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第4話 3人の夜
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そしてある日、その日は来た。季節は梅雨を過ぎていた。
少し動くだけで汗ばむ季節が来ていた。
夜、いつものように光岡さんとセックスをしていると影由さんが帰ってきた。
光岡さんが私のナカからペニスを抜こうとすると影由さんが口を開いた。
「光岡、最後までやれ」
「……でも」
「やれ」
「……日向さん、いいですか?」
「……いいよ」
投げやりな気持ちだった。
「日向……日向……!」
光岡さんは影由さんに見られながらも腰を懸命に動かしていた。
見られているのに興奮できる光岡さんに私は少し驚いた。
私の興奮は冷めていた。
ただ光岡さんが果てるのを待っていた。
光岡さんはゴムの中に精を巻き散らかすと、ぐったりと私の上に横たわった。
それを見て、影由さんは動いた。
光岡さんの体をぐいと持ち上げ、私から引っこ抜いた。
「……失礼します」
「待て」
ゴムを脱いだ光岡さんが立ち上がり、股間を押さえて出て行こうとするのを、影由さんはまたしても制した。
「お前は後ろだ。日向を抱えろ」
「……日向さん」
「いいよ、影由さんの言うとおりにして」
光岡さんに許可をあげる。
こんなことは、初めてだった。
私は上体を起こして、布団に座った。
光岡さんは私の後ろに回った。これからどうするべきか戸惑っているのが分かる。
「胸でも揉んでやれ」
「は、はい……」
光岡さんは後ろから私の胸を揉んだ。
肉付きのいい私の胸に彼の指が沈み込む。
影由さんはしばらく私の胸が変形するのを眺めていたけど、やがて私の足を広げ、陰部を丸見えにした。
そしてそこへ口を近付けた。
さっきまでゴム越しとは言え、光岡さんのモノが入っていたそこを影由さんが舐めている。
変な気分だった。
影由さんは私のピクピク動く足を押さえながら、ジュルジュルと私の蜜をすすった。
「はあ……はあ……」
光岡さんが興奮し出す。
私の背中に反り返った光岡さんの裸のペニスが当たる。
影由さんは口を離すとスーツを脱いで、部屋の隅に放り投げた。
影由さんのペニスも立ち上がっていた。
「日向、四つん這いになれ」
「はい……」
光岡さんが一旦離れる。
私は四つん這いになり、光岡さんに顔を、影由さんにお尻を向けた。
「光岡、日向の口を使え」
「ご、ゴムがもう……」
「生で構わん」
影由さんが冷たく言い放った。
「日向ちゃん……!」
「大丈夫」
そう言うと私は目の前にある膝立ちの光岡さんのペニスを口に含んだ。
生のペニスを口にするのは初めてだった。
影由さんには結婚する前にゴム越しにフェラをしたことはある。
しかし結婚してからは生で基本は中出しだ。
光岡さんも私にフェラを頼むことはなかった。
口を使うのは久しぶりだった。
間男のペニスを口に含んだ妻の尻を、影由さんは支え持った。
舐められてすっかり濡れた私のナカに、影由さんの生のペニスが突きたてられる。
「~~!」
声を出せない。
代わりに私は光岡さんのペニスを舌で舐めた。
「ああ……日向ちゃん、気持ちいい……気持ちいいよ……」
光岡さんが腰を動かし出す。
私の喉奥に当たらぬよう慎重に、それでもこらえきれないものがあったらしく激しく腰は動く。
対する影由さんの動きは緩慢だ。
尻を少し撫でるくらいで、ゆるゆると私の膣の中を行ったり来たりしている。
「……締まりが良いな。興奮しているのか、日向」
影由さんがそんなことを言うのは珍しかった。
「日向ちゃん……日向ちゃん……」
私は前後で与えられるタイミングの違う振動に、手足で体を支えられなくなってきた。
それに影由さんが気付き、腰を強く持ち上げた。
「光岡、日向を支えてやれ」
「は、はい……」
影由さんの存在に今、気付いたかのように光岡さんのからだがビクリと跳ねる。
私の口の中で光岡さんが暴れ、私の体が反応し、影由さんのペニスに振動は伝わる。
影由さんの腰を持つ手の力が強くなる。
光岡さんは私の頭を抱えた。
