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籠の中の鳥
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徳増が無言で上着を脱ぎ、優子を覆い、秀人を退けるまで一瞬の出来事であった。
床に投げ出された秀人は徳増の非礼を指摘しようとするも、続いて家長の靴が入室する。
「秀人君、あまり娘をいじめないでやってくれるか?」
家長の加減が悪いと伝えられていたものの、想像以上にやつれており顔色は優れない。明らかに肉付きも落ちており、これには優子も驚いた。
「お、お父様!」
「お嬢様、こちらを羽織ってください」
父親に駆け寄る前に上着をかけ直され、乱れた着衣から覗く素肌に獣の爪痕がしっかり残っているのを理解する。
こんな格好じゃ父に合わせる顔がない、優子は寝台の上から降りられなくなる。
「お義父とはいえ、寝所に乗り込んでくるなんて少々野暮ではないですかね?」
「暁月様、旦那様に口答えをなさいませんように」
「は、どうせ、お前の仕業だろうが。臥せってる旦那様を引き摺ってきやがって」
秀人は興が削がれたとばかり舌打ち。それから徳増により保護された優子を睨む。
優子の震える手は徳増を離せず、寄り添っているように映る。
「今日のところは許してやっておくれ。頼む」
花嫁の父親にこう言われては秀人とて引き下がるしかない。しかし、まぁ、面白くない。
秀人は不貞腐れたまま席を外そうとし、何かを思い付いて踵を返す。
事態の終息を確信し油断する徳増を自分がされた風に転ばせ、皆の前で優子の唇を激しく奪って見せた。
受け身の優子でなくても、この口付けに慈しみの一片も含まないのが察せられる。
「邪魔が入れない初夜が楽しみだな、優子お嬢さん」
秀人はそんな高笑いを優子に浴びせ、部屋を後にする。父や教育係の前で口付けをされた衝撃が優子を泣かせ、はたはたと涙が頬を伝う。
「あ、わ、わたし、お見送りを」
「お嬢様、しなくていいです。勝手に来たのですから勝手に帰ればいいんですよ」
「でも」
徳増は秀人の見送りなど当然しない。
「それよりも私はお嬢様が心配です」
手布を優子の口元へ当てた。
「唇が切れて血が滲んでいます。痛みますか?」
「わたしは大丈夫よ、あなたはお父様をお部屋に連れていって」
言動と表情がちぐはぐ。あんな屈辱的な行為をされて大丈夫なはずがない。
「優子様」
「本当に平気。お父様を早く。お父様、こんな娘で申し訳ありません」
優子は寝台から降り、深々と父へ頭を下げる。あんなに顔を見たかった相手なのに、今は顔を見るのが怖くなってしまう。
床に投げ出された秀人は徳増の非礼を指摘しようとするも、続いて家長の靴が入室する。
「秀人君、あまり娘をいじめないでやってくれるか?」
家長の加減が悪いと伝えられていたものの、想像以上にやつれており顔色は優れない。明らかに肉付きも落ちており、これには優子も驚いた。
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「お嬢様、こちらを羽織ってください」
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こんな格好じゃ父に合わせる顔がない、優子は寝台の上から降りられなくなる。
「お義父とはいえ、寝所に乗り込んでくるなんて少々野暮ではないですかね?」
「暁月様、旦那様に口答えをなさいませんように」
「は、どうせ、お前の仕業だろうが。臥せってる旦那様を引き摺ってきやがって」
秀人は興が削がれたとばかり舌打ち。それから徳増により保護された優子を睨む。
優子の震える手は徳増を離せず、寄り添っているように映る。
「今日のところは許してやっておくれ。頼む」
花嫁の父親にこう言われては秀人とて引き下がるしかない。しかし、まぁ、面白くない。
秀人は不貞腐れたまま席を外そうとし、何かを思い付いて踵を返す。
事態の終息を確信し油断する徳増を自分がされた風に転ばせ、皆の前で優子の唇を激しく奪って見せた。
受け身の優子でなくても、この口付けに慈しみの一片も含まないのが察せられる。
「邪魔が入れない初夜が楽しみだな、優子お嬢さん」
秀人はそんな高笑いを優子に浴びせ、部屋を後にする。父や教育係の前で口付けをされた衝撃が優子を泣かせ、はたはたと涙が頬を伝う。
「あ、わ、わたし、お見送りを」
「お嬢様、しなくていいです。勝手に来たのですから勝手に帰ればいいんですよ」
「でも」
徳増は秀人の見送りなど当然しない。
「それよりも私はお嬢様が心配です」
手布を優子の口元へ当てた。
「唇が切れて血が滲んでいます。痛みますか?」
「わたしは大丈夫よ、あなたはお父様をお部屋に連れていって」
言動と表情がちぐはぐ。あんな屈辱的な行為をされて大丈夫なはずがない。
「優子様」
「本当に平気。お父様を早く。お父様、こんな娘で申し訳ありません」
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