翼 アフェアーズ

柴川まる

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第4章 初めての体育

第4話 公開!翼の艶姿

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「えっ……どうしよう。
 僕、ジャージもハーフパンツも持ってきてないよ、兼光」

 僕の言葉に翼がますます不安げな様子になってしまった。

「良いじゃない、その程度の事。
 今日は暑いからちょうど良いって。
 それに、そもそも、それが本来正しい三高女子の体操服なんだしね。
 青春真っただ中の男の子達を少しは喜ばせてあげなさい。
 まあ、あなたの場合、そもそも女の子じゃないんだけどね」

 そんな翼を見て宇野先生はあっけらかんとした表情でそう言って笑った。

「それじゃ、僕、このままで良いかな、兼光?」

 宇野先生にそう言ってもらえても翼はまだ不安そうだった。翼は僕をすがる様な目で見ながらそう尋ねた。

 ああっ、その捨てられた子猫の様な表情、たまらないよ、翼。それに、そんなに僕を頼りにしてくれているなんて、僕はもう今死んでも何の悔いもない。僕は心の中で激しくガッツポーズをとった。

 ただ本音を言えば、僕はこんな素敵な翼の姿を僕以外の野郎どもにタダで見せてやるのは嫌だった。でも、だからと言って翼にそんな理由で体育の授業を休ませることなど、僕にはできない事も分かっていた。

 
 そんな時、無情にも次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴ってしまった。体育の授業はチャイムが鳴り終わった時点で所定の場所に整列して先生を待っているのが基本だ。つまりこの時点で僕と翼は次の体育の授業へは遅刻が確定してしまっていた。しかも僕らの体育を担当するのは厳しい事で有名な吉川先生だ。初の体育の授業から吉川先生に雷を落とされる翼の事を考えると僕はかなり不安になった。かと言って今僕らにできる事は、とにかく一秒でも早く運動場に駆け付け、少しでも吉川先生の心証を良くする事だけだった。

 ちなみにこの吉川先生は厳しいと言っても決して良くいる鬼教師ではない。年も若く、普段は生徒と先生と言うより、仲の良い先輩後輩と言う感じで僕らに接してくれる良い先生だ。ただ僕らが勝手な理由でルールや規則を破ったりした時には非常に厳しく注意指導が入るのだ。だから、この吉川先生は静ちゃん並みに生徒に人気がある。ルックスも結構イケてるので特に女子にモテてる様だ。女子連中に言わせると体育教師に多い筋肉バカ系じゃなく三高OBで頭も結構良いのがポイント高いそうな。

「翼、とにかく急ごう!」

 僕は翼の手を引いた。

「先生、ありがとうございました。
 僕らは運動場へ急ぎます」

 そして宇野先生にそう言って一礼すると保健室を出て運動場へと駆け出とした。

「私から吉川先生には事情説明入れとくから安心しなさい!
 それより二人仲良く手をつないで走るのは良いけど転ばないようにね!」

 翼の手を引いたまま保健室を慌てて出て行く僕の背中に、宇野先生がそう声を掛けていた。


「ようっ! 暮林!
 美人の彼女といちゃついてて授業に遅刻たぁ、良い度胸じゃねぇ~か!」

 僕が翼の手を引っ張って体育館前の所定の位置に駆け込んだ時、他の男子生徒達はすでに整列して準備運動を始めていた。準備運動をリードしていた吉川先生は僕と翼の姿に気が付いてまるでヤクザの様な口調で怒鳴った。でも、口調は確かにヤクザの様だったけど、先生の顔は明らかに僕らを茶化す様に笑っていた。

「先生、遅れました! すみません!」

 僕は吉川先生の前に駆け込むとすぐにそう叫んでから姿勢を正し深々と一礼した。まず自分の非を認め謝る。言い訳を口にするのは先生から理由を問われてから。これがこの人を相手にした時のコツだ。

「すみません、吉川先生。
 これは全部、僕の所為です。
 兼光は僕に付きあっただけです」

 頭を下げていたのではっきりとは分からなかったが、たぶん翼も同じ様に頭を下げていたのだろう。僕の耳元辺りで翼の声がした。

 ああっ、翼が僕を庇ってくれている。いや僕を救う為に罪を全部被ろうとしている。僕はなんて幸せ者なんだ。僕はこんな緊急事態なのにほっぺたがとろけそうになった。

「おうおう、顔だけじゃなく性格も可愛いねぇ。
 こんな時でも彼氏を庇おうとするなんてなぁ」

 吉川先生はそう言って豪快に笑った。

「冗談はこの位にして……と。
 大丈夫だ、事情は宇野先生から聞いてる。
 お前らはこのまま列の横についてさっさと準備運動を始めろ」

 それから吉川先生はそう続けた。僕は、吉川先生の雷が落ちなかったことにほっとひと安心した。そして適切な処置をとってくれた宇野先生に感謝した。


 僕と翼は生徒達の列の横に向かって速足で移動した。その時僕は、ほとんどの男子が準備運動しながら、その視線はリードする吉川先生ではなく僕らの方へ向けているのに気が付いた。いや正確には『僕ら』でなく『翼』にだ。しかもその視線は、あのロッカー室で翼に向けられていたのと同じ種類の視線に間違いなかった。

「ブルマだ……」

「初めて生で見た……」

「男だけど何かエロい……」

 さらには、ぼそぼそとそんな言葉までもが僕の耳に届いた。

 僕は、あの時、あのまま適当な理由を付けて今日だけは翼に体育休ませるべきだったかなとちょっと思った。そして、体育の授業だけは翼に男子の体操服を着させるように強く指導しようと心に決めた。まあ、結論から言いうとそれは出来なかった。何故なら、その事を翼に言う前に、僕はこの時一緒に体育の授業を受けた男子たちに拉致られたのだ。そして、もし翼のブルマ姿を葬ろうとなんて事したら殺すと、きつく釘を刺されてしまったのだ。結局、三組四組の男子生徒にとって、少なくとも夏の体育授業は翼の素敵なブルマ姿を愛でる時間となってしまった。

 しかし、この日に限って言えばの体育の授業では男子生徒達は思ったほど翼のブルマ姿を堪能することは出来なかった。それと言うのも準備体操が終わった後、翼と僕はすぐに吉川先生に呼ばれこう言われたのだ。

「とりあえず如月の基礎体力や運動能力を知っておきたいから、
 今日、如月はちょっと別メニューな。
 暮林は俺と一緒に計測などの手伝いをしてくれ」

 そしてその言葉通り、その後、僕は、他の生徒達とは別に翼の100m走や幅跳びやボール投げ等の体力測定の手伝いをした。そして他の男子達は今やっているバスケットボールを試合形式で自主的にやる事になった。
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