唇が光岡さんの体に当たる。
陰毛が私の唇をくすぐる。
その感触に私の膣は締まり、影由さんのペニスが動きを一瞬止めた。
そして、その直後、影由さんの動きは激しさを増した。
「はあ……! はあ……! 出る! 出るぞ!」
「ひ、日向ちゃん、俺も! 俺も出る!」
「出すぞ! 月夜」
影由さんのペニスが暴れる。
私のナカを精液が埋める。
それと同時に光岡さんも私の口の中に精液を出した。
苦い味が私の口の中に広がる。
そして、光岡さんはゆっくりペニスを引っこ抜き、立ち上がった。
影由さんも私からペニスを抜き、私の体を布団に転がした。
「……影由!」
光岡さんが声を荒げた。そんな光岡さんの声を聞くのは初めてだった。
何事かと顔を上げると、光岡さんが影由さんをぶん殴っていた。
「光岡さん!?」
裸の男が裸の男を殴る。
異様な光景に驚きながらも、同じく裸の私は光岡さんにすがりついて止めた。
「な、何を……!」
「何をじゃない! 今、こいつ君のこと、月夜さんの名前で呼んだ!」
「そ、それは……」
当たり前すぎて忘れていた。
よくあることすぎて、麻痺していた。
「ふざけるな! ふざけるなよ、影由!」
「やめて! 待って光岡さん!」
「……大声を出すな、光岡、日向、人が来る……」
「何だったんだ! 月夜さんのことは忘れて日向ちゃんを幸せにするって……そう言ったじゃないか!」
知らない。そんなこと知らない。
「はは、日向の幸せ……日向の間男のお前が日向の幸せを語るか?」
「う……」
光岡さんは固まった。
「……影由さん」
私は力なく影由さんを呼んだ。
「光岡さんは、私に幸せをくれようとしていた」
「間男の擁護か。そうか、そういうことをするのか、日向」
「……間男を認めたのはあなたじゃない」
「…………」
影由さんの顔に陰がよぎった。
「あなたが認めたから、私、光岡さんとの関係を続けた……何も言わなかったのはあなたじゃない……私だって、何も言わずに来た……」
涙が頬を伝っていた。
こんなのは異様だ。
不倫をしているのは自分のくせに、まるで被害者のように私は涙を流していた。
「私が姉さんの代わりだなんて知っているもの……だから平気なの、光岡さん、怒らなくていいの」
「日向ちゃん……」
「私はずっと姉の婚約者に抱かれているの。今日も昨日も明日からも」
私はずっと姉さんの代わりだ。
ずっと、どうしようもなく。
「……それでいいって思ったのは私だから、いいの」
「俺は、よくないよ。そんな君なら俺は、俺は、抱けない」
光岡さんの言葉は私の胸を抉った。
こんなに傷付くとは思わなかった。
光岡さんに振られることが、こんなに苦しいとは思わなかった。
「……抱けないよ、日向ちゃん。だって、俺、君が好きだから」
「……俺は、日向のことを愛しているわけじゃない」
ああ、また一つ、傷が増える。
……影由さん、私は、それでもあなたのこと好きなんです。
「日向の言うとおりだ、お前は月夜の代わりだ。だから、日向にとって光岡と俺、どちらがどちらの代わりでもよかった」
私の心にふたつ穴が開く。
まるで空に開いたお月様のようだと、私は外を見ようとしたけれど、障子に阻まれる。
月夜は私の目には見えない。
「それでいいんだ、光岡。俺たちはそれでいい」
「……この、大嘘つき」
光岡さんのそれが影由さんのどれに向けられたのかが分からない。
ただ、私は振られたのだと、それだけが分かった。
「……影由さん、ひとつだけ聞かせて? 姉さん以外の人を……抱いたことはある?」
「……月夜の公認で、抱いた。病弱なあいつはそれを引け目に感じて、俺に浮気を許した。その代わりその行為を俺は月夜に報告した……日向との、一夜以外はすべて月夜に話した。月夜に許されていない関係は、お前との一夜だけだ」
長年の疑問は、氷解した。
私は正真正銘、姉を裏切っていた。
体がぐらりと揺れた。
私は布団に倒れ込んだ。
セックスの疲れだろうか? やけに体が重い。
下腹部が、痛い。
「……もう、寝る」
そう呟いて私は目を閉じた。
裸の私にどちらかが布団をかけてくれた。
どちらなのかは、分からなかった。
翌朝、目を覚ませば、影由さんはいなかった。もう出勤していた。
