朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 アドラーが一斉射撃を受けて倒れ込むまで数秒。
 この時には、合計百七十四門から放たれた砲弾が空を飛んでいた。

 後押ししながら導くのは、風の精霊たち。
 中空で見た目よりは軽い鉄やガラスの砲弾は、風の気まぐれに弱い。

 南の大陸では魔法技術に繋がる法術魔法が発展したが、北の大陸では身近な精霊魔法の最盛期。

「お願いします!」と、アドラーと一緒に土の精霊を好むドワーフ族と、水の精霊を好むリザード族が、上位風精霊シルフに頼み込んだ。

「くすくす。どうする?」
「やだ。むさ苦しいもの」
「あっちのエルフの男の子を貰えるなら……」

 上位風精霊シルフは、何を差し出させるか飛びながら話し合う。
 色良い返事を貰うには、キャルルを捧げるしかないと思われたが……。

「ちょっと待って、あちらを見て」
「何かしら?」
「ひょっとして?」

 上位風精霊シルフ達は、アドラーの後ろで暇そうに尻尾を振る少女に気付いた。

「……本物よ」
「まだ幼いけど本物よ」
「王冠を持たぬ王の帰還よ」

 大きなあくびをして牙を見せつけたブランカが、興味深そうに舞い踊るシルフを見る。
 竜には精霊が見えるし従わせる、翼を広げるだけでシルフが寄ってくる。
 だがブランカの背中には、まだ僅かに羽毛が生えてるのみ。

