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第1話 双子の姉妹の約束

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「わたしはね、将来は女優さんになるの」
 と小さな小さな女の子が得意げに言った。

「おねぇちゃんがなるんだったら、わたしも女優さんになるんだもん」
 これまた小さな小さな女の子も得意げに言った。

「だめよ。わたしが最初になるって言ったんだからあなたは女優さんになったらだめ~」
「そんなのずるいもん。おねぇちゃんがなるんだったらわたしだって女優さんになるんだもん」

「だめなものはだめ~」
「やだもん。やだもん。べーだ」

 なーんて、同じ服装の小さな小さな可愛らしい女の子たちは言い合った。罵った。けれども2人の姉妹はどこか楽しそうだった。

 姉が夕食はハンバーグを食べると言えば妹も夕食はハンバーグを食べると言い、姉がお風呂に入ると言えば、妹もお風呂に入ると言った。

 結局2人はいっしょにお風呂に入った。そしてお湯をかけあった。最後はいっしょに湯船に浸かり、

「わたしはお子ちゃまじゃないからもう少し湯につかるわ」
 なーんて、姉がさも大人びた感じで言うと、

「わたしはおねぇちゃんよりも大人なんだもん。だからもっと湯につかるもん」
 と妹も言い出した。

 意地になった2人は自分からはお風呂から出たいと言い出すことができず、のぼせる寸前まで湯船に浸かり続けた。

 結局、姉妹がなかなかお風呂からあがってこないのを心配した母親が、
「あなたたちいつまでお風呂に入ってるの?」
 とお風呂場を覗くと、姉妹はのぼせて気を失う寸前になっている。

「まぁ!」
 母親は口に手を当てて姉妹の負けず嫌いっぷりに声を出す。

 そしてそんな娘たちを優しい目で見つめ、
「夕食の時間よ。早くお風呂からあがりなさい。早くしないとママ特製のハンバーグ冷めちゃうわよ」
 と頬を膨らませる。

「「は~い♪」」
 と姉妹も母親の顔を真似て頬を膨らますと、母親は姉妹を指差して、まるでゆでダコみたいと笑った。

 姉妹もお互いに顔を見合わせるとまるでゆでダコみたいと、今までの意地の張り合いが嘘だったかのように無邪気に笑いはじめた。

 お風呂から出た姉妹を待っていたのは、母親特製のハンバーグだった。姉妹は瞳孔を大きく広げて、
「「やったー! ハンバーグ♪」」
 と喜んだ。

 姉妹にとって、母親特製ハンバーグは姉妹の大好物だ。姉が母親特製ハンバーグにケチャップをかけはじめれば妹も母親特製ハンバーグにケチャプをかけはじめ、妹に真似された姉はオリジナルティをだそうと、さらにソースをかければ妹もソースをかけはじめ、
「ちょっとわたしのまねしないでよね~」
「まねなんてしてないもん、たまたまだもん」

 なーんって妹は頬を膨らませ、姉はさらにマヨネーズを母親特製ハンバーグにかける。妹も結局姉の真似をして、母親特製ハンバーグにマヨネーズをかけてしまって、せっかくの母親特製ハンバーグは微妙な味付けになる。

((こんなはずじゃなかった!))

 姉妹は半泣きになりながらも母親特製ハンバーグを食べるのであった。妹は姉の服装から言葉の使い方、好きなものまで真似するように追いかけた。ただ追いかけた。

 同じ日に生まれて、ちょっと後から生まれただけの妹は姉の後ろをひたすら追いかけた。

「わたしはぜったい女優さんになるわ。地球ちきゅうヒストリーの主人公の幼なじみ役のオーディションうけることに決めたの」
「じゃあ、わたしもおねぇちゃんといっしょにオーディションうけるもん」

「だめよ。あなたはお子ちゃまだし、だめだめだめ~」
「いやいやいやぁ~、わたしも地球うんちゃらなんちゃら? のオーディションうけるもん」

「あなたなんて、どうせオーディションうからないわよ」
「そんことないもん。そんなことないもん」

 なーんて、姉妹はいつものように言い合って、お互いの頬っぺたをつねり合ったりした。

「まぁまぁまぁ、私の可愛い娘たちよ。双子の姉妹なんだから仲良くしましょうね。喧嘩なんてしないの」
 見かねた姉妹らの母親は間に入る。

「「わたしはぜったい女優さんになる!」」

 姉妹の宣言は双子だけに息がぴったりだった。結局、姉妹は母親につれられて地球ちきゅうヒストリーのオーディションを受けに行った。

 しばし時は流れて。

 キョウコリーニ、アスカリア姉妹の自宅に一本の電話が鳴り響く。

 チリンチリン。チリンチリン。

 母親は買い物に出かけていたため、留守番をしていたキョウコリーニが元気よく受話器をとった。

「もしもし、どちらさまですか?」
「地球ヒストリーの監督です」

「え?」
 キョウコリーニは声が裏返りそうになった。

 それは予期せぬ電話だったから、母親から何か食べたいものある? という母親電話だと思ったから。

 監督から電話があるなんてオーディション受かったんだ。キョウコリーニは胸を弾ませる。が、監督は、
「アスカリアちゃんかな?」
と聞いてきて、
「いえ、キョウコリーニです」
「あ、お姉ちゃんの方か……」

