夜明けのムジカ

道草家守

文字の大きさ
27 / 78

探掘街の少年1

しおりを挟む
 その小柄な少年を見つけた時、ムジカは通り過ぎることも考えたが、残念なことに立ち去る前に少年が気がついた。少年は驚きに目を見開いて駆け寄ってくる。
 首から下げる立ち売り箱を揺らさず、すいすいと探掘屋シーカーたちをよけていく姿はいつ見ても感心するが。

「師匠っ無事だったのか!」
「ムジカさんだろ、ファリン」
「いででっ!」

 ぐりぐりとこめかみに指をねじ込んでやれば、ファリンは大げさに痛がった。
 何度もつぎあてのされた薄汚れた服、そして土ぼこりにまみれた顔は孤児の証だ。乳歯が抜けたのか、前歯が一本欠けている。確か9歳の少年だったはずだが、体格としては小柄なムジカとほぼ変わらない。
 彼、ファリンは探掘坑前を渡り歩くサンドウィッチ売りの少年だった。

「誰があんたの師匠になった。というか、お前の仕事場はもっと手前のはずだろ。まさか」

 ムジカが表情を険しくすれば、ファリンは慌てて首を横に振った。

「ち、ちがうって、おいらだって年齢が足りたら探掘屋シーカーになるからその情報収集に……」
「同じことだろうが」

 この少年は探掘屋シーカー稼業にやたらと興味を示し、年が近いせいかムジカを師匠と呼んでことあるごとに絡んでくるのだ。
 特大のため息をつけば、ファリンはふてくされたように唇をとがらせた。

「ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃねえか、ケチ」
「ばっか、お前みたいなやつが来ちゃ行けねえ場所なんだよ、ここは。おとなしく本業で稼いでろ。ハムサンド二つ頼む」
「……はいよ」

 ムジカが色をつけた金額のコインを投げれば、慣れた手つきでファリンは受け取る。そして首から提げている立ち売り箱から、紙に包まれたハムサンドを差し出した。
 彼の本業だ。ハムには比較的混ぜ物が少なく、スライスされたチーズまで入っているためなかなか腹持ちがいい。

「最近は重作業型の部品が高値で取引されてる。エーテル結晶も売値が上昇中。なんか需要があるらしいね」

 さらに、色をつければ遺物の買い取り相場まで教えてくれるため、探掘屋シーカー達の間では両方の面で重宝されていた。

「どっかの金持ちがまたコレクションを発掘させようとしてんのか……?」
「おいらは見聞きしたことをそんまんま話してるだけだよ」
「そこは信頼してるさ。それとありがとな。あたしが遭難しかけたのスリアンに知らせてくれたんだろ」
「へへ、師匠の窮地だもんよ。感謝のしるしに俺を探掘へ」
「それはだめだ」

 ムジカに礼を言われ、照れ臭そうに鼻の下を指でこすっていたファリンだが、即座に両断されて不満そうな顔をする。

「こうやって見てるとさ、探掘屋シーカーのほうが手っ取り早くかせげるじゃないか。師匠みたいにドカーンとかせいで、兄弟たちを楽させたいんだよ!」

 この街では働かないものは子供だろうと生きてはいけない。エーテル症や不衛生な環境での生活、過重労働などで人がばたばた死ぬ。親が死に、ファリンのような境遇の子供たちが路地裏で身を寄せ合って暮らしていることも珍しくなかった。
 そんな彼らの夢のように見られているのが、皮肉なことに両親達を死に追いやった探掘屋シーカーだ。一度の探掘で1年以上暮らせる稼ぎが手に入ることは、たまらなく魅力的に映るらしい。

 庇護者のいないファリンが必死になる気持ちもよくわかるが、ムジカは彼を連れて行く気は毛頭なかった。探掘の現実を知っているだけになおさら。
 利発でまっとうな稼ぎのあるファリンには、そのまま仕事を続けていて欲しかった。

「あたしがあんたに教えられることは何もない」
「なんだよ師匠! おいらだって男だし、もう12って言っても通じるくらい大きくなった! 覚悟もあるぞ! ってその後ろの美人誰」

 このまま押し切って立ち去ろうと思っていたムジカだったが、ファリンがムジカの後ろに控えていたラスに気づいてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...