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しぬな
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助けてやりたい!
心の底から、そう願った。
だって彼らはやっと出逢えたロウの大切な兄弟なんだ!
俺には父も母もいる。妹だって生まれた。なのにロウの両親はとっくに死んでいないから、血族は息子のトイだけだった。お前はずっとひとりぼっちだった。だからお前の兄弟が見つかった事が本当に嬉しいんだよ。
だが油断は出来ない。ロウが肩に抱える狼は瀕死の状態だ。とりあえず俺が持てる知識を注いで止血はしてみたが……正直助かるかどうかは分からない。
命の瀬戸際だ。
俺たちは一気に西の森から北の森へ繋がる街道を走り抜けた。
思ったよりも北の森近くまで来ていたのが、せめてもの救いだ。
ロウはすごいスピードなので、ついて行くのに必死だ。
今の俺は……明け方、ロウの精液を存分に体内に注いでもらったお陰でパワー全開だ。ロウから分け与えてもらえる命の糧は、こういう時に存分に威力を発する。
俺は人間なのに、まるで獣としての生存本能で漲っているようだ!
生きねば! 生きて命を繋がねば!
「トカプチ大丈夫か! ついて来い!」
「あぁ大丈夫だ」
やがて北の大地に足を踏み入れる。
また成長したのか、一段と高くなった青い牧草が風に揺れ、俺たちを歓迎してくれた。
お帰りと……母なる大地が俺達を迎え入れてくれる。
大丈夫、きっと大丈夫。トカプチの国が守ってくれるよ。
岩穴の俺たちの家に入ると、驚いた事に部屋中の家財が散乱していた。俺とトイの衣類もビリビリに引き裂かれていた。
「な……なんだ?」
「いいから、水を持って来い!」
「あっ分かった!」
そうだ、今は先にすべきことがある。だがロウも気づいたはずだ。岩穴には最初からこの狼の兄弟の匂いが漂っていた事に気づいてしまった。
お前たち、先にここに来たのか。
こんなに荒らして……一体何を探った?
まさか俺たちに危害を加えるつもりだったのか。
ロウをどうするつもりだった?
ロウに危害を加えるつもりだったのなら、許さない。
片足を引きずる兄狼をキッと睨むと、きまり悪そうに顔を背けた。
やはりそうなのか。
だが、おれたちを襲うより前に、お前たちが先に襲われた。
そんな相手を助ける意味を探すと……すぐに見つかった。
意味ならある!
お前たちが、ロウと血が繋がる兄弟だから!
同じ親から生まれたのだろう?
本当はロウに会ってみたくて来たのだろう?
少しの憎しみや嫉妬はあって当然だ。お前たちの立場では愛しい両親を奪った弟でもあったのだから。
だがロウの長い孤独、ロウの凍った哀しみを知れば、許せるはずだ。
そのためにも何としてでも……助けないと。
彼らは出会ったばかりだ!
「よし、トカプチ、水をかけろ」
「あぁ!」
「グルル……ッ」
弟狼の脇腹には大きな噛み傷があったので、傷口の小石や木の枝を大量の水で洗い流してやった。するとまた鮮紅色の動脈血がどくどくと拍動に合わせて流れてきたので、傷口よりも心臓に近い部分に固く包帯を巻いて、もう一度ギュッと締め付けて止血してやった。
「出血が多いな。どうなる?」
弟狼は包帯をしめた反動で、朦朧とした意識から覚醒したようだ。
「ウワッ!ハァ……ハァ……モウイイ……モウ、ヨセ! ドウセ……モウ……タスカラ……ナイ……」
「何で? やっと会えたのに、どうしてそんなに悲しいことを言うんだよ! 」
信じられない。生きたくないのか。
ロウは断末魔の苦しみに悶え苦しむ兄狼を前に、呆然としている。
「ロウ、毛を撫でてやれ」
「あぁ」
ロウのあたたかい人の手が、狼の背を優しく撫でる。
狼の呼吸が柔らかくなる。
狼の瞳ってこんなに、優しいのか、温かいのか。
「オマエガ……ロウ……ナノカ……アイタカッタ」
「に……い、さん?」
兄弟の刹那的な会話に、涙が溢れる。
助けてやりたいよ……ロウと同じ血が流れる狼の命!
「ウウ……リウッ、シヌナー!!」
足を引き摺る兄狼の慟哭も、背後から聴こえる。
続いてロウの叫び声も!
「兄さんっ駄目だ! オレたちは出会ったばかりだ。死ぬなぁぁー!!」
心の底から、そう願った。
だって彼らはやっと出逢えたロウの大切な兄弟なんだ!
俺には父も母もいる。妹だって生まれた。なのにロウの両親はとっくに死んでいないから、血族は息子のトイだけだった。お前はずっとひとりぼっちだった。だからお前の兄弟が見つかった事が本当に嬉しいんだよ。
だが油断は出来ない。ロウが肩に抱える狼は瀕死の状態だ。とりあえず俺が持てる知識を注いで止血はしてみたが……正直助かるかどうかは分からない。
命の瀬戸際だ。
俺たちは一気に西の森から北の森へ繋がる街道を走り抜けた。
思ったよりも北の森近くまで来ていたのが、せめてもの救いだ。
ロウはすごいスピードなので、ついて行くのに必死だ。
今の俺は……明け方、ロウの精液を存分に体内に注いでもらったお陰でパワー全開だ。ロウから分け与えてもらえる命の糧は、こういう時に存分に威力を発する。
俺は人間なのに、まるで獣としての生存本能で漲っているようだ!
生きねば! 生きて命を繋がねば!
「トカプチ大丈夫か! ついて来い!」
「あぁ大丈夫だ」
やがて北の大地に足を踏み入れる。
また成長したのか、一段と高くなった青い牧草が風に揺れ、俺たちを歓迎してくれた。
お帰りと……母なる大地が俺達を迎え入れてくれる。
大丈夫、きっと大丈夫。トカプチの国が守ってくれるよ。
岩穴の俺たちの家に入ると、驚いた事に部屋中の家財が散乱していた。俺とトイの衣類もビリビリに引き裂かれていた。
「な……なんだ?」
「いいから、水を持って来い!」
「あっ分かった!」
そうだ、今は先にすべきことがある。だがロウも気づいたはずだ。岩穴には最初からこの狼の兄弟の匂いが漂っていた事に気づいてしまった。
お前たち、先にここに来たのか。
こんなに荒らして……一体何を探った?
まさか俺たちに危害を加えるつもりだったのか。
ロウをどうするつもりだった?
ロウに危害を加えるつもりだったのなら、許さない。
片足を引きずる兄狼をキッと睨むと、きまり悪そうに顔を背けた。
やはりそうなのか。
だが、おれたちを襲うより前に、お前たちが先に襲われた。
そんな相手を助ける意味を探すと……すぐに見つかった。
意味ならある!
お前たちが、ロウと血が繋がる兄弟だから!
同じ親から生まれたのだろう?
本当はロウに会ってみたくて来たのだろう?
少しの憎しみや嫉妬はあって当然だ。お前たちの立場では愛しい両親を奪った弟でもあったのだから。
だがロウの長い孤独、ロウの凍った哀しみを知れば、許せるはずだ。
そのためにも何としてでも……助けないと。
彼らは出会ったばかりだ!
「よし、トカプチ、水をかけろ」
「あぁ!」
「グルル……ッ」
弟狼の脇腹には大きな噛み傷があったので、傷口の小石や木の枝を大量の水で洗い流してやった。するとまた鮮紅色の動脈血がどくどくと拍動に合わせて流れてきたので、傷口よりも心臓に近い部分に固く包帯を巻いて、もう一度ギュッと締め付けて止血してやった。
「出血が多いな。どうなる?」
弟狼は包帯をしめた反動で、朦朧とした意識から覚醒したようだ。
「ウワッ!ハァ……ハァ……モウイイ……モウ、ヨセ! ドウセ……モウ……タスカラ……ナイ……」
「何で? やっと会えたのに、どうしてそんなに悲しいことを言うんだよ! 」
信じられない。生きたくないのか。
ロウは断末魔の苦しみに悶え苦しむ兄狼を前に、呆然としている。
「ロウ、毛を撫でてやれ」
「あぁ」
ロウのあたたかい人の手が、狼の背を優しく撫でる。
狼の呼吸が柔らかくなる。
狼の瞳ってこんなに、優しいのか、温かいのか。
「オマエガ……ロウ……ナノカ……アイタカッタ」
「に……い、さん?」
兄弟の刹那的な会話に、涙が溢れる。
助けてやりたいよ……ロウと同じ血が流れる狼の命!
「ウウ……リウッ、シヌナー!!」
足を引き摺る兄狼の慟哭も、背後から聴こえる。
続いてロウの叫び声も!
「兄さんっ駄目だ! オレたちは出会ったばかりだ。死ぬなぁぁー!!」
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