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第1話 文学青年

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 かつて天空界にいる神々はさ。暗闇の生活が不便だと感じたので太陽を創造したんだよ。けれども24時間、太陽に照らされているとね。まぶしくて眠れやしない。睡眠障害になりそうだったので困った神々はさ。太陽が東から昇ったり、西に沈んだりするようにしたんだよ。それで一見落着したかのように思えたんだけどね。太陽が西に沈んでしまうと元の暗闇の生活に戻ってしまうんだよ。

 もうね、困った神々は太陽の代わりに月を創造することにしたんだ。朝と昼は太陽が大地を照りつけて夜は月が現れて光を灯す。そんな明るい神々生活がはじまったんだよ。しばらくしてさ。神々は太陽と月だけの生活に飽き飽きしたんだ。マンネリの生活って誰だって飽きるでしょ。マンネリ化を打破するためにね。

「だったら大地に植物が育つようにすればいいじゃない?」
 なんて、言いだす神様が現れてさ。大地に植物が育つようにしたんだよ。これで一見落着したかのように思えたんだ。けれどもね。
「全く微動だにしない植物を眺めていてもつまらない。時間の無駄じゃ~!」
 なんて、クレーマーで有名な神様の一言でさ。

 大地に植物が育つようにした神様は、
「何が時間の無駄なんじゃバカ野郎!」
 って、鼻息荒くいきり立ったんだよ。もうね、いきりたった神様の鼻息によって植物がしなだれるように揺れ動いてね。風が生まれたのは神々の間では有名な伝説として語り継がれるようになったんだよ。

けれどもさ。
「風が吹いて揺れ動く植物を眺めてもすぐに飽きる~。美人も3日で飽きるしな。うきゃきゃきゃ~!」
 なんて、やはりクレーマーで有名な神様の挑発とも思える余計な一言でね。風を作った神様は泣きじゃくり、泣き喚き、目から大粒の涙がこぼれ落ちたんだよ。大粒の涙が大地に落ちて、そして、海が生まれたんだよ。この事件を神々の間では偶然の産物と呼んでいるみたい。海が塩の味がするのは神様の涙のせいだと言われているんだよ。

 海だけではあまりにも味気ないからさ。海中を自由自在に泳ぐ魚たち。大地を動き回る獣たち。そして空を飛ぶ鳥たちを創ったんだ。ただしね、例外としてペンギンは飛べないんだよ。それは神々のちょっとしたユーモア溢あふれるいたずらだったんだ。

 神々の全てが聖人君子のように完璧であるとは限らない。真面目な神様もいればさ。不真面目な神様もいる。ユーモア溢れる神様だっているんだよ。それはそれは十人十色と言っていいんじゃないかな。だからこそなんだけどね。動物や植物だけでは飽きたらずに知的生命体である人間の男性と女性を誕生させる神様も現れたのだから……。それは禁断の果実、アダムとイブみたいなものなのかもしれない。

 何でこの世界が生まれたのか。そんなの知らないし分からないんだよ。だって神々と呼ばれる者しか分からない領域だから……。けれども人間たちは想像力を駆使したんだよ。想像力を働かせた結果! 人間たちは神々が人間を創造したのではないのかと推理したんだ。

 人間の中には天地創造説を唱える者たちが現れてさ。こぞって物語として書きはじめたんだよ。人間たちの想像力は、とてつもないパワーで膨らんでいく。女性の胸が膨らんでいくようにね。おっといけね、好奇心ゆえに膨らんでいったんだ。

 こうして、様々な物語が有名無名問わず、文字という媒体を通してさ。日々創られるようになったんだよ。

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 電子書籍等々……。

 その中にはきちんと完結する物語もあれば創り手の都合で未完に終わる物語もあるんだよ。大人の事情で打ち切られた物語だってある。著者本人が投げだした物語だってある。はたして未完となった物語はどうなるのだろうか。

 とある文学好きの神様は未完の物語に嘆いてね。ぷくんと頬を膨らませたんだよ。
「ぷんすかぷんすかぷ~、ぷんすかぷんすかぷ~」
 なんて、声にだして言うところがさ。これまた可愛らしいんだけどね。
「こうなったら下界に行って、あの計画を実行するしかないのう」

 なんて、ひとりごちると、一瞬で下界に舞い降りてしまったんだよ。とある文学好きの神様はさ。日本の歌舞伎町と呼ばれる繁華街に到着したんだよ。辺りはすでに夜になっていて、たくさんの人間たちが歩いていたんだ。

 とある文学好きの神様はね。幼さを残すロリータのいでたちだったからさ。もうね、繁華街をこんなロリータのいでたちでうろうろしていたら警官と呼ばれている人間どもに家出少女と間違えられて補導されてしまうかもしれない。あまりにも道行く人たちがさ。とある文学好きの神様を見て家出少女なのかな? という疑いの目で見てくるんだよ。これはまずいと思ったとある文学好きの神様はね。

「やはり困った時の神頼み。老婆よのう、ぷぷぷ♪」
 なんて、ひとりごちると笑い転げたんだよ。それはもうケタケタケタ笑ってさ。道行く人たちからしたら気がふれたんじゃないの? どうしたの? この娘はって感じで見られたりしていたんだよ。正直、どこが面白いかは別としてね。文学好きの神様は一瞬で老婆の姿に変身したんだよ。

