28 / 35
【第五章】
先輩と花火と本当の気持ち④
しおりを挟む
折よく高校受験も重なってたし、松原のことはもういいやって思った。
もともと自分の欲求を満たしたかっただけだからな。
そんな風にわりきるのは、簡単だった」
そこまで言って、佐竹先輩は、くくっと笑いだした。
「な、なんですか、先輩」
いきなり理由も分からずに笑いだされ、あせってその長身を見上げた。
すると先輩は、そんな私の頭を、大きな手のひらでポンポンと叩いてきた。
「と、思ったんだよ、オレ」
いくぶん笑いを含んだ口調で言いきって、先輩は私に向かって笑ってみせた。
いつものように、人懐こい笑みを。
「だけどさー、全然、簡単なことじゃなかった。
松原がさ、高校に行ってもあの調子で、世界中を敵に回すみたいな目ぇして、一人も友達つくらなくて、私は孤独が好きなのって態度してんのかなーって。
……そんなこと、考えたりして。
ひとつ気になりだしたら、止まらなくなってさ。
それで思い直したんだ、自分の気持ちをいちいち理由づけするのは馬鹿馬鹿しいって」
言いながら、私の頭にのせた手のひらでもって、私の髪をくしゃっとかきまぜる。
「好きなら好きで、いいじゃんってさ」
私を見つめて、つり上がりぎみの目もとを優しく細める。
「だからオレは、いまでも松原香緒里が好きなんだ」
───息が、止まりそうになった。
改めて、思いしらされた気がする。
この人はなんて真っすぐに、自分の気持ちをぶつけられる人なんだろう。
それでいて、相手に負担をかけない物言いに、しばらく言葉が見つからなかった。
ようやく口をついてでたのは、苦し紛れの皮肉でしかなかった。
「……ずいぶん、楽天的なことを言うんですね。
うらやましいです、先輩が」
「だーろー?
そしてオレの魅力を再確認する松原。
まさしく愛は勝つ」
「なんなんですか、それは。
言っておきますが、先輩のことを褒めたつもりはないですよ?」
「あれ? 違うの?」
まったくもう。すぐに調子にのるんだから。
けれども、やっぱりおかしくて、私は声を立てて笑いだした。
神社の境内に立ち並ぶ夜店を、冷やかしながら歩いていく、佐竹先輩。
そのあとを追いながら、時折、藍色の空に上がる花火を、見上げていた。
夜店が切れるあたりまで来た時、先輩が腕時計に目を落とし、それから私を見た。
「松原、これからちょっと付き合ってもらいたい所があるんだけど、いいかな?」
「……付き合う? どこにですか?」
「はっ。その目はオレを疑っているな!?
前にも言ったが、オレは本人の意思も考えないで」
「分かりました。茶化さなくて結構です。
どこに、付き合えばいいんですか?」
皆まで言わせずにさえぎると、佐竹先輩はわずかに目を細めて私を見た。
「夢見ヶ丘」
あまりにも穏やかで静かな声は、私の調子を狂わせた。
「今から、行くんですか?」
「ん」
短く佐竹先輩はうなずき返し、私の手を引いて歩きだした。
先輩……?
もともと自分の欲求を満たしたかっただけだからな。
そんな風にわりきるのは、簡単だった」
そこまで言って、佐竹先輩は、くくっと笑いだした。
「な、なんですか、先輩」
いきなり理由も分からずに笑いだされ、あせってその長身を見上げた。
すると先輩は、そんな私の頭を、大きな手のひらでポンポンと叩いてきた。
「と、思ったんだよ、オレ」
いくぶん笑いを含んだ口調で言いきって、先輩は私に向かって笑ってみせた。
いつものように、人懐こい笑みを。
「だけどさー、全然、簡単なことじゃなかった。
松原がさ、高校に行ってもあの調子で、世界中を敵に回すみたいな目ぇして、一人も友達つくらなくて、私は孤独が好きなのって態度してんのかなーって。
……そんなこと、考えたりして。
ひとつ気になりだしたら、止まらなくなってさ。
それで思い直したんだ、自分の気持ちをいちいち理由づけするのは馬鹿馬鹿しいって」
言いながら、私の頭にのせた手のひらでもって、私の髪をくしゃっとかきまぜる。
「好きなら好きで、いいじゃんってさ」
私を見つめて、つり上がりぎみの目もとを優しく細める。
「だからオレは、いまでも松原香緒里が好きなんだ」
───息が、止まりそうになった。
改めて、思いしらされた気がする。
この人はなんて真っすぐに、自分の気持ちをぶつけられる人なんだろう。
それでいて、相手に負担をかけない物言いに、しばらく言葉が見つからなかった。
ようやく口をついてでたのは、苦し紛れの皮肉でしかなかった。
「……ずいぶん、楽天的なことを言うんですね。
うらやましいです、先輩が」
「だーろー?
そしてオレの魅力を再確認する松原。
まさしく愛は勝つ」
「なんなんですか、それは。
言っておきますが、先輩のことを褒めたつもりはないですよ?」
「あれ? 違うの?」
まったくもう。すぐに調子にのるんだから。
けれども、やっぱりおかしくて、私は声を立てて笑いだした。
神社の境内に立ち並ぶ夜店を、冷やかしながら歩いていく、佐竹先輩。
そのあとを追いながら、時折、藍色の空に上がる花火を、見上げていた。
夜店が切れるあたりまで来た時、先輩が腕時計に目を落とし、それから私を見た。
「松原、これからちょっと付き合ってもらいたい所があるんだけど、いいかな?」
「……付き合う? どこにですか?」
「はっ。その目はオレを疑っているな!?
前にも言ったが、オレは本人の意思も考えないで」
「分かりました。茶化さなくて結構です。
どこに、付き合えばいいんですか?」
皆まで言わせずにさえぎると、佐竹先輩はわずかに目を細めて私を見た。
「夢見ヶ丘」
あまりにも穏やかで静かな声は、私の調子を狂わせた。
「今から、行くんですか?」
「ん」
短く佐竹先輩はうなずき返し、私の手を引いて歩きだした。
先輩……?
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる