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暗転 1.
──出し抜かれた。
わたしは血が出ない程度に唇を噛んだ。
傍らに目をやれば、オルギールは氷の無表情のまま。
三公爵も同様。
いちいち腹の内を表情に出してしまう自分は未熟者としか言いようがないなと、わたしは努めて平静を装うことにした。
我々の眼前には、隊商・セレンディーヤの捕縛に当たった責任者が膝をついている。
わたしも夫たちも一言も発しないのがかえって強烈な圧となっているのか、うなだれたまま決しておもてをあげようとしない。
「──続けて」
彼にとってはうそ寒いであろう沈黙を破り、わたしは声をかけた。
ひくっとわずかに肩を揺らせて、男は頷いた。
「……失踪者はもちろん、何も誘拐の痕跡は見当たりませんでしたが……とりあえず隊商の関係者全員を捕らえ、互いに口裏を合わせぬようおしこめておりますが……とにかく奴らが申しますには、商売をしていただけだ、無体なと騒ぎ、何も出ないであろうと我らを、我らばかりか御方様を嘲る始末にて」
「わたしを?」
「なんだと」
わたしが引っ掛かったのと、夫たちが目をぎらりと光らせたのはほとんど同時だった。
聞き捨てならんな、と気色ばむレオン様他を目顔で制止して、
「何でも言って。どんなことでも、あなたたちが耳にした通りの言葉で」
そうだ。本当なら自分で最前線に行きたいくらいなのだから、とにかく生の声を聞きたい。
フィルター無しの、現場の肉声を。息づかいを。
「どんな言葉を聞こうと、それは報告。あなたを咎めたりはしないから」
「承知致しました」
わたしが畳みかけると、責任者は腹を据えたらしい。
ごくりと唾を飲むと、顔を上げた。
わたしと直接目を合わせぬよう、襟元あたりに視線を向けている。
「……令状もなく非道の極み、これがグラディウスのやり方かと言っているうちはマシなほうでして。……そのうち、もしや御方様のご命令ですかな、と。善良な隊商の我らに目をつけ、商売の何たるかも知らず、城の奥深くで手柄目当てに指示を飛ばすだけとは片腹痛しと……ひ、えええええっ」
責任者は最後まで言い終えることができず、語尾はそのまま悲鳴に変わった。
夫たちの圧どころか、殺気にあてられたのだ。
「首をはねろ。不敬罪だ」
と、レオン様。
「その前にたっぷりと苦しませなくては。無礼の代償に」
オルギールも言う。
「おい、不届き者は何名だ?何人、首をはねればよい?」
日頃は温厚なルードも容赦ない。
「まあ、死罪などいつでもできるからな。その前にまだやることがありそうだ」
ユリアスが一番冷静に聞こえるけれど、死罪は前提らしい。
「──物騒な刑罰はさておき」
わたしは話を引き戻した。
不敬罪で首をはねるなんて。どこの恐怖政治だと思う。
「ねえ。そいつらは、わたしを、罵ったのよね?」
「は、はあ……っ、おそれ、ながら……」
「あなたは報告者。あなたを咎めているのではない。落ち着いて」
縮み上がっているらしい男に、わたしは宥めるように繰り返した。
もっと聞きたいのだ。
何か、ひっかかる。
「捕物の時。御方様の命だ!とか声をかけた?」
「いえ、何も」
男は頭を振った。
「臨検だ、とのみ。──なぜだと騒ぐゆえ、内々に投書、報告を受けている。申し開きあらばあとで聞くとだけ」
「ふん。……減らず口はわかるが、その流れでなぜリーヴァを?」
「そう、そこなのよ、レオン様」
わたしは大きく頷いた。
それが、違和感の正体だ。
いきなり臨検が入って、問答無用に拘束され、荷駄を押収されたら、悪態をつくのは想像できる。
グラディウス一族を罵るとか、ちょっと踏み込んでも、現筆頭公爵・ルードのことを持ち出すならわかる。
なぜいきなり、わたしなのか。
わたしが関わる、関心を持っている案件だとなぜわかる?
