コールドスリープから目覚めたら異世界だった……?

Chiyosumi

文字の大きさ
47 / 64
第三章 魔獣狩り、のちダンジョン、ときどきドキドキ!?

第3話 ニコとロイと【腐】属性な魔法女子たち

しおりを挟む
 テミス君と別れた後、ボクたちは「銀の乙女亭」へと向かった。

 ボクは今、週に5日、冒険者ギルドのクエストをこなし、週に3日、「銀の乙女亭」のお仕事のお手伝いをしている。
 今日はこれから夜の飲食店営業の給仕係のお手伝いだ。

 「銀の乙女亭」の給仕係の制服は、お店の三角屋根と同じ深緑色をしているバンダナ――コットン地でリーフ柄をあしらったもの――、同じくコットン地でできたピンクベージュ色の七分袖ブラウス、後はバンダナと同じ深緑色をしたギャルソンエプロンだ。

 バンダナは髪が食べ物に落ちないように三角折りにしたものを三角巾みたいに頭に巻いている。
 屋根の色も特徴的だし、バンダナやエプロンの色にも採用しているから、この深緑色はエルフにとって何か意味のある色なのかもしれない。

 ボクはブラウスに付いている自然素材で出来た大き目の白いボタンがお気に入り。
 何かの魔物の角で出来ているちょっと大き目の白いボタンには、シンプルで素朴な樹のデザインの柄が彫り込まれていた。

 ボクは着替え終わると、お店の方に出る。
 ロイは今日はテーブル席の方についたみたいだ。

 ロイは他の給仕係さんにだと緊張してしまうのかうまく注文ができないみたいなので、早く注文を聞いてきてあげなきゃ。
 そして早く食べてもらい、早く帰ってもらおう。
 【腐】属性魔法女子トリオが来る前に……

 ボクが注文を取りに行ってあげると、ロイは端的に「いつもの」と料理を注文してくる。
 いや、「いつもの」で良いならボクじゃなくても良いじゃん!とは思うんだけど、「銀の乙女亭」はボクを除けば他の従業員さんはみんな女性なので、ロイはちょっと気をつかってしまうのかもしれない。
 美人な人が多いしね?

 でもボクも女性であることを考えれば「銀の乙女亭」の従業員は全て女性なのであった……

 ちなみにロイの言う「いつもの」とは「バジリコとナッツのピラフとディナーセット」のことである。
 「バジリコとナッツのピラフ」はみじん切りにした玉ねぎ、5mm角に刻んだニンジン、スライスしたマッシュルーム、細かく刻んだミックスナッツをニンニクといっしょにオリーブオイルで炒め、それをお米に加え、香味野菜をじっくり煮込んで作ったブイヨンで炊き上げたピラフで、仕上げにケレブリエルさん秘伝のバジリコソースをさっくりと混ぜて完成の一品。

 バジリコソースを最後に加えて混ぜることでピラフは目にも鮮やかな緑色に染まり、バジルの爽やかな香りが食欲をそそるお料理。
 ボクも大好きなお料理、お好みで香辛料を加えてお召し上がりください♪

 そう、ボクも大好きなんだけど……
 それがなんと大皿に小高い山のように盛られている……
 大好きだけど、この絵を見ると食欲が湧かない……

 だって緑色なのも相まって奈良の若草山みたいになってるんだよ!?
 お皿が重すぎて片手では持てない……
 お皿だって普通のピラフ用のお皿じゃなくてグループでシェアする料理を盛る大皿だし!?

 ケレブリエルさんはロイが初めて来た時、「ニケちゃんのボーイフレンドが来てるんだったらサービスしなきゃね?」とボクをからかいながら、普段のお客さんに出すより大盛りでこの料理をロイに出した。
 それをぺろりと食べるロイを見て、ケレブリエルさんの中の何かにスイッチが入った。

 日増しにどんどんボリュームが増していくバジリコピラフ。
 まるで体育会系の学生がよく通う街中華が、学生に喜んでもらいたくてどんどんボリュームが増えていき、最終的に大食い大会が開催されるくらいの勢いである。

 ボクはそれを横目に見て、「少しは遠慮しなよ?ロイ」と最初思ったが、ケレブリエルさんも楽しそうにしていたし、あれだけの食いっぷりならいっそ清々しいし、あんなに美味しそうに食べてもらえたら作っている方としても嬉しいんだろうな、と考えを改めた。

 ちなみに今日の「ディナーセット」は、三色野菜のピクルス――黄色パプリカとキュウリ、ベビーキャロット――にオニオンスープ、メインが鳩の香草焼き…… あっ! この鳩美味しいやつだ!
 これは鳩のお肉をニンニク、ローズマリー、セージなどのハーブと一緒にオーブンで焼いたやつです。
 鳩も表面の皮がサックサクな食感で、ローズマリーの香りも効いてて美味しかった!