光岡さんはスーツで私が朝食を食べるのを眺めていた。
「……光岡さん、出掛けたいところがあるの」
「どちらへ、奥様?」
光岡さんは人前では私のことを奥様と呼ぶようになっていた。
「産婦人科」
光岡さんが目を見開いた。生理はもうずいぶんと来ていなかった。
そして光岡さんが休みの日にこっそり出掛けて買ってきた検査薬も陽性を示していた。
読み通り、私は妊娠していた。
帰りの車の中、光岡さんが珍しく自分から口を開いた。
「……逃げよう、日向」
「……何から?」
「影由さんのところにいたって、君も赤ん坊も幸せになんかなれないよ。逃げよう、影由さんから。あんなの駄目だ。あんな人からは逃げた方が良い……あの人は君を月夜さんの代わりにしてるだけだ。ずっと」
「……私、そんな生活、分からない。光岡さんだって、お坊ちゃまから影由さん家の運転手じゃ、逃げた先での生活なんて分からないでしょう」
「……分からないよ、分からないけど」
「私達、知っている生き方しか出来ないよ。そういうものだよ。幸せ、なんて、最初から、なれないと分かっていたもの」
最初に、影由さんを誘惑したときから分かっていた。
私は地獄に落ちるのだと。
車の外を見た。夏の太陽がまぶしいくらいにこちらを照らしていた。
「……約束だから、子供を産むの。それが私の使命なの。逃げたいのなら、光岡さんは一人で逃げて。私、大丈夫だから」
「逃げられないよ。君を置いてなんて、逃げられない」
車の中を重苦しい空気が包んだ。
「……ねえ光岡さん、どうして影由さんに言っちゃったの? 卒業式のあとのこと」
「……あの後、影由の顔が見られなくなった。不審がられてた、いつかバレると思った。それに、言えば破談しないかと思った……君のことが、好きだったから」
「そっか」
影由さんに破談されたところで、私は光岡さんとは結婚しなかっただろう。
そう思ったけど、そうは言わなかった。
影由さんの帰りは珍しく早かった。
お手伝いさんの作ってくれた夕食を一緒に取った。
そこで私は妊娠を告げた。
「そうか」
淡泊な答えが、彼らしくて、私は何故かほっとした。
ようやく私は姉の代わりを務めることが出来る。
長かった。
最初の日、私の誕生日から、3年の月日が経とうとしていた。
少し動くだけで汗ばむ季節が来ていた。
夜、いつものように光岡さんとセックスをしていると影由さんが帰ってきた。
光岡さんが私のナカからペニスを抜こうとすると影由さんが口を開いた。
「光岡、最後までやれ」
「……でも」
「やれ」
「……日向さん、いいですか?」
「……いいよ」
投げやりな気持ちだった。
「日向……日向……!」
光岡さんは影由さんに見られながらも腰を懸命に動かしていた。
見られているのに興奮できる光岡さんに私は少し驚いた。
私の興奮は冷めていた。
ただ光岡さんが果てるのを待っていた。
光岡さんはゴムの中に精を巻き散らかすと、ぐったりと私の上に横たわった。
それを見て、影由さんは動いた。
光岡さんの体をぐいと持ち上げ、私から引っこ抜いた。
「……失礼します」
「待て」
ゴムを脱いだ光岡さんが立ち上がり、股間を押さえて出て行こうとするのを、影由さんはまたしても制した。
「お前は後ろだ。日向を抱えろ」
「……日向さん」
「いいよ、影由さんの言うとおりにして」
光岡さんに許可をあげる。
こんなことは、初めてだった。
私は上体を起こして、布団に座った。
光岡さんは私の後ろに回った。これからどうするべきか戸惑っているのが分かる。
「胸でも揉んでやれ」
「は、はい……」
光岡さんは後ろから私の胸を揉んだ。
肉付きのいい私の胸に彼の指が沈み込む。
影由さんはしばらく私の胸が変形するのを眺めていたけど、やがて私の足を広げ、陰部を丸見えにした。
そしてそこへ口を近付けた。
さっきまでゴム越しとは言え、光岡さんのモノが入っていたそこを影由さんが舐めている。
変な気分だった。
影由さんは私のピクピク動く足を押さえながら、ジュルジュルと私の蜜をすすった。
「はあ……はあ……」
光岡さんが興奮し出す。
私の背中に反り返った光岡さんの裸のペニスが当たる。
