『トカプチ』ハートフル獣人オメガバース

志生帆 海

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のめ

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 どうしたら、どうしたら……助けられる? 

 せっかく再会できたロウの兄さんなのに!

 助けたいよ、どうしても!
 
 そうだ……俺に出来ることが一つだけある。
 
 だが、それは……

 少し戸惑っている間に、事態がますます悪化してしまった。

「うっ……」

 リウの躰が突然だらんと脱力し、意識が途絶えてしまった。足を引きずった兄狼が覆いかぶさるように、リウの躰に抱きつき揺さぶった。

「 オイ!シッカリシロ……っ、リウ……ドウシタ? メヲアケロ!」

 痙攣するように瞼を開いた狼の目には確実に死が近づいていた。優しい瞳から涙がとめどなく流れ、狼の毛をじんわりと冷たく濡らしていた。

「…………サ……ヨ……ナラ……」

 息も絶え絶えの別れの言葉が……切な過ぎるだろう!

「兄さん……兄さん……? 返事をしてくれよ! 嫌だぁぁー!」

 ロウの涙声、慟哭……

 お前がこんなにも……心から泣き、求めた事が、今まであったか。

 魂の番として、愛するロウが求める事をするまでだ。

 俺が命を繋ぎ止める! お前の兄さんをこの世に、この北の大地に!

「ロウ、これを与えてみよう!イチかバチか」

 俺はなりふり構わず胸の袷に手をかけて……両胸の乳首を露わにした。

「これを飲めば、きっと助かる!」

 振り返ったロウが、目を剥いた。

「何をする気だ……トカプチっ!」
「俺の乳はロウの生きる糧だ。だからきっと……お前の兄にも効果があるはずだ!」
「なっ!」

 乳首の先端からは既にじわっと白い汁が溢れ……床をポタポタと濡らしていた。

 これは母が子に与える『命の綱』のようなものだ。

 恥じることはない。

 俺の番の血を分けた兄の……生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 ひっ迫した事態なのだから!

「うっ……」

 ところが、突然胸の先端に刺すような刺激が走り、前屈みに蹲ってしまった。

「どうした?大丈夫か」
「うっ胸が……変だ!」

 慌てて胸元を見つめると、乳首の先端から、いつもより色の濃い黄色い汁が滲み出て来た。

「えっ何だ?これ」

 この色は、まるでトイを産んだ直後に出た初乳のようだ。

 初乳には特定の病原菌の感染やアレルギーから赤ちゃんを守る免疫物質が含まれているので、普通の母乳よりも色が黄色く粘り気があって凝縮されていると、後から母さんに教えてもらった。

 黄色汁は、そのまま滴り落ちず、透明の膜を張り……球体になってから、床のコロンと転がった。
 
 ロウがそれを慌てて拾い上げて、俺に見せてくれた。

 透明の膜の中には、黄色い母乳が入っていた。

「これは……薬みたいだな」
「薬……早くそれを与えてみてくれ……君の兄さんに!」
「わっ分かった!」

 もう意識がない狼の口をロウが大きく開き、喉奥に俺から生まれた初乳が詰まったボールのようなものを落とした。

 助かれ……!

 どうか助かって!

 命を絶やすな!

 こんな所で……こんなタイミングで!







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