 老婆に変身したとある文学好きの神様はさ。
「ぷぷぷ♪ これで正真正銘の老婆よのう」
 なんて、ひとりごちると繁華街を彷徨いはじめたんだよ。そして、繁華街の片隅でひとりの若者と出会ったんだ。それは一見、偶然的に思えることが実は必然的に起こっているようなものだったのかもしれないし、出会うべくして出会っただけなのかもしれない。それは誰にも分からないんだよ。

 ただ、老婆に変身したとある文学好きの神様はね。この若者を選んだんだよ。まるで以前から知っているかのように老婆は若者に近づいていったんだ。
「わらわは全能を司る神様だ。のう若者よ、ちょっと待ちなされ」
 なんて、若者に声をかけたんだよ。
「え? わたしですか?」
 若者は老婆の突然の神様発言に驚いて立ち止まったんだ。もうね、歌舞伎町はいろんな人種が集まる街だからね。何が起こってもおかしくはないんだよ。

 もちろん頭がおかしい人間だっているからさ。老婆の出会って3秒の神様発言は頭のおかしい部類に入るんじゃないかな。けれども若者は老婆が神様の存在であると不思議と信じることができたんだよ。それはこの若者がおバカだからじゃなくてね。純粋に神様の存在を信じていたからなんだよ。

 それに神様を信じている若者の枕元にさ。毎夜、とある文学好きの神様はね。老婆の姿で夢に登場しては、「わらわは神様だ!」としつこく名乗っていたんだよ。若者は何度も何度も夢に現れ、神様だと告げる老婆の姿を見るうちにね。老婆=神様だと若者にはインプットされたみたいなんだよ。そういうのをパブロフの犬と言うんだけどさ。
「あなたは夢にでてきた神様だ! 何でここに神様が?」
 なんて、若者は目を見開かせ驚いたんだよ。


(どうやら若者の夢に出没し神様だと名乗る作戦がうまくいったようね。ぐふふふ♪)
 なんて、老婆はほくそ笑んでね。そして、射抜くように若者を見つめたんだよ。
「そうじゃ、わらわは神様じゃ。もしも、ひとつだけ願いが叶うのならば何が欲しいかのう?」
 なんて、つぶやいたんだよ。即答で若者はさ。
「私は書く才能が欲しいです。小説家になりたい」
 とぽつりと言ったんだ。まるで若者はね。あらかじめ答えを用意しているかのような素早い切り替えしだったんだよ。

(この若者め、何の迷いもなく言いよった。言いよったのう……)
 なんて、老婆は満足げにうなずいたんだ。若者が何者なのか老婆は知っていたんだよ。神様ゆえに知っていたんだよ。何せ、意図的に若者の夢に毎夜登場したほどの策士だからさ。知っていて当然なんだよ。

 若者は作家を志す文学青年だったんだけどね。極貧の生活をしていたんだよ。生活が苦しいながらも結婚を誓い合った恋人みゆがいたんだ。何年も何年も作家の芽はでる気配はなかったんだけどさ。それでも若者は作家になる夢を捨てきれずにいたんだよ。作品を書き上げ、文学賞に応募しては落選の繰り返しをしていたんだ。

 ちょうどこの日もね。自分の小説が文学賞に落選したことを知り、途方に暮れて夜の繁華街を歩いていたところだったんだよ。すべてお見通しの上で老婆は若者に話しかけたんだよ。

(莫大なお金が欲しいとか、地位や名誉が欲しいとか言ってもよさそうなものをねぇ……。書く才能が欲しい小説家になりたい、そなたが求めるものはそれなのかい?)
 なんて、老婆は舌なめずりをしながらさ。いやらしく青年を見つめたんだ。それは質屋の主人がね。己が見込んだ通りの人間しょうひんかどうかを値踏みをするような感じだったんだよ。

 若者は老婆の視線を避けずに真っ向から見つめ返したんだけどさ。若者の目は本気だったんだ。何があってもブレない真っ直ぐな目付き。想い。情熱。老婆にとってはね。それが誇らしくもあって嬉しくもあったんだよ。だから老婆は、

「ならば、そなたに書く才能をやろう小説家にしてやろう。ただし物語を未完で終わらしては絶対にならんし、文学にすべてを捧げるのだ。もしも、その契約を破ったらそら恐ろしいことが待っているだろうよ……。それでもわらわと契約する勇気はあるかい? 若者よ、わらわと契約する勇気はあるのかい? どうなんじゃ?」

 なんて、意味深に言ったんだよ。それでいて具体的な恐ろしいことは教えないしたたかさを内に秘めて……。若者は老婆の言葉に戸惑いながらもさ。
「はい、どの物語も未完では終わらせませんし、私にとって書くことが生きることであり、生きることが書くことです。だから私は書く才能が欲しいのです! 他は何もいりません。ただ、書く才能だけが欲しいのです!」
 ときっぱりと言いきったんだよ。老婆はうっすらと満足げにうなずくとね。

「……よかろう」
 とひとりごちて、青年の額に手を当てたんだ。
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