わたしは情報室長だけれど、表向きは「姫将軍」だ。警察権には直接的に関与していないことになっている。
もちろん、公爵家によるトップダウン式施政だから、「御方様」であるわたしにも警察権だろうがなんだろうが、各所に及ぶ権力があるとはいえ、それでもほとんどの刑事事件、民事事件にいちいち施政者である我々が関与することはない。
なのに、どうしてわたしが奴らの悪態の的になるのか。
「──リヴェア様が関わるはず、と。……まるで初めからリヴェア様に気づかれることを予定しているかのような……」
オルギールのちいさな呟きは、それでもここにいる全員に十分聞こえるもので。
そして、我々全員の胸の内を代弁したといってよいだろう。
彼の銀色の頭の中でどのような思考、推理がされていたのかわからないが、オルギールはわたしに一礼してから半歩進み出た。
以降の質問を自分に任せてほしいということらしい。
「荷駄の中身は?」
「茶葉関連と言えど多岐に及びますゆえ。──どうぞ、こちらを」
男はかくしから小さく折られた紙を取り出した。
捧げられたそれを、オルギールが受け取ってすばやく目を走らせる。
便箋くらいの大きさの紙、三枚ほどに、細かな字でびっしりと押収した荷駄の目録らしきものが書き込まれているが、万能の人・オルギールは当然速読の達人でもある。
「──やはりありますね」
ひと呼吸くらいの間を置いて、オルギールは頷きつつ言った。
誰も「何を」とは言わない。
報告者の男は問いたかったかもしれないが、この場における自分の立場を鑑みて、あえてなにも口にするつもりはないようだ。
夫たちの圧には相当縮み上がっているようだが、思考停止にまでなっていない。
うつむき加減に、おとなしく次の命を待っている。
「かなりの量です。茶葉の一部として取り扱う量ではない。──なるほど」
「なるほど、って」
どういう意味?と尋ねると、オルギールはわたしに紫水晶の瞳を向けた。
ほんのわずか、わたしにしかわからない程度に眼差しを和らげたけれど。
「これの使い方です。娘達の失踪の事情がわかるかもしれない」
口調だけはまったく感情を込めることなく、オルギールは淡々と言った。
わたしは血が出ない程度に唇を噛んだ。
傍らに目をやれば、オルギールは氷の無表情のまま。
三公爵も同様。
いちいち腹の内を表情に出してしまう自分は未熟者としか言いようがないなと、わたしは努めて平静を装うことにした。
我々の眼前には、隊商・セレンディーヤの捕縛に当たった責任者が膝をついている。
わたしも夫たちも一言も発しないのがかえって強烈な圧となっているのか、うなだれたまま決しておもてをあげようとしない。
「──続けて」
彼にとってはうそ寒いであろう沈黙を破り、わたしは声をかけた。
ひくっとわずかに肩を揺らせて、男は頷いた。
「……失踪者はもちろん、何も誘拐の痕跡は見当たりませんでしたが……とりあえず隊商の関係者全員を捕らえ、互いに口裏を合わせぬようおしこめておりますが……とにかく奴らが申しますには、商売をしていただけだ、無体なと騒ぎ、何も出ないであろうと我らを、我らばかりか御方様を嘲る始末にて」
「わたしを?」
「なんだと」
わたしが引っ掛かったのと、夫たちが目をぎらりと光らせたのはほとんど同時だった。
聞き捨てならんな、と気色ばむレオン様他を目顔で制止して、
「何でも言って。どんなことでも、あなたたちが耳にした通りの言葉で」
そうだ。本当なら自分で最前線に行きたいくらいなのだから、とにかく生の声を聞きたい。
フィルター無しの、現場の肉声を。息づかいを。
「どんな言葉を聞こうと、それは報告。あなたを咎めたりはしないから」
「承知致しました」
わたしが畳みかけると、責任者は腹を据えたらしい。
ごくりと唾を飲むと、顔を上げた。
わたしと直接目を合わせぬよう、襟元あたりに視線を向けている。
