授業に出なかったことで、担任と体育の安藤先生に、呼びだされた。

そして、ふたりから、なぜ出なかったのかと問いつめられ、苦しまぎれに、具合が悪くてトイレにこもっていたのだと答えた。

それで、頭ごなしにしかられることはなかったものの、今後このようなことがないようにと、きつく注意をされた。

ようやく先生方から解放され、なんの部にも所属していなかった私は、いつもより遅く教室を出た。

ところが、このところなかった嫌がらせが復活したらしく、下駄箱から靴がなくなっていた。

あきらめの境地で上履きのまま自分の靴を探し、中庭や校舎裏などを見て歩く。

───上履きで帰ろうかな……。

なかなか見つからない靴に、そんな思いが頭をよぎる。

体育館裏を最後の探し場所にしようと、決めた時だった。

鈍い音と、地面をこする音。
それから、太い声の罵声ばせいが聞こえてきた。

なに……!?

ただごとでない様子に、コンクリートの柱の陰に隠れ、物音のした方向をのぞく。

上級生らしい男子生徒三人と、その中心で地面に直接座りこんでいる男の子が見えた。

三人のうちの一人の身が揺らいだかと思うと、その足が、座っている男の子の背を蹴り飛ばす。

続いて、他の二人も、蹴ったり小突いたりなどしていた。

鋭く、低く、とぶ罵声。
かすかに聞こえる、うめき声。

どう見ても上級生が気に入らない下級生に、暴行をはたらいているとしか思えなかった。

や、やだ。
どうしよう……どうしよう……。

誰か、呼ばなきゃ……!
先生───。
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