 それでも、大陸の守護竜には違いない。

「今回だけよ」
「手伝うわ」
「感謝してよね!」

 山からサイアミーズ軍の駐屯地へ吹き下ろす風が、照準器も弾道計算もない大砲に命中率を与える。

 全弾の四割が、南北に一キロ以上、東西も五百メートルはある駐屯地へと吸い込まれる。

 この時が、双方の攻撃開始から三十秒ほど。
 
 アドラーを守っていたいのは、ミュスレアが守護の女神アテナから貰った絶対障壁ファランクス

 最高神の一人から授かった魔法だけあって、耐えられない攻撃はまだ見つかってない。

 問題はどれくらいの時間持つのか、だった。


「やっぱり短いね」と、数日間の実験を見守ったマレフィカが断言した。
 ミュスレアがダルタスだけを守った時は、長くて三十秒。

「うっ、べ、べつに手を抜いてるわけじゃないのよ?」
 ミュスレアが言い訳した。

 弟妹であるキャルルとリューリアを守った時は、九十秒ほど持続した。
 アドラーを守った時もそれくらい。

「気にするな」と返したダルタスは、理由を悟ったが口には出さない。
 最強種のオークの大男が「愛ゆえに……」とは口が裂けても言えない。

 アテナ――”愛と守護の女神”――の能力は、持ち主の相手への気持ちで持続時間が大きく変化した。

 三十秒は充分に長い、致命的な攻撃を封じた後に安全圏まで逃げるに足りる。
 九十秒もあれば、崩れる建物の中に居ても生き延びれるほど。

 むしろ「キャルルや団長の三分の一とは、俺も信用されたものだ」と、ダルタスは思った。

 アドラーを長時間守る鉄壁の防御魔法は、作戦に組み込むに足りるだけの信頼度がある。

 アドラーが敵軍の前面に赴くのに、わざわざミュスレアを同行させたのは、これが理由。

 変装させたのは、顔を覚えられたくないから。
 平凡なアドラーと違い、クォーターエルフの美女は印象に残る。

 あとは、死を偽装するのにキャルルが自信満々で持って来たトマト……。

「あんたねっ! 残すだけならまだしも隠すなんて! この子はほんとにもう!」
 リューリアは過去最大級の激怒。

 この所、大きくなったと思っていたキャルルが、残した野菜を革袋に詰めて隠すなど恥ずかしさの余りに顔から火が出る勢い。

「リュー、叱らないであげて。な、なんとか無駄にならないように使ってみるから……ちょっと変な臭いがするけど」

 キャルルが持って来た革袋の中では、トマトが液体になろうとしていた。


 真っ赤に熟したトマトの汁からアドラーが体を起こした時は、守護の女神アテナの加護は残り六十秒。

「行け、ダルタスが来ている」
 アドラーは、ミュスレアに森まで退けと命令する。

「はい。あなたも……お気を付けて」
 ミュスレアは直ぐに駆け出す。
 数百メートル先の森からは、ダルタスとキャルルが鋼鉄の板を抱えて走ってくる。

 溶かした鉄を固めただけではなく、ドワーフが色と火花を見ながら叩き上げた鋼鉄である。
 作戦が失敗した時、アドラーとミュスレアが隠れて後退するための鉄板。

 十秒ほど、アドラーはその場に立って要塞を見る。
 魔法大砲は、すすの掃除も火薬装填も冷却すら必要ない、一門が一分に三発も撃てる。

「ちょうど、一分」
 アドラーの視線の先と周囲にも、二度目の砲撃が降ってくる。

 完全に混乱した要塞を横目にアドラーは動く。
 守りの薄い箇所を見つけマントを脱ぎ捨てると、サイアミーズ軍の軍服が現れた。
 敵兵士に変装することを禁じる条約は、この世界にはまだない。

 一般兵士用の鉄兜を被り、アドラーは防壁の上に声をかける。

「おい、手を貸してくれ! 落とされちまった!」
 ヒト族で南の言葉を喋り、同じ軍服を来た男を、兵士は疑わなかった。

 ただし、「大丈夫か? 酷く出血してるが」とは聞いたが。

「いや、赤い野菜を運んでたんだよ」
 アドラーは何事もなく答え、潜入に成功する。

 この時点で、攻撃開始から三分少々。
 放たれた砲弾は千五百発を超えていた。

 上空から監視していたマレフィカの指示で、一旦砲撃は止まる。
 そしてアドラーに目標の情報が送られた。

「ドラクロワは……こっちか」
 アドラーは「敵襲だ!」と騒がそうと思っていたが止めた。

 敵軍は混乱していたが、恐慌には程遠い。
 無意味に騒ぎ立てる兵士など一人も居なかった。
 ただし軍人以外の、新大陸調査に来ていた学者などは喚いていたが。

「どちらかと言えば、原隊と命令を求めて集結中か。急ぐか」

 強化魔法を全開にしたアドラーは、目に止まるのも気にせずに走る。
 ドラクロワ上将と首脳部が逃げ込んだ丸太小屋へ侵入すれば、作戦の半分は成功するのだ。

 そして、サイアミーズ軍は一時的に司令部を失った。
 再び砲撃が始まり、軍の死者と負傷者が三千を超えるまで、僅か二十分足らずの出来事だった。


「文民はなりふり構わず転移装置で逃走……軍人も士気が挫けたか……」
 小屋から様子を伺うアドラーは、勝利を確信しかけた。

 全員逃げ帰ってくれるのが、一番良いのだ。
 下手にこちらに残って山賊化などすれば、最凶の山賊団が出来上がる。

 だが……上級指揮官の中で、第三軍団の軍団長が生き残っていた。
 名はマルセル・ビガード、一兵卒からの叩き上げの軍団長だった。

「伝令は?」
「既に出しました」
 ビガードは、半日の距離にいる第四軍団の半分に急ぎ戻れと伝える。

 駐屯地に残った一個半の軍団を、既に九千が六千になっていたが、徐々に掌握しつつあった。

「旗を立てろ! 構わん軍団長旗もだ! 俺がここにいると兵に示せ!」
 ビガードは、生粋の軍人らしく声が大きい。

「歩ける者は全員集めろ、死にそうな奴は本国へ送り返せ! おい、余り固まるな、一発で全滅するぞ! 隊の間隔を取って床板を引っ剥がして盾にしろ、しょせんは鉄くずとガラス片だ。冷静に対処すれば死にはせん!」

 この要塞は、サイアミーズ本国から新大陸へ繋がるたった二つの出入り口の一つ。
 例え軍団が壊滅しようが、引き下がる訳にはいかなかった。

「……困ったもんだ。普通は総崩れしてくれるだろ」
 命令系統の残る軍隊は、人の作ったどの組織よりもしぶとい。

 アドラーは、作戦の最終段階を発動させるように、マレフィカに連絡を送る。
 止めの一撃を加える必要があった。

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