 監督の声のトーンがあからさまに落ちるのをキョウコリーニは感じた。
「お母さんに代わってくれるかな?」
「でかけていません」

「そっかぁ。じゃあ、アスカリアはちゃんはいるかな?」
「おかあさんとでかけていません」

「そっかぁ、うんとね、キョウコリーニちゃんの前では言いにくいことなんだけど……」
 監督は気を遣って言葉を濁す。

 キョウコリーニはオーディション受かったのはアスカリアの方だと悟る。

 どうして。

 どうして。

 何故、私じゃないの。

小刻みに手が震え、顔が真っ青になる。ガクガクと唇が震え始める。涙が溢れそうになった。味わったことにない感情がキョウコリーニを支配し始める。

 でも、わたしは将来、女優さんになる。その想いと子供なりのプライドがキョウコリーニを気丈に振る舞わせる。

「わたし主人公の幼なじみ役おちたんですよね?」
 とあっけらかんと明るく。

 監督はキョウコリーニがあまりにもあっけらかんとして、それでいて受話器越しとは言え、さほど落ち込んでいるように感じなかったので、
「うん、そうなんだよ。そうなんだよ。あはは」
 と業界人特有の笑い方をする。

「わたし、いもうとがどうしてもいっしょにオーディションうけたいというからしかたなしについていっただけですの。えへへ。あはは」
 と道化ピエロのようにキョウコリーニは高々に笑う。でも、涙を溢れ出しながら……。

 それはキョウコリーニの精一杯の演技。

「なら話は早いね。実はね、地球ちきゅうヒストリーの主人公の幼馴染み役はアスカリアちゃんに決まったお知らせの電話なんだ。お母さんとアスカリアちゃんが帰ってきたら伝言よろしくね」
「はーい、いっときま~す!」
「ではよろしく」

 ツーツーツー。

 電話は切れた。

 キョウコリーニは震える手で受話器を電話に置く。
 手には雨の雫が落ちたかのように濡れている。
 リビングから足音が聞こえてくる。
 足音の主はアスカリアであった。

「おねぇちゃん、だれからのでんわ? 話し声でおきちゃったわ」
 眠たい目を擦りながら昼寝をしていたアスカリアはやってきた。

 キョウコリーニはアスカリアに悟られないように急いで袖で涙を拭うと、何事もなかったかのように、
「おめでとう! 地球ちきゅうヒストリーのおさななじみ役、あなたにきまったそうよ」
 とアスカリアに向かって微笑んだ。

 アスカリアは半目になっていた瞳を大きく見開き、まっしぐらにキョウコリーニに抱きついた。キョウコリーニの服は水滴がついたように湿っていく。

「おねぇちゃん、ごめんね。おねぇちゃん、ごめんね。わたしがうかっちゃったね。本当はおねぇちゃんが女優さんになればいいのに。おねぇちゃんが女優さんになりたかったはずなのに。わたしなんて。わたしなんて。ただ、おねぇちゃんの後をついてきただけなのに……。おねぇちゃんのまねをしたかっただけなのに」
 とアスカリア涙を浮かべて泣きじゃくった。

 地球ヒストリーは国民的人気ドラマである。
 出演すればスターへの階段が必ず約束される。

 その一方で、過酷な撮影環境、家族との別れ、何万光年も先の見知らぬ土地で生活しなければならない。

 キョウコリーニはアスカリアを優しく抱きしめて、
「いいのよ。いいのよ。今度はわたしがあなたを追いかける番よ」
 と優しく微笑んだ。

 けれどもキョウコリーニの瞳はゆるぎない闘志で燃えていた。
 まだ終わらない。終わらせない。
 わたしは女優になることを絶対に諦めない。

 キョウコリーニは決意した。泣きじゃくるアスカリアを優しく抱きしめながら……。

 アスカリアはキョウコリーニの気持ちを知ってか知らずか、
「わたし、おねぇちゃんをまってる。いつかおねぇちゃんといっしょにドラマにでる日を楽しみにまってるから」
 と泣きじゃくりながら――

 双子の姉妹はお互いに大きな声で泣きじゃくりながら抱き合った。
 1本の電話は始まりと終わりを告げ、双子の姉妹の人生を大きく変えることになる。

 双子の姉妹の約束プロミス

 こうして2人の姉妹の青春の1ページが始動した。
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