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ある日、中庭は消失した
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学園の中庭にはベンチがある。そこには人目を忍んで恋人達が愛を語らう場所。
いつの時代も人目が気になるお年頃の婚約者同士が互いに本音で語らう愛の手助けをするベンチ。
そこに最近訪れるのは、正式な婚約者がいるにも関わらず他に愛を囁く不実な男と女。
二人のお気に入りは人目につかないベンチの上。熱い口付けの応酬に、エレーナは困惑の目を向けた。
人目を避けられていると思っているのは当の本人達だけ。実際には間違いが起こらないように何箇所からは丸見えになっている。
そもそも学園の中庭で不埒な行いをしようなどと、良識のある貴族子女は思わない。
「毎日毎日飽きないのかしら。」
エレーナの目に映るのは、今はまだ王子であり、エレーナの婚約者でもある第二王子リカルド。そしてその隣には最近彼の周りをウロチョロしていた男爵令嬢ミリア。
リカルドは学園を卒業後、エレーナの公爵家に婿入りすることになっているのだが。
エレーナは不思議に思う。婿入りできなければ平民になるしかない彼が男爵令嬢を寵愛する意味がわからない。公爵家から男爵家に婿入り先を変更したい、という意思表示かと思えば、エレーナと婚約を継続する意思はあるようで、なら男爵令嬢をもしかして愛人にでもするつもりかと考える。
エレーナはミリア嬢に直接挨拶されたことはない。彼女はいつもあの中庭で彼と口付けをする為にだけ、学園に通っている。授業を真面目に受けている姿を見たことはないし、先生達の教えが生かされている気配もない。
一体何のために学園に来ているのか、と考えるに、リカルドとの口付けの為に、としか考えられないのである。
エレーナはリカルドを好きではない。二人の婚約は政略であるが、絶対にしなくては国が困ると言う訳ではないから、第二王子が真に愛する人がいて、そのことをちゃんと筋を通して話してくれたらいくらでも回避できる婚約だ。
エレーナとて、好きでもない相手に浮気されてまで彼を助けようとは思わない。いつでも婚約をなくしてもらっていいのである。
だが、今のところ、リカルド側から公爵家へそのような申し出はなかった。
エレーナはこのまま有耶無耶になって、リカルドと結婚するのは嫌だな、と感じていた。貴族令嬢にあるまじき感情だとはわかってはいるが、どうしても学園の一角で愛欲に溺れている彼を不潔だと思ってしまうのだ。
ある日、エレーナは不思議な夢を見た。真っ白い空間に男性が一人。しきりに、目の前の装置を指差している。
『世界が滅びるボタン←押す?』
フルフルと、首を横に振ると、また新たな装置が現れる。
エレーナはそれを読んだ後、思いっきりボタンを押した。
翌日、恋人達は中庭を探して彷徨い歩くことになった。中庭に行こうとしても違う道に出てしまい辿りつかないのである。このことは学園の七不思議の一つに躍り出たのだが、それまでの七不思議が何だったか忘れてしまう程の衝撃がそれからも暫し続くことになるとは、まだ誰も理解していなかった。
いつの時代も人目が気になるお年頃の婚約者同士が互いに本音で語らう愛の手助けをするベンチ。
そこに最近訪れるのは、正式な婚約者がいるにも関わらず他に愛を囁く不実な男と女。
二人のお気に入りは人目につかないベンチの上。熱い口付けの応酬に、エレーナは困惑の目を向けた。
人目を避けられていると思っているのは当の本人達だけ。実際には間違いが起こらないように何箇所からは丸見えになっている。
そもそも学園の中庭で不埒な行いをしようなどと、良識のある貴族子女は思わない。
「毎日毎日飽きないのかしら。」
エレーナの目に映るのは、今はまだ王子であり、エレーナの婚約者でもある第二王子リカルド。そしてその隣には最近彼の周りをウロチョロしていた男爵令嬢ミリア。
リカルドは学園を卒業後、エレーナの公爵家に婿入りすることになっているのだが。
エレーナは不思議に思う。婿入りできなければ平民になるしかない彼が男爵令嬢を寵愛する意味がわからない。公爵家から男爵家に婿入り先を変更したい、という意思表示かと思えば、エレーナと婚約を継続する意思はあるようで、なら男爵令嬢をもしかして愛人にでもするつもりかと考える。
エレーナはミリア嬢に直接挨拶されたことはない。彼女はいつもあの中庭で彼と口付けをする為にだけ、学園に通っている。授業を真面目に受けている姿を見たことはないし、先生達の教えが生かされている気配もない。
一体何のために学園に来ているのか、と考えるに、リカルドとの口付けの為に、としか考えられないのである。
エレーナはリカルドを好きではない。二人の婚約は政略であるが、絶対にしなくては国が困ると言う訳ではないから、第二王子が真に愛する人がいて、そのことをちゃんと筋を通して話してくれたらいくらでも回避できる婚約だ。
エレーナとて、好きでもない相手に浮気されてまで彼を助けようとは思わない。いつでも婚約をなくしてもらっていいのである。
だが、今のところ、リカルド側から公爵家へそのような申し出はなかった。
エレーナはこのまま有耶無耶になって、リカルドと結婚するのは嫌だな、と感じていた。貴族令嬢にあるまじき感情だとはわかってはいるが、どうしても学園の一角で愛欲に溺れている彼を不潔だと思ってしまうのだ。
ある日、エレーナは不思議な夢を見た。真っ白い空間に男性が一人。しきりに、目の前の装置を指差している。
『世界が滅びるボタン←押す?』
フルフルと、首を横に振ると、また新たな装置が現れる。
エレーナはそれを読んだ後、思いっきりボタンを押した。
翌日、恋人達は中庭を探して彷徨い歩くことになった。中庭に行こうとしても違う道に出てしまい辿りつかないのである。このことは学園の七不思議の一つに躍り出たのだが、それまでの七不思議が何だったか忘れてしまう程の衝撃がそれからも暫し続くことになるとは、まだ誰も理解していなかった。
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