コールドスリープから目覚めたら異世界だった……?

Chiyosumi

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第二章 ニケ、冒険者になる

第4話 冒険者デビュー!

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 ボクはバロラに特訓してもらえることになり、トレーニング用のクエストに行く前に冒険者登録を行った。
 これで晴れてボクは冒険者デビューを果たし、木等級の冒険者になった。

 バロラにお古の装備をもらい、冒険者ギルド内にある更衣室で着替える。
 ボクが着ていた服は下着までバロラに回収され、ボクはなんだかイケないアルバイトをしているような気持ちになった……

 バロラから代わりに提供された下着は下の方はなんとか穿けたけれど、胸の方は残念ながらサイズが合わなかった。
 「サイズが合わないんですけど?」と不満を言うと、バロラは「じゃあ布でも巻いとく?」と布を渡してくる。
 ボクのただでさえひかえめな胸は布を巻くことで平らになった……

 バロラから譲ってもらった装備は、
 ・魔法の短剣アゾート
 ・風のマント
 ・冒険者用のチュニックと短パンショートパンツ
 ・初級魔術師用のつばが付いた黒い三角帽子
 ・ポーチ付きのレザーベルト
 だった。

 その中でも特に魔法の短剣アゾートは迷宮遺物という物らしい。
 迷宮遺物とは、ダンジョンに長く放置されていたアイテムが、ダンジョンの濃厚な魔素に侵食され、特殊な効果や強力な『ステータス』を得た物のことを言うそうだ。

 魔法の短剣アゾートは、昨日貸してもらった短剣と同様、STR筋力ではなくINT知性・魔力を攻撃力に反映してくれるらしい。
 柄の部分は取り外せてその中にMP回復薬マジックポーション一回分を仕込んでおくことができるので、緊急時のMP回復にもつかえるそうだ。

 諸刃の刀身の部分はあやしく輝いており、まるで魔力を帯びているようだった。
 柄にはアルファベットで「Azoth」と刻まれていて、英語で使うようなアルファベットもこの世界では使われているんだなと思った。

 他にも三角帽子はちょっとだけINT知性・魔力を強化してくれる魔術士用のもの。
 これは「子どもが魔術士になった記念に親がプレゼントする装備」ランキングが存在するとしたら、ほぼ確実に毎年一位をかっさらっていくだろうというド定番アイテムらしい……

 レザーベルトについてるポーチは容量は少ないがちょっとした素材やポーションなんかも入れておけるし、このベルトには短剣を納める革の鞘も取り付けることができた。

 風のマントは市販品ではあるが風の属性を帯びているらしく、これを風属性の魔法適性を持っている人が着用すると、運が良いとMPを消費して敵が放つ矢の軌道をそらしてくれるという「矢除けの加護」がついているようだ。
 これは魔術Lvが上がると発動してくれる可能性が上がるそうで、他にも刺突攻撃や投石なども躱してくれるけれど、剣による斬撃などだと攻撃をそらしてくれる効果が薄いとのこと。

 冒険者用のチュニックと短パンショートパンツはまぁ普通と言えば普通だったけど、しっかり綿がつめてあって若干防御力が高い他、吹き飛ばされた時も衝撃吸収に優れている。
 戦士系や騎士系の職業の冒険者でも鎧の下にこれを着ている人がいるとバロラは言っていた。

 ボクが着替え終わると、その間にバロラが今回のクエストについて説明を聞いておいてくれたらしく、さっそく目的地へ向かうことになった。
 今回のクエストは、街の外にある果樹園で邪樹妖トレントになりかけている林檎の樹を間引いて欲しいというもの。

 この林檎の樹も魔性植物というものに分類されるらしく、年数を経て体内に吸収した魔素が蓄積していくと魔晶石を形成し、魔物化するとのことだった。
 林檎の樹は邪樹妖トレントになると周囲にある果樹の養分と魔素を根こそぎ奪い、強力なモンスターに成長していく。

 成長した邪樹妖トレントは人間や魔獣の栄養や魔素をも吸収ドレインする凶悪な魔物へと変貌するらしい。

 林檎の樹はLv10を超えると邪樹妖トレント化し始めるそうで、ボクたちは林檎の樹を『鑑定』しながら、Lv10を超えている樹やもうすぐLv10に上がりそうな樹を討伐していくことになっている。

 クエストのランクは銅等級に相当するDランクだったけれど、これは邪樹妖トレント化した樹があった場合を想定してのランクであり、実際はそれより下の鉄等級、Eランク相当のクエストであるとのことだった。

 ボクたちは冒険者ギルドを出ると獣舎に向かい、バロラが契約している幻獣、走竜のクイタの背に乗った。
 果樹園がある場所はクイタに乗って5分ほどの場所で、ボクが目覚めたダンジョンよりはかなり街に近い場所にあった。

 果樹園は小高い丘の斜面のようなところに造られており、かなり広いようだ。
 ボクの感覚では東京ドーム一個分よりも少し広いように思われる。

 今回のクエストは林檎園の邪樹妖トレント狩りだけど、林檎以外にも洋梨や西洋カリンマルメロなどが生えているエリアもあるようだ。

 果樹園の中の林檎の樹はどの枝もたわわに実っているけれど、林檎が実るのは秋から冬にかけてじゃなかったっけ?
 ボクの肌感覚ではこの世界の今の季節は春のように感じたし、周囲の樹々や草花が青々としているのはそれを証明しているようにも思う……

 この世界ではそんなこと関係ないのだろうか?
 ゲーム世界であれば季節に関係なく実るのも納得だし、もしここが異世界だとしたら植物が魔物化していることや魔素が影響しているのかもしれない。

 春のうららかな風がさわさわと果樹の枝葉を揺らしていくと、ボクのそんなささやかな疑問も風によって吹き散らされていく。
 林檎の蜜がはなつ甘く華やかな香りがただよい、肌寒さと温かさのちょうど真ん中くらいの気候が心地良い。
 きらめくような春の光をおびた風は、まるでピクニックにでも来たような晴れやかな気分にボクをさせた。

 バロラは果樹園に着くと鞄から林檎の実を出し、クイタに与える。

「今日は林檎の邪樹妖トレント狩りだから後でいっぱいあなたの好きな林檎を食べさせてあげる。楽しみにしててね?」

 とバロラが優しく声をかけると、クイタは嬉しそうに「くるるるっ」と喉を鳴らした。

 バロラはボクに「準備は良い?」と声をかけると、早速ボクに魔法の基礎について説明し始めた。
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