【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼

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【第四章】

彼に似たひと⑥

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「あの、これ……」

返すために差し出すと、先輩はちょっと笑った。

「やるって言ったろ?
……松原の機嫌取ろうと思って、オレが買いに行ってる間に先に行っちゃうんだもんなー。
オレの話、聞いてなかっただろ? しょーがねーなー」

私から帽子を取り上げると、後ろ前に私の頭に被せ、ニッと笑う。

「似合うじゃん。
……けど、眼鏡なしの松原をまともに見たのって、これが初めてだな。
かわいーかわいー」

そこで初めて、眼鏡を外されていたことを思いだす。

先輩のシャツの胸ポケットにかかっている、自分の眼鏡に手を伸ばした。

「それ、返してください」

「えー? なんでー? いいじゃん、別に。
不自由ないだろ、見えるんだから」

先輩は私をかわしながら、軽口のついでのように言った。

なにげないひとことに、思わず伸ばした手を止める。

「先輩……知ってたんですね。
私がかけているのが、伊達眼鏡だってこと」

静かに問いかけると、佐竹先輩は、ふっと小さく笑った。

「───それが松原の防御壁だってこともね」

「そう、ですか……」

あっさりと見破られ、相づちをうつより先の、言葉が続かなかった。

なんだか心の奥底まで見透かされたようで、複雑な思いがした。

気恥ずかしさと、奇妙な安堵感が交錯する。

「オレさ」

黙ったままの私の前で、ゆっくりと佐竹先輩が口を開く。

胸もとにある私の眼鏡を取り上げ、私にかけた。

「松原が、好きなんだ。
だから、オレと付き合ってほしい」

いつものふざけた言い方でないだけに、よりいっそう真剣みを帯びて届く言葉。

ややつり上がりぎみの目もとと、とがったあごの線。

いままでに見たこともなかった、真摯な態度。

うなずくのは、簡単だった。

でも、私には、できなかった。

……あまりにも、佐竹先輩は、彼に似ていたから。

だから駄目だった。

「───ごめんなさい。
私……私、は。先輩とは、付き合えません……」

のどの奥から、ようやく声をしぼりだして告げる。

先輩は、しばらく私を見つめていた。

それから、ちょっと笑った。

「そっか」

いつものように、笑った。




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