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【第四章】
彼に似たひと②
しおりを挟む§
それからは、佐竹先輩と顔を合わすことが多くなっていったような気がした。
けれどもそれは、私が佐竹先輩を知らなかっただけで、実は気づかない所で、会っていたのかもしれなかった。
なぜかといえば、面倒な実行委員のほとんどを、私が押しつけられていたからで。
そして、メンバーのなかには、必ずといっていいほど佐竹先輩がいて、私の顔を見つけては、他愛もないことを話しかけてきていた。
あとで知ったところによると、佐竹先輩はそういう裏方のようなことを、以前からよく引き受けていたらしい。
また、先輩はバレー部にも所属していて、『セッター』などという、あまり目立たない役割をこなしていた。
目立つことが好きそうな第一印象を受けていた私からすると、予想外な事実だった。
誰かを活かすためにトスを上げる、だなんて。
あの人が、やるんだろうか、本当に。
§
「……なんか、意外ですね」
体育祭実行委員の、三回目のミーティングのあと。
他の委員が帰ったのを見計らって、ぼそっとつぶやくように言ってみた。
「えー?」
佐竹先輩に私の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、少し間延びした声が返ってきた。
ミーティングに使った教室の黒板をふきながら、顔を輝かせて、こちらを振り返る。
「もしかして松原ってば、オレの意外な魅力に気づいてくれたりした?」
「いいえ、全然」
実行委員報告書なるものに本日の議題等を書き写し終え、誤字脱字のチェックをしながら、ほとんど条件反射のように冷たくあしらう。
私の反応に、がっくりと肩を落とす先輩のしぐさを見ながら、ふと先日のことを思いだした。
夏休み中に一度も学校のプールに泳ぎに来なかったため、水泳についてのレポート提出を義務づけられていた。
提出先の体育教師がバレー部の顧問だったので、締め切り当日、体育館に届けに行ったとき。
一年生らしいバレー部員がやっているネット張りを、手伝っていた佐竹先輩と目が合った。
「松原」
ちょっと笑って駆け寄ってくる先輩を、不思議な気分で見ていた。
「なに? 練習、観に来てくれたの? わざわざオレの勇姿を観に?
で、あらためてオレに惚れ直す松原。
なんてナイスなシチュエーション」
長身を折るようにしてニコニコしながら、勝手な妄想を口走ってくれる。
……口を開かなければ、まともな顔をしているのに。
この人の頭のなか、大丈夫なんだろうか。
などと、内心あきれつつ、きっぱりと否定した。
「いいえ。単に、レポートの提出に来ただけです。
用事は済んだので、私はこれで失礼します」
一応、『先輩』ではあるので、頭を下げ立ち去ろうとした私の前に、佐竹先輩が先回りする。
「そんな口実までつけて来てくれたのか、松原は。
いっやーオレってば、幸せ者?」
「───言っておきますけど、私、先輩にはまったくと言っていいほど興味がありませんから」
進路妨害をしてくれた長身の影を踏みつけ、その横を通りすぎる。
すると佐竹先輩は、悪びれもせず、こう言ってのけたのだ。
「まったくと言っていいほど、ってのは、まったく、とは違うよな。
ちょっとはあるって、オレは解釈しちゃうけどー?」
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