朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第一章

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『ネコ耳……金色のキャッツアイ……全裸に手だけ肉球……なんだ、夢か』

 毛布を被り直したアドラーは目を閉じた。
 この家の周りには、簡単な結界魔法をかけてある。
 気付かれずに侵入するのは不可能なはずだから。

「起きろって言ってるだろ!」
「夢じゃなかった!?」

 布団を剥ぎ取られたところでアドラーがようやく目を覚ます。

「おいアドラー、どうするつもりだ。にゃ」
「無理に猫言葉にしなくても良いですよ……ってか、何が?」

 ワーキャット族とは珍しい、しかも何処から入り込んだのか何故自分を知ってるのか疑問は尽きない。

「そりゃギルドのことだ! 無くなると寂しいぞ? だにゃ」
「だから、無理に。って、バスティさん?」

 この家に居るのは、アドラーと外に繋いだロバのドリー、あとはバスティだけ。
 眼の前のネコ耳少女は、艷やかな黒髪がギルドの守り猫そっくりだった。

 当たり前だろ? という表情をしたネコ耳はアドラーに訴える。

「このギルドは、ずーっとわたしが見てたんだぞ? まあ何もしないけどさ。そりゃ一度は……うーんっと……」

 器用にもバスティは両手を肉球から人の手に変化させ、指折り数える。

「うん、7人になったこともあったけどちゃんと立ち直った! お前一人で大丈夫なのか? にゃ」

 律儀にもキャラを守る守り猫様に、アドラーは一つお願いをした。

「あの、服を着てくれませんか?」
「おっと、忘れてた」

 悪びれることなくバスティは跨っていたアドラーから飛び降りると、服を探しに部屋から出ていった。
 そのお尻にはしっかりと長い猫の尾が生えている。

『そういえば、お腹の上にバスティさんを置いて寝てたな……』
 野性味のかけらもない、食事は新鮮なお肉か調理されたもの。
 寝る時は最低でも整えられた猫のベッド。

『化け猫なら仕方ない……いやワーキャット? 猫人族? なんだろうなあ』
 アドラーにもまったく見当が付かないが、発言からは相当な長生きだと分かる。

 ミュスレアが残していったのか、大きなパーカー風の服を一枚羽織ってバスティが戻ってきた。

「なあ、ギルド! ギルド! わたしの団ーっ!」
 アドラーの裾を引っ張って懇願するが、さっぱり要領を得ない。

 守り猫――冒険者団や探検船では、居着いた猫や野良を拾っては大事に扱う。

 ネズミを取るといった実用性よりも、俊敏で強く美しく孤高のネコは危険に挑む者たちの象徴としてぴったりだった。
 どちらが先かはアドラーも知らないが、彼を拾ったのも”猫と冒険の女神”だ。

 ギルドの守り神とも言うべき存在が、行く末を心配して出てきたと思えば分からなくも……ないのか?

 アドラーは無理やり自分を納得させた。

「バスティ?」
「うん」

「他のギルドを紹介してあげるから……」

 言い終わる前に、バスティはペチンとアドラーの頭を叩いた。

「簡単に諦めるなよーっ! お前はそれでも冒険者か? 苦境に陥っても一筋の光を求めるのが冒険者。そんなことでは姉様が泣くぞ! だにゃ」

「そう言われても……一人で520枚もの借金返すのは無理だよ。ところで、姉様?」

 心底意外という顔をしてバスティは衝撃の事実を告げた。

「お前、姉様のお陰でこの世界に来たろ? 臭いで分かるぞ。うちはその末の妹だ!」
「えっ!? なら……女神さま?」

「そうとも言う!」
 どうだとばかりに、バスティが仁王立ちする。

 アドラーより頭一つは小柄で体毛と同じ濃紫の髪、低い鼻にくるくる動く金の瞳と、バスティの面影はあるがとても女神には見えない。

「……女神の守るギルドが、崩壊したと?」
「ううっ……それを言うな……うちはまだ姉様から別れて600年ほどなんだ。年齢でいうと1歳くらいだ」

「1歳にしては大きいなあ」
「猫の1歳だ、にゃ」
 人で言えば中高生ってところ。

 何時までもベッドで話し込むわけにもいかず、場所を食卓に移した。

 林檎酒の酒精を飛ばし、蜂蜜を加えた温かい飲み物をバスティに出す。
 くんくんと臭いを嗅ぎ、舌を付けてから「熱い!」と文句を言ったところで、こいつは猫だとアドラーも確信出来た。

「それで、俺にどうしろと?」
「なあギルドを守ってくれよー。うちは生まれてから、ずーっとこのギルドに居たんだ。今更なくなるのは嫌だよー」

 机の上にあごを付けて、ごろんごろん転がりながらバスティがお願いする。

「けど俺一人では……」
「アドラーは姉様に力を貰ってるじゃないか。お前なら出来るから頼むよー」

「何とかしたいのは山々だけど、もうドラゴンの一匹でも丸ごと捕まえないと無理なもので」
「ドラゴン? ドラゴンなら心当たりがあるぞ」

 嘘だろ!?――と、アドラーは思った。
 竜種は既に伝説上の存在、アドラクティアでもメガラニカでも目撃談どころか骨の一つもお目にかかったことがない。

「うーん、バスティが協力してくれるのなら最後の望みがあるかも……」
「良いぞ。野良になるのも天界に戻るのも嫌だ。うちはもっと冒険したい! にゃ!」

 あっけなくギルドの守り神は了承した。
 しかし、それにしても……。

「”猫と冒険の女神様”から別れたのなら、姉でなく母なのでは?」
「バカっ! それを言うな! 『お姉ちゃん』って呼ばないと激怒するんだぞ!」

 ”太陽を掴む鷲”団は、新任の団長一人を残して壊滅した。
 団員は他になく、守り猫が一匹と一頭のロバがあるのみ。

 だがソロギルドの団長は、この時に初めて後始末でなく再興を真剣に考えはじめた……。


 ※バスティ
「七人になったこともあった!」

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