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第七章
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しおりを挟むアドラーは、見知らぬ土地で夜襲はありえないが、翌日には再攻撃があると踏んでいた。
戦死者が出て宣教師が捕虜となれば、何が何でもやり返すのが軍隊という組織。
「地図をくれ!」
ドワーフ族は、周域の詳細な地図を作っている。
付近の鉱脈や岩石の分布、炭焼小屋から水の在り処まで記した詳細なもので、描き込まれた絵も上手い。
「流石はドワーフ。これを取られなかったのは不幸中の幸いだな」
集落に入り込んだのは、食料だけでなく地図などの情報を求めての事。
ひと目で地理が分かるこの一枚は、帽子一杯の金貨の価値がある。
山のドワーフが何世代もかけて作りあげた地図が、アドラーを大いに助ける。
「退却方向から見るに、この盆地にサイアミーズ軍がいる。広さも万の軍が野営するに十分。ここに続く道はこれだけ?」
集落から指を滑らしながらアドラーが聞き、ドワーフの男が鈴なりになって答える。
「こちらに細い山道があります、この小川も足は濡れるが遡れます」
「ふむ、ならば主要な道を通行止めにしてしまうか……。どうかな?」
集落から北へ伸び、軍隊が使えそうな道は一本きり。
これを封鎖できれば大きく時間を稼げるし、アドラーが陣取っても良い。
「それならわしらにお任せを。ゴーレムを使っても十日は通れぬようにしてみせましょう」
他人に嫌がらせする時のドワーフは、本当に良い笑顔を作る。
この種族は気はいいのだが多少意地が悪い、どんなに良く言っても頑固な職人親父の集団。
北の大陸には”天敵”がいる。
群生型モンスターのナフーヌ、これの侵入を防ぐ準備は常にしてある。
ただし、天敵が存在するお陰で二足種族同士は仲が良い。
それが仇になったと、ドワーフの一人が語る。
「今回の奴らが来た時も、誰も何の心配もしませんでした。むしろ何百人も訪れるなど初めてで、歓迎のお祭り騒ぎ。言葉が通じないので余程に遠くから来たのかと、身振り手振りで話してたら……集落の周りを囲まれて『食い物を出せ』と」
異変を感じた年寄達が、女子供を隠す前に攻撃が始まった。
弓でも投石でもない、圧倒的な数と威力の飛び道具に、残っていた者は為すすべもなし。
木板と土壁で作った家など金属の加速弾を相手に、何の役にも立たぬ。
頭を砕かれ、胸を貫かれて即死した者はまだ幸せ。
骨を砕かれ苦しんで死んだ者や、腕が弾け飛んで二度とハンマーを握れなくなったドワーフの子供もいた。
あと僅かでもリューリアが遅ければ、死者はもっと増えた。
まだ再生魔法が使えぬリューリアは涙を堪えながら、体力が続く限り癒やしの魔法をかけ続けている。
ドワーフの男達は、百十の墓穴を掘りながら復讐を誓った。
たまたまアドラーの事を知ってる者が居なければ、問答無用で逆襲に出ただろう。
そして確実に殲滅される。
「道を崩すのは任せます。自分は山を通ってもう一度偵察に行きます。そしてこれを……」
アドラーは、サイアミーズ軍が残した魔弾杖の一本を床に立てた。
そして刀で縦に二つに割る。
「う、疑っていた訳ではないが、やはり本物……」
金属棒を真っ二つにするところを見せられて、ドワーフ達も納得せざるを得ない。
アドラクティア大陸にアドラーと名付けられる男子は多いが、三年前から”人族のアドラー”は固有名詞となっている。
”人族のアドラー”には、復讐に燃えるドワーフの男どもを抑えるに十分な伝説が十編ほどある。
ただしアドラーは、そんな事になっているとは知らない。
この三年間、命の恩人であるかわいいクォーターエルフの三姉弟の近くで、のんびりと傷を癒やしていただけだから。
「マレフィカ、使ってる魔法について説明してあげて」
アドラーは、魔弾杖の内側を見せるようにしてドワーフ達に渡す。
