溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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6.-13

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 広大な版図を有する、グラディウス一族。
 三公爵それぞれの領地以外に、「グラディウス直轄領」として、一族の共有となっている地も各所にある。
 今回、戦争が勃発したのは、その、一族の所領のひとつだ。

 ウルブスフェル。
 「鉄の町」と称される、一族直轄領の中では中規模の、歴史ある都市のひとつである。

 こちらの世界でも、元の世界同様、「鉄は世界を制す」らしく、鉄の算出、精錬などは各国がしのぎを削っていて、グラディウス一族も同様に力を入れている。剣などの武器や日用品の出来栄えを見る限り、製鉄技術はなかなかのものだと思う。この世界に初めて来たばかりのときには、中世?と思ったけれど、生活のレベル、文化程度はもっとずっと発達している。電気や科学技術による動力、銃火器がないだけで、近世、近代の生活に近い。特に、一般庶民の生活を考えれば、例えば、産業革命時の庶民とは比べ物にならないほどゆたかで、清潔なものだ。

 そんなこの世界においても重要な製鉄産業だけれど、この町、ウルブスフェルは、特に高品質な武器の製造、加工に優れた業者が集まり、有力なギルドを形成していることで知られた町だった。当然、産出される武器の最上のものは、グラディウスへ優先的に出荷される。それ以外のものは、陸路のみならず海にも良港を有する恵まれた地理的条件もあって、各都市へ、各国へと送り出される。その利益が、町を潤しひいては直轄領として所有するグラディウスを潤してゆくのだ。代々、ギルド長と、グラディウスから派遣される総督とは、互いを尊重して良好な関係を保っており、火種の発生する余地などなかったように思われた。---それが、ゆたかさと平和を享受していたグラディウスの、ある意味必然的な油断と言えた。

 それが発覚したのは、些細なきっかけだったらしい。

 二か月弱前のこと。三公爵の本拠地、公都・アルバにて、貴族の子弟による私的な決闘があり、その際、負けた方が使用していたのが、「この決闘のために」ウルブスフェルからわざわざ取り寄せた最上級の剣だった。その剣が、試合中に刃こぼれをして、それがもとで彼は試合に負けてしまった。本当にそれが原因かどうかは神のみぞ知るだが、少なくとも敗れた彼は剣のせいだと思いこみ、剣を仕入れた業者へ強烈な苦情を入れた。
 業者は、首を傾げた。
 うるさい貴族のドラ息子に詫び、なだめすかしつつ、似たような報告がいくつか上がってきていることに気づいたのだ。いずれも、購入後間もなく、予想外の刃こぼれが生じ、最悪は折れてしまうと。
 この業者が違和感を感じて調査のために腰を上げたことが、今回の火種を発見したきっかけだった。
 業者は代々一流の武器を扱っており、そのうちの一つがウルブスフェルの剣である。時折、公爵家からも買い上げられる武器を扱う者の矜持として、品質の劣るものを紛れ込ませてしまうことなど許せるわけがない。それに、実際そのような品質のものを看過したとなれば、この業者に明日はない。

 ------業者による独自の調査結果は、驚愕ものだった。すぐに、三公爵の居城へ報告が上げられた。

 約半年前から、グラディウスが派遣した総督を直接見た者がいないこと。
 ちなみに、彼は家族を公都に残したまま単身赴任をしていたため、発覚が遅れたのである。
 グラディウスへ出荷される剣の量がゆるやかに減ってきたこと。
 それに比して、港から近隣の島を中継して出荷される量が増えていること。近隣の島は、通称「海の民」の自治領であり、当初、町のギルドと、海の民からから提供を受けた資料では異変がわからず、陸路の出荷分も調査して発覚したこと。
 ギルド長が交代してかららしいこと。
 決定打は、町へ流入する人々、特に傭兵の急増だった。
 地の利がよいから、この町を経由して、海へと向かう人々は多い。しかし、町に入った兵士達はそのまま町に滞留している。

 これだけの条件が揃えば、ウルブスフェルで何かが起こっていることに間違いはない。
 すぐに、公都から、兵が差し向けられた。手柄欲しさに名乗りを上げた、今年成人したばかりの子爵家の三男が兵を率いることとなった。その数、千五百。
 町には百余りだが、総督付きの兵士もいる。内と外で兵を展開すれば、多少の戦闘行為で制圧可能。誰もがそう思ったのだが。
 
 予想は悪い方にはずれた。

 まずは、使者にたった兵士二人が、殺された。
 馬で戻ってきた二人には、首がなかったのである。馬は、首のない主を乗せて、町を囲むグラディウス軍へ戻ってきたのだ。
 激高したグラディウス軍は、すぐに総攻撃を始めた。いや、始めようとしたができなかった。
 破城槌を作動させると、間髪を入れず城壁から次々と何かが投げ出された。---ひとの、首が。
 苦悶に歪むもの、悟ったように静かに目を瞑ったもの、憤怒のためか、歯を食いしばり、自らの歯を割り砕いているもの。・・・総督付きだったグラディウス兵達の首。
 あまりの残虐さに震え上がり、攻撃の手を止めたグラディウス軍のもとへ、町から一本の矢が射込まれた。
 結ばれていた文を読めば。------この町の独立を認めよ、さもなくばまだ生存する総督はじめグラディウス兵全てを惨殺すると。ギルド長の署名入りで。

 ここに来てようやく、事の重大さ、もっと言えば、若い貴族の初陣などで済ませられないことに気づいたグラディウス家は、初手のもたつきを払拭するためにも、公爵自らが率いる大軍を派遣することにしたのだ。一気に、決着をつける構えで。
 その数、二万。------一万を総大将であるシグルド・オーディアル公爵が率い、副将としてウルマン少将が付く。残り一万の内訳は、ラムズフェルド公の武官、ソロウ少将と、エヴァンジェリスタ公の武官が率いる各五千。
 
 「エヴァンジェリスタ公の武官」が、この私、リヴェア・エミール・ラ・トゥーラ准将だ。
 五千の中には、私自身が鍛えた別動隊八十騎も含まれていて、私が軍を離れたら、残されたエヴァンジェリスタ公配下の兵士達は、ソロウ少将の指揮下に入ることになっている。

 良港と、陸路と、背後には天然の要害ともいえる山に抱かれた町、ウルブスフェル。
 この町を、「大勝利と共に」奪還することが、この世界で初めて課せられた私の任務なのだ。

 よく晴れた「花月」のとある日の朝。------私は侍女たちには泣かれ、レオン様には直前まで窒息死寸前まで抱きしめられてから、公都・アルバを後にした。
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