 今日もケレブリエルさんは良い仕事をするな~と思いながら、ロイの方を見たらすでにバジリコピラフは半分くらいまで減っている。
 いやなんか、最近、ケレブリエルさんに鍛えられてか、ロイの大食いレベルも上がっている気がする。

 今のロイのステータス画面を見たら、職業が「戦士」から「フードファイター」にクラスアップしているかもしれない……


「あら? やっぱり今日もロイくん来てるのね?」

 と声が聞こえ、振り返ったらバジリコピラフに負けないくらいの緑色をしたツインテが目にうつる。
 ああ、やっぱり今日も間に合わなかった……

 エスメラルダさんは【腐】のオーラを嗅ぎ分ける敏感なセンサーでも付いているようで、普段はそんなに早く帰ってこないのに、ロイが来るときだけは必ずその時間に帰ってきた。

 その後からやってきたモルビアさんはすでに怪しげな半笑いを浮かべている。
 「やっぱりあなたたちBLな関係でしたのね?」という心の声が聞こえてきそうだ……

 二人の後ろに控えるアマラさんは「」と笑みを浮かべ、ボクに向けて親指を立てて「グッジョブ!」とささやいてきた。

 こうやってアンヌンの女性冒険者たちの間では、「ロイがニコに会いに来る口実で『銀の乙女亭』に通っているらしい」という噂がまことしやかに囁かれ、そういうカップリングを楽しむ【腐】属性魔法女子たちで今宵も「銀の乙女亭」は賑わうのであった。

 【腐】属性魔法女子トリオはロイにほど近い席に陣取り、ニヤニヤとロイを眺めている。
 エスメラルダさんは、

「あんた、最近、鉄等級に上がったらしいじゃない? まだ冒険者を始めたばかりなのにやるわね?」

 とか、

「もっとしっかり食べて、魔素を蓄えて強くなりなさい! ほら、私のお肉もあげるわ!」

 と言って、自分の料理のお皿をロイのテーブルに置いたりする。

 そうすると周りの他のテーブルについている【腐】属性魔法女子たちも、「あっ!エサあげても良いんだ?」みたいな雰囲気になり、ケレブリエルさんの元に注文が殺到する。

 そうやってあれよあれよという間にロイのテーブルはお料理のお皿で埋め尽くされ、大食い大会が開催されるという訳である。

 でもみんなただ食べ物をロイにあげてるだけじゃなく、先輩冒険者としてもあれこれアドバイスをしているみたいで、「銀の乙女亭」には戦士系の職業の人が宿泊することはあまり無かったけど、魔法職として前衛にはどう動いて欲しいみたいなことをロイにアドバイスをしているようだった。

 魔法職は戦士系や騎士系などの前衛職と比べてVIT体力、防御力が低い紙装甲なので、敵からの攻撃が集中するときつい。
 呪文の詠唱中に突っ込んでこられると詠唱が中断されもするし、前衛の人がちゃんと敵の注意を引いてタゲを取ってくれるとすごくやりやすい。

 最近、ロイはこういった行動をスムーズに取れるようになってきていて、そのお陰かボクとロイの連携もうまくいくようになってきている。
 今ではボクとロイの二人で魔野菜の邪悪イーヴィル種も討伐できるようになっていた。

 ロイはロイで先輩冒険者からアドバイスをもらうと、「勉強になります!ありがとうございます!」と素直に答えていて、こういう素直さも彼女たちにウケている理由なんだと思う。
 彼女たちからすると、「まだ収入が少ない初級冒険者の実直な少年が、自分が好きな冒険者仲間の少年に会いに来る為にちょっと背伸びして良いお店に通っている」というシチュエーションが「ほほえま~」な感じらしい。


 誤解されているのはちょっとあれだけど、これはこれでロイの実力アップにつながってきているし、ボクとしてもロイとの連携が取りやすくなってきているからまぁ良いかと思ったりもする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...