最新の兵器を残していったのは、サイアミーズ軍の大きなミス。
例え回収しても、アドラーは予備を二本持って来ていたが。
兵器を真似て使うのは驚くほど早いと、アドラーは歴史から知っている。
鍛冶にも優れたドワーフ族に、膨大な魔法知識を持つマレフィカが協力すれば尚更。
そしてアドラーが地球の知識を付け加える。
「これの弾をね、半球に円柱を付けた形にしてくれる? ついでに螺旋状に回転が付けば文句なし」
現代的な弾丸の形状とライフリングの注文まで付けたが、マレフィカが残念そうに告げた。
「指示の意味はわかるが今は無理だなー。中で弾が回ると魔法が上手く伝わらない。改良はしない方が良い、今はまだ」
ドワーフによる魔改造は、当分の間は持ち越しになる。
驚きの新兵器を期待したアドラーもちょっと残念。
「まあ良いか、どうせ今回は間に合わないだろう。俺は偵察に行ってくる」
使ってる金属配合に魔力の供給装置、内部に掘られた魔法が分かっても、細い棒の内部を削るのは北の技術ではまだ無理。
一本一本が手作りで、いっそ太い大砲型の方が生産が早い可能性もある。
しばらくは、アドラー個人の知識と力で対抗することになるはずだ。
偵察には、ブランカとキャルルを連れていく。
「付いてこれるの?」
純粋な疑問でブランカが聞いた。
「お前な! 最近生意気だぞ!」
「生意気って言われてもー、心配してあげてるのにー」
ブランカは、キャルルが子供扱いされると怒るのを知っている。
「こいつめ!」
白い尻尾を掴もうとしてキャルルは失敗した。
「だんちょー、キャルルがいじめるー」
ブランカは、団長を挟む位置に逃げる。
アドラーは、二人の頭に片手を置く。
死体が転がる一番悲惨な場面を見せたくなくて、アドラーは暗くなってから二人を集落に呼んだ。
過保護だと言われても仕方がない。
キャルルが冒険者を続けるなら、護衛や山賊退治などの仕事も舞い込むはず。
いずれ必ず同族を傷つけ殺す状況は来るが……なるべく先送りしたいのが団長心。
「兄ちゃん、ボクは平気だよ。もう戦える」
頭に置かれた手を両手で掴んで、キャルルは真っ直ぐアドラーを見上げた。
少年は、すすり泣く母親と自分の背丈よりも小さな棺桶を見て、二足で歩き話の通じる敵に対しても弓を放つと決めた。
あとは、団長で兄貴分で師匠の許しが出れば。
「まだだ、今回は相手が悪い。もう少し大きくなったらな」
「何時まで待てば良いのさ!」
キャルルは、本気半分と甘えが半分でアドラーに怒って見せた。
「あたしは?」
今度はブランカが聞いた。
己が守護する大陸へ戻った祖竜は、力が溢れていた。
アドラーの強化魔法を受ければ、現時点でも大陸最強の個体かも知れぬほど。
「ブランカは……俺が良いと言ったときだ。ただ、みんなを守る時は遠慮するな」
「遠慮なんてする訳ないじゃん!」
答えたブランカの笑顔には何の屈託もない。
元々、短いサイクルで巡る命を竜は気に留めない。
その時の機嫌や、好きか嫌いで振る舞いを決めるのみ。
ブランカの好きな人達は、はっきりと決まっていて、傷つけようとする者共は逆鱗に触れることになる。
「よし、三人で様子を見に行く。戦いはなしだ。何処で何をしてるかこっそり見届けて帰ってくる、いいな?」
「はい!」
「あい!」
身軽な二人が手を上げた。
山を下り、三人は木に登る。
森の民の血が混ざるキャルルは、意外にも枝から枝へ飛び移るという芸当が出来る。
バスティにもらった加速の加護を使えば、アドラーとブランカにも付いて行けるほど。
慎重に進んだアドラー達は、夜なのに明るい盆地を見下ろす位置まで来た。
「まいったな……これほどか……」
アドラーも思わず声が漏れる。
南の大陸で最強の陸軍国家は、堀と柵を五重に巡らし物見櫓を建て、千の天幕を連ねた巨大な陣地を築いていた。
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