【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼

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【第五章】

先輩と花火と本当の気持ち⑥

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私は佐竹先輩の、何を見てきたんだろう。

話し方や、調子のいいところとか。

そんな、与太郎くんに似ているところにばかり惑わされて、本当の佐竹先輩を見失っていたうえに、自分の気持ちさえ、分からなくなっていたなんて……。

似ているから、突き放せないのではなく。
嫌いになれないのは、ずっと、好きだったから。

自分の気持ちを認められなかったのは、与太郎くんに似ている人を好きになってはいけないのだと、決めつけていたから。

佐竹先輩を与太郎くんの代わりにしようとする自分が、ゆるせなかった……!

そうではないのに、そう思っていたから、よけいに苦しくて……。

───ばか、みたい。
与太郎くんじゃないから、好きだったのに。

佐竹先輩が、佐竹先輩だからこそ、好きだったのに。

それなのに……本当に馬鹿だ、私は。

奥歯をかみしめて、自分を落ち着かせるように深呼吸した。

私は与太郎くんに、言わなくてはいけない。

自分の弱さから傷つけてしまった彼に対して、真実を告げなくてはならない。

それはきっと、彼のためでもあり、私のためでもあるのだと思う。

お互いに、過去を取り戻すことはできなくても、修正することは、できるかもしれない。

そう思って、立ち上がった。


       §


与太郎くんは、佐竹先輩が公園をあとにしてから、五分くらいして現れた。

私がここにいることを予想していなかったらしく、私を見つけた時の彼の顔が、それを物語っていた。

そんな彼に向かい、ちょっと笑った。

「今晩は。なに、驚いているの? 私がここにいるから?」

言いながら、かけていた眼鏡をそっと外す。

与太郎くんの背にした満月が、幾重にもぶれて、大きな光の玉のように見える。

私は、与太郎くんとのあの一件以来、自分を守るひとつのすべとして、黒縁の眼鏡をかけた。

眼鏡をかけることによって、他人に対して冷ややかに接することができたのだ。

それは、いつだったか冗談まじりに真史おじさまの眼鏡をかけさせてもらった時に、シンちゃんに言われたことをヒントにしていた。

自分が眼鏡をかけた時の印象が、やけにきつく見えるということを───。

そうやって、最初は他人を寄せつけないための手段だった だて眼鏡も、中学を卒業する頃には、近眼のためのそれに変わっていた。

その眼鏡を外すことによって与太郎くん───タロちゃんと数年ぶりに、本当の意味で向かい合うことができたのだった。

「……久しぶりだね、タロちゃん」

微笑んで、久しぶりに呼びかける名前。

呆然とこちらを見つめて立ち尽くす彼に、これから私が話す真実ほんとうの過去が、彼の心に残った傷を少しでも癒すことができるよう、祈りながら口を開いた。




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