影由さんは口を離すとスーツを脱いで、部屋の隅に放り投げた。
影由さんのペニスも立ち上がっていた。
「日向、四つん這いになれ」
「はい……」
光岡さんが一旦離れる。
私は四つん這いになり、光岡さんに顔を、影由さんにお尻を向けた。
「光岡、日向の口を使え」
「ご、ゴムがもう……」
「生で構わん」
影由さんが冷たく言い放った。
「日向ちゃん……!」
「大丈夫」
そう言うと私は目の前にある膝立ちの光岡さんのペニスを口に含んだ。
生のペニスを口にするのは初めてだった。
影由さんには結婚する前にゴム越しにフェラをしたことはある。
しかし結婚してからは生で基本は中出しだ。
光岡さんも私にフェラを頼むことはなかった。
口を使うのは久しぶりだった。
間男のペニスを口に含んだ妻の尻を、影由さんは支え持った。
舐められてすっかり濡れた私のナカに、影由さんの生のペニスが突きたてられる。
「~~!」
声を出せない。
代わりに私は光岡さんのペニスを舌で舐めた。
「ああ……日向ちゃん、気持ちいい……気持ちいいよ……」
光岡さんが腰を動かし出す。
私の喉奥に当たらぬよう慎重に、それでもこらえきれないものがあったらしく激しく腰は動く。
対する影由さんの動きは緩慢だ。
尻を少し撫でるくらいで、ゆるゆると私の膣の中を行ったり来たりしている。
「……締まりが良いな。興奮しているのか、日向」
影由さんがそんなことを言うのは珍しかった。
「日向ちゃん……日向ちゃん……」
私は前後で与えられるタイミングの違う振動に、手足で体を支えられなくなってきた。
それに影由さんが気付き、腰を強く持ち上げた。
「光岡、日向を支えてやれ」
「は、はい……」
影由さんの存在に今、気付いたかのように光岡さんのからだがビクリと跳ねる。
私の口の中で光岡さんが暴れ、私の体が反応し、影由さんのペニスに振動は伝わる。
影由さんの腰を持つ手の力が強くなる。
光岡さんは私の頭を抱えた。
唇が光岡さんの体に当たる。
陰毛が私の唇をくすぐる。
その感触に私の膣は締まり、影由さんのペニスが動きを一瞬止めた。
そして、その直後、影由さんの動きは激しさを増した。
「はあ……! はあ……! 出る! 出るぞ!」
「ひ、日向ちゃん、俺も! 俺も出る!」
「出すぞ! 月夜」
影由さんのペニスが暴れる。
私のナカを精液が埋める。
それと同時に光岡さんも私の口の中に精液を出した。
苦い味が私の口の中に広がる。
そして、光岡さんはゆっくりペニスを引っこ抜き、立ち上がった。
影由さんも私からペニスを抜き、私の体を布団に転がした。
「……影由!」
光岡さんが声を荒げた。そんな光岡さんの声を聞くのは初めてだった。
何事かと顔を上げると、光岡さんが影由さんをぶん殴っていた。
「光岡さん!?」
裸の男が裸の男を殴る。
異様な光景に驚きながらも、同じく裸の私は光岡さんにすがりついて止めた。
「な、何を……!」
「何をじゃない! 今、こいつ君のこと、月夜さんの名前で呼んだ!」
「そ、それは……」
当たり前すぎて忘れていた。
よくあることすぎて、麻痺していた。
「ふざけるな! ふざけるなよ、影由!」
「やめて! 待って光岡さん!」
「……大声を出すな、光岡、日向、人が来る……」
「何だったんだ! 月夜さんのことは忘れて日向ちゃんを幸せにするって……そう言ったじゃないか!」
知らない。そんなこと知らない。
「はは、日向の幸せ……日向の間男のお前が日向の幸せを語るか?」
「う……」
光岡さんは固まった。
「……影由さん」
私は力なく影由さんを呼んだ。
「光岡さんは、私に幸せをくれようとしていた」
「間男の擁護か。そうか、そういうことをするのか、日向」
「……間男を認めたのはあなたじゃない」
「…………」
影由さんの顔に陰がよぎった。
「あなたが認めたから、私、光岡さんとの関係を続けた……何も言わなかったのはあなたじゃない……私だって、何も言わずに来た……」
涙が頬を伝っていた。
こんなのは異様だ。
不倫をしているのは自分のくせに、まるで被害者のように私は涙を流していた。
「私が姉さんの代わりだなんて知っているもの……だから平気なの、光岡さん、怒らなくていいの」
