翼 アフェアーズ

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第4章 初めての体育

第6話 始まった試合

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 一通り計測種目をこなしても翼はまだ体力を十分に残っている様だった。もしこれが僕ならば最後の1000m走をした時点で身動きできなくなるのは確実だ。もしかしたらこれでも翼はまだ自身の実力を全部出し切ってはいないんじゃかと僕はふと思ってしまった。

 また翼の体力だけでなく、計測を終えてもまだ少し授業時間の方も残っていた。そこで翼と僕は、他の生徒がやっていたバスケットの試合形式練習に合流することになった。

 今日はクラスと名簿番号を使って四チーム分けがなされていた。各チームの人数の関係で残念ながら僕と翼は別々のチームに編入させられてしまった。当然、僕は、翼と別々のチームになるのは少々不満だったがこればっかりは仕方ない。しかし、幸いな事に僕が編入させられたチームはちょうど、翼が編入させらたチームと試合をするところだった。これで僕は別チームながらじっくりと翼の姿をすぐ傍で愛でることが出来るわけだ。

 翼はさっそくスタメンに入れられ試合に参加することになった。一方、僕の方は適当な理由を付けて控えに回してもらった。理由は言わずもがなコートを駆け回る翼の素敵なブルマ姿を思う存分視姦、もとい、応援する為である。もちろん、こう思ったのは何も僕だけではない様だった。こうなると、スタメン希望者が逆に少なくて揉めそうになると誰もが思う。しかし世の中、巧く出来ているらしく、外から見てるより、もっと間近で翼のブルマ姿を堪能したいと考えるも者を居る。その為、うちのチームも相手のチームもスタメンは比較的すんなりと決まった。

 さらに、いつの間にかコートの周りには、試合をするチームの控え選手より多くの男どもが集まって来ていた。控えに回った奴らは、どいつもこいつも自分たちのチームの試合をほったらかして翼の出てる試合を観戦、いや鑑賞に来たのだ。まったく、スケベな奴らである。まあ、僕も他人の事は言えないし、思春期真っただ中の男の子なら当然とも言える行動なのだろう。いや、翼が本当は男だって事を考えるとこれはやっぱり異常事態なのかもしれない。

 他のスタメン選手と一緒にコート内へと入って行った翼は中央サークルからちょっと離れたサイドラインに近い場所に立った。そして、翼はブルマとお尻側の太ももの境に人差し指を入れ、少し上側に上がってしまっていたブルマの位置を戻した。それは生まれてからずっと男の娘をやっていた翼にとっては無意識の仕草だったのだろう。でも、それはブルマ姿の一般女子をこんな近くで見たことのない僕らにとっては、あまりに衝撃的かつエロティックな仕草だった。これこそ今は伝説と化しアニメでしか見る事のない、ブルマを履いた女の子のテンプレ仕草だ。僕らの青い衝動はいやが上にも?き立てられた。

「おおおっ……」

 多くの男子生徒が異様に目を輝かせ、ほとんど同時に同じ様な低い声を漏らした。もちろん、僕も無意識の内に同じ声を漏らしていた。そして男子の視線は一気に翼に集中した。いや正確に翼の下半身にぴたりと張り付くブルマにと言った方が正しい様な気がした。


 しかし、こんな僕らの不健全かつ不真面目な考えはすぐに吹き飛ばされる事となる。


 ジャンプボールは弾いたのは翼が居るチームの生徒だった。

 翼はジャンプしたチームメイトがボールを弾くのを見るや否や相手ゴールへ向かって走り出していた。

 そして、弾かれたボールをキャッチした奴も、ずっと翼を目で追っていたのだろう、躊躇なく翼に速いパスを送った。

 そのパスをしっかり受け取った翼は速度を落とすことなく高速ドリブルで一直線に相手ゴールへ走った。

 そのあまりに華麗で素早い翼の速攻に誰もがこのままゴールが決まるのではないかと思った。しかしゴール下直前でなぜか翼の足はぴたりと止まってしまった。

 そう、ゴール下にはすでに相手チームの生徒が、一人翼を待ち構えて立っていたのだ。


 彼はその存在感から、誰もが知る一年ではかなりの有名人だった。

 彼の名は一年四組の生徒で『峰岸みねぎし とおる』。中学時代からバスケ部レギュラーを務め、体育特待生として三高に入った男だ。もちろんこいつは現在も三高バスケ部レギュラーを務めている。190cmを超える細身の長身と長い手足、きりりとしたジャニーズ系の顔。その上にスポーツ特待生のくせに成績も結構良い。その為、一年女子はもちろん、上級生の女子達もかなりの人気がある。噂だと二歳年上になる三年生の某美人と密かに付き合ってると言う噂まである。マジで『リア充爆発しろ』って野郎だ。

 峰岸は、ボールが敵方に渡ると見るや否や自陣のゴール下へ駆け出していた。翼が高速ドリブルをして進んだのとは逆サイドを通っていたので、奴の動きに僕らはまったく付かなかったのだ。

 峰岸はその長身を生かして、まるで獲物を威嚇する大熊の様に両手を広げて翼の行く手を遮った。女子として見れば身長が高く感じる翼だが、男子としては結構小柄な部類になる。翼もこうなっては、目の前に天に届く高い壁が出来たのと同じで、前へ進む事もシュートを打つ事も出来なくなっていた。

 それでも翼はボールを取られまいと両手でしっかりと持ってその峰岸を見上げていた。その時、峰岸は体つきが女の子と変わらない華奢な翼相手の攻防戦に勝利を確信していたのだろう。翼を見降ろして余裕の笑みを浮かべていた。

 翼はパスを出そうと周りを見回したが、すでにどの味方プレイヤーにもマークがぴたりと付いていた。そればかりか目の前の大男は翼の体に触れそうなほど接近している。ここで下手にパスを出そうとすればすぐに上からボールを叩き落されてしまう可能性が高かった。かと言ってこの峰岸を抜いてシュートを決めることも不可能に思われた。

 翼が躊躇しているのを見て、峰岸が翼の持つボールを叩き落そうとした時だった。

 その時、当の峰岸には何が起こったのか分からなかったのだろう。彼がボールを捉えたと確信したその手は何の抵抗もなく真下まで一気に振り下ろされてしまったのだ。

 そして、なぜか翼が持っていたはずのボールはゴールリングを綺麗に通り抜けてそのままコートに落ちていた。
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