「……令状もなく非道の極み、これがグラディウスのやり方かと言っているうちはマシなほうでして。……そのうち、もしや御方様のご命令ですかな、と。善良な隊商の我らに目をつけ、商売の何たるかも知らず、城の奥深くで手柄目当てに指示を飛ばすだけとは片腹痛しと……ひ、えええええっ」
責任者は最後まで言い終えることができず、語尾はそのまま悲鳴に変わった。
夫たちの圧どころか、殺気にあてられたのだ。
「首をはねろ。不敬罪だ」
と、レオン様。
「その前にたっぷりと苦しませなくては。無礼の代償に」
オルギールも言う。
「おい、不届き者は何名だ?何人、首をはねればよい?」
日頃は温厚なルードも容赦ない。
「まあ、死罪などいつでもできるからな。その前にまだやることがありそうだ」
ユリアスが一番冷静に聞こえるけれど、死罪は前提らしい。
「──物騒な刑罰はさておき」
わたしは話を引き戻した。
不敬罪で首をはねるなんて。どこの恐怖政治だと思う。
「ねえ。そいつらは、わたしを、罵ったのよね?」
「は、はあ……っ、おそれ、ながら……」
「あなたは報告者。あなたを咎めているのではない。落ち着いて」
縮み上がっているらしい男に、わたしは宥めるように繰り返した。
もっと聞きたいのだ。
何か、ひっかかる。
「捕物の時。御方様の命だ!とか声をかけた?」
「いえ、何も」
男は頭を振った。
「臨検だ、とのみ。──なぜだと騒ぐゆえ、内々に投書、報告を受けている。申し開きあらばあとで聞くとだけ」
「ふん。……減らず口はわかるが、その流れでなぜリーヴァを?」
「そう、そこなのよ、レオン様」
わたしは大きく頷いた。
それが、違和感の正体だ。
いきなり臨検が入って、問答無用に拘束され、荷駄を押収されたら、悪態をつくのは想像できる。
グラディウス一族を罵るとか、ちょっと踏み込んでも、現筆頭公爵・ルードのことを持ち出すならわかる。
なぜいきなり、わたしなのか。
わたしが関わる、関心を持っている案件だとなぜわかる?
わたしは情報室長だけれど、表向きは「姫将軍」だ。警察権には直接的に関与していないことになっている。
もちろん、公爵家によるトップダウン式施政だから、「御方様」であるわたしにも警察権だろうがなんだろうが、各所に及ぶ権力があるとはいえ、それでもほとんどの刑事事件、民事事件にいちいち施政者である我々が関与することはない。
なのに、どうしてわたしが奴らの悪態の的になるのか。
「──リヴェア様が関わるはず、と。……まるで初めからリヴェア様に気づかれることを予定しているかのような……」
オルギールのちいさな呟きは、それでもここにいる全員に十分聞こえるもので。
そして、我々全員の胸の内を代弁したといってよいだろう。
彼の銀色の頭の中でどのような思考、推理がされていたのかわからないが、オルギールはわたしに一礼してから半歩進み出た。
以降の質問を自分に任せてほしいということらしい。
「荷駄の中身は?」
「茶葉関連と言えど多岐に及びますゆえ。──どうぞ、こちらを」
男はかくしから小さく折られた紙を取り出した。
捧げられたそれを、オルギールが受け取ってすばやく目を走らせる。
便箋くらいの大きさの紙、三枚ほどに、細かな字でびっしりと押収した荷駄の目録らしきものが書き込まれているが、万能の人・オルギールは当然速読の達人でもある。
「──やはりありますね」
ひと呼吸くらいの間を置いて、オルギールは頷きつつ言った。
誰も「何を」とは言わない。
報告者の男は問いたかったかもしれないが、この場における自分の立場を鑑みて、あえてなにも口にするつもりはないようだ。
夫たちの圧には相当縮み上がっているようだが、思考停止にまでなっていない。
うつむき加減に、おとなしく次の命を待っている。
「かなりの量です。茶葉の一部として取り扱う量ではない。──なるほど」
「なるほど、って」
どういう意味?と尋ねると、オルギールはわたしに紫水晶の瞳を向けた。
ほんのわずか、わたしにしかわからない程度に眼差しを和らげたけれど。
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