「日向ちゃん……」
「私はずっと姉の婚約者に抱かれているの。今日も昨日も明日からも」
私はずっと姉さんの代わりだ。
ずっと、どうしようもなく。
「……それでいいって思ったのは私だから、いいの」
「俺は、よくないよ。そんな君なら俺は、俺は、抱けない」
光岡さんの言葉は私の胸を抉った。
こんなに傷付くとは思わなかった。
光岡さんに振られることが、こんなに苦しいとは思わなかった。
「……抱けないよ、日向ちゃん。だって、俺、君が好きだから」
「……俺は、日向のことを愛しているわけじゃない」
ああ、また一つ、傷が増える。
……影由さん、私は、それでもあなたのこと好きなんです。
「日向の言うとおりだ、お前は月夜の代わりだ。だから、日向にとって光岡と俺、どちらがどちらの代わりでもよかった」
私の心にふたつ穴が開く。
まるで空に開いたお月様のようだと、私は外を見ようとしたけれど、障子に阻まれる。
月夜は私の目には見えない。
「それでいいんだ、光岡。俺たちはそれでいい」
「……この、大嘘つき」
光岡さんのそれが影由さんのどれに向けられたのかが分からない。
ただ、私は振られたのだと、それだけが分かった。
「……影由さん、ひとつだけ聞かせて? 姉さん以外の人を……抱いたことはある?」
「……月夜の公認で、抱いた。病弱なあいつはそれを引け目に感じて、俺に浮気を許した。その代わりその行為を俺は月夜に報告した……日向との、一夜以外はすべて月夜に話した。月夜に許されていない関係は、お前との一夜だけだ」
長年の疑問は、氷解した。
私は正真正銘、姉を裏切っていた。
体がぐらりと揺れた。
私は布団に倒れ込んだ。
セックスの疲れだろうか? やけに体が重い。
下腹部が、痛い。
「……もう、寝る」
そう呟いて私は目を閉じた。
裸の私にどちらかが布団をかけてくれた。
どちらなのかは、分からなかった。
翌朝、目を覚ませば、影由さんはいなかった。もう出勤していた。
光岡さんはスーツで私が朝食を食べるのを眺めていた。
「……光岡さん、出掛けたいところがあるの」
「どちらへ、奥様?」
光岡さんは人前では私のことを奥様と呼ぶようになっていた。
「産婦人科」
光岡さんが目を見開いた。生理はもうずいぶんと来ていなかった。
そして光岡さんが休みの日にこっそり出掛けて買ってきた検査薬も陽性を示していた。
読み通り、私は妊娠していた。
帰りの車の中、光岡さんが珍しく自分から口を開いた。
「……逃げよう、日向」
「……何から?」
「影由さんのところにいたって、君も赤ん坊も幸せになんかなれないよ。逃げよう、影由さんから。あんなの駄目だ。あんな人からは逃げた方が良い……あの人は君を月夜さんの代わりにしてるだけだ。ずっと」
「……私、そんな生活、分からない。光岡さんだって、お坊ちゃまから影由さん家の運転手じゃ、逃げた先での生活なんて分からないでしょう」
「……分からないよ、分からないけど」
「私達、知っている生き方しか出来ないよ。そういうものだよ。幸せ、なんて、最初から、なれないと分かっていたもの」
最初に、影由さんを誘惑したときから分かっていた。
私は地獄に落ちるのだと。
車の外を見た。夏の太陽がまぶしいくらいにこちらを照らしていた。
「……約束だから、子供を産むの。それが私の使命なの。逃げたいのなら、光岡さんは一人で逃げて。私、大丈夫だから」
「逃げられないよ。君を置いてなんて、逃げられない」
車の中を重苦しい空気が包んだ。
「……ねえ光岡さん、どうして影由さんに言っちゃったの? 卒業式のあとのこと」
「……あの後、影由の顔が見られなくなった。不審がられてた、いつかバレると思った。それに、言えば破談しないかと思った……君のことが、好きだったから」
「そっか」
影由さんに破談されたところで、私は光岡さんとは結婚しなかっただろう。
そう思ったけど、そうは言わなかった。
影由さんの帰りは珍しく早かった。
お手伝いさんの作ってくれた夕食を一緒に取った。
そこで私は妊娠を告げた。
「そうか」
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