24 / 35
【第四章】
彼に似たひと⑥
しおりを挟む
「あの、これ……」
返すために差し出すと、先輩はちょっと笑った。
「やるって言ったろ?
……松原の機嫌取ろうと思って、オレが買いに行ってる間に先に行っちゃうんだもんなー。
オレの話、聞いてなかっただろ? しょーがねーなー」
私から帽子を取り上げると、後ろ前に私の頭に被せ、ニッと笑う。
「似合うじゃん。
……けど、眼鏡なしの松原をまともに見たのって、これが初めてだな。
かわいーかわいー」
そこで初めて、眼鏡を外されていたことを思いだす。
先輩のシャツの胸ポケットにかかっている、自分の眼鏡に手を伸ばした。
「それ、返してください」
「えー? なんでー? いいじゃん、別に。
不自由ないだろ、見えるんだから」
先輩は私をかわしながら、軽口のついでのように言った。
なにげないひとことに、思わず伸ばした手を止める。
「先輩……知ってたんですね。
私がかけているのが、伊達眼鏡だってこと」
静かに問いかけると、佐竹先輩は、ふっと小さく笑った。
「───それが松原の防御壁だってこともね」
「そう、ですか……」
あっさりと見破られ、相づちをうつより先の、言葉が続かなかった。
なんだか心の奥底まで見透かされたようで、複雑な思いがした。
気恥ずかしさと、奇妙な安堵感が交錯する。
「オレさ」
黙ったままの私の前で、ゆっくりと佐竹先輩が口を開く。
胸もとにある私の眼鏡を取り上げ、私にかけた。
「松原が、好きなんだ。
だから、オレと付き合ってほしい」
いつものふざけた言い方でないだけに、よりいっそう真剣みを帯びて届く言葉。
ややつり上がりぎみの目もとと、とがったあごの線。
いままでに見たこともなかった、真摯な態度。
うなずくのは、簡単だった。
でも、私には、できなかった。
……あまりにも、佐竹先輩は、彼に似ていたから。
だから駄目だった。
「───ごめんなさい。
私……私、は。先輩とは、付き合えません……」
のどの奥から、ようやく声をしぼりだして告げる。
先輩は、しばらく私を見つめていた。
それから、ちょっと笑った。
「そっか」
いつものように、笑った。
返すために差し出すと、先輩はちょっと笑った。
「やるって言ったろ?
……松原の機嫌取ろうと思って、オレが買いに行ってる間に先に行っちゃうんだもんなー。
オレの話、聞いてなかっただろ? しょーがねーなー」
私から帽子を取り上げると、後ろ前に私の頭に被せ、ニッと笑う。
「似合うじゃん。
……けど、眼鏡なしの松原をまともに見たのって、これが初めてだな。
かわいーかわいー」
そこで初めて、眼鏡を外されていたことを思いだす。
先輩のシャツの胸ポケットにかかっている、自分の眼鏡に手を伸ばした。
「それ、返してください」
「えー? なんでー? いいじゃん、別に。
不自由ないだろ、見えるんだから」
先輩は私をかわしながら、軽口のついでのように言った。
なにげないひとことに、思わず伸ばした手を止める。
「先輩……知ってたんですね。
私がかけているのが、伊達眼鏡だってこと」
静かに問いかけると、佐竹先輩は、ふっと小さく笑った。
「───それが松原の防御壁だってこともね」
「そう、ですか……」
あっさりと見破られ、相づちをうつより先の、言葉が続かなかった。
なんだか心の奥底まで見透かされたようで、複雑な思いがした。
気恥ずかしさと、奇妙な安堵感が交錯する。
「オレさ」
黙ったままの私の前で、ゆっくりと佐竹先輩が口を開く。
胸もとにある私の眼鏡を取り上げ、私にかけた。
「松原が、好きなんだ。
だから、オレと付き合ってほしい」
いつものふざけた言い方でないだけに、よりいっそう真剣みを帯びて届く言葉。
ややつり上がりぎみの目もとと、とがったあごの線。
いままでに見たこともなかった、真摯な態度。
うなずくのは、簡単だった。
でも、私には、できなかった。
……あまりにも、佐竹先輩は、彼に似ていたから。
だから駄目だった。
「───ごめんなさい。
私……私、は。先輩とは、付き合えません……」
のどの奥から、ようやく声をしぼりだして告げる。
先輩は、しばらく私を見つめていた。
それから、ちょっと笑った。
「そっか」
いつものように、笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる