『トカプチ』ハートフル獣人オメガバース

志生帆 海

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きをつけて

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「トカプチ、今日は内からと外からどっちがいいか」
「う、内から……」
「ふっ欲張りめ」

 口からもらうのも躰の中から浸透させてもらうのも、どちらも同じ栄養源だが、内からだとより気持ちよく摂取できる。食事に甘いとっておきのデザートが追加されたような心地で、溜まらなくいい。

「大人しく出来るか」
「心配だな。こうしてやろう」

 コクコクと頷くと、ロウが俺の唇を唇で塞いできた。

 ぴったりと重なりあい、互いの吐息すらも交歓できる場所になった。

 胸の刺激だけでぐっしょりとオメガ特有の粘液で濡れた俺の後孔に、ロウの獰猛なものを、一気にズンっと挿しこまれた。蕩けるような感覚に包まれる。

 なんで……この行為は、こんなに気持ちいいのか。

「んっ……ん、あ、あ」

 淫らな声はロウの中に吸い込まれていく。
  
 布団の中で俺たちは波打つように揺れた。

 上下に揺すぶられ、胎内にロウを感じ、内襞に刺激をもらい腰がブルブルと震える。その腰をしっかりと両手で掴まれ、ぐぐっと圧が込められると、身体の奥に熱がじわっと広がった。

 俺の生きる糧であり、生命を繋ぐ源が、一気に体内を駆け巡る。

「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か」
「う、うん。すごく良かった」
「可愛い事を」

 そのままロウの胸の上で事後の余韻に浸ろうと思ったら、扉の向こうから声がした。

「トカプチ、もう起きなさい。何時だと思って?」
「あっ……うん、起きるよ」

 良かった、扉を開けられなくて。

 ってもうバレバレな気もするが素知らぬふりで、その後テーブルに着くと、父さんも母さんも気まずそうにしていた。

 なんで? ちゃんと声、押さえたよな?

 ロウと思わず顔を見合わせてしまった。

「……あなたもお嫁に言ったのね。ってしみじみと思ったわ」
「えっ」
「ミシミシ……と、地震かと思ったわ」
「わっ! わわ……っ」

 はっ恥ずかしい!

****

「トカプチ、元気でね」
「また来るよ」
「北の大地も氷が溶けて、豊かになっていくのね。いつかまた行く日を楽しみにしているわ」
「うん! 父さん、母さんありがとう!ノンノ。兄さんのこと忘れるなよ」
「気を付けて! 最近森には獰猛な獣が増えていると噂があるのよ」
「わかった。身を護る武器も持ったし大丈夫だよ。何より俺にはロウがいる」

 父さんと母さんとノンノに見送られて、実家を後にした。

 ジャガイモを使ったレシピ集と食物の種。母さんが作ってくれた新しい俺たちの服。それからアペからもらった弓矢と短剣もしっかり持った。

 南の国から北の国までは、俺の足だと丸2日はかかる。幼いトイを連れての旅は容易ではない。

 マントを目深に被ったロウが用心深く、道を切り開いてくれる。

 いつぞや……よく無事にまだ赤子だったトイを抱いて辿り着けたものだ。あの時はロウを助けたい一心で夢中だった。

「トカプチ……今日の森は少し不穏だ。オレから離れるなよ」
「分かった」

 そう言えば、いつもよりざわついている? 暗い森を見渡した途端に、近くでヒュッと喉をかき切られるような音がした。

「ひっ」
「しっ、静かに」
「ロウ……今の音なんだ?」
「狼の戦いだ。この樹の上に逃げるぞ」
「う、うん」
「来い」

 ロウが素早く俺たちを引き上げてくれる。

 太い枝にしがみ付いて、下を見下ろせば……

 死んだ小鹿を前に……獲物を奪い合う狼とピューマが戦っている。
 
 「うわっ……」

 慌ててトイの目を塞ぐ。

 一匹の狼が俊敏な動きでおとりになっている間に、もう一匹が横からピューマに攻撃をしかけていく。ピューマも同じ体格の狼に苦戦している。喉元から血が出ているな。

 獰猛な獣の荒い息。
 獣の牙が肉を食いちぎる。
 血が迸る──

「こ……怖いっ」

 潜在的な恐怖に怯えていると、ロウがギュッと俺とトイを抱きしめてくれた。

 同じ狼だったはずなのに、ロウは全然違う。

 どこまでも俺の心を満たしてくれる安らかな存在だ。




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