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53 スキルのアレコレ

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   ツナデの【ユニークスキル】

《空間跳躍》

   これはもしかしてもしかする。

『ほな、いくでぇ』

   その掛け声が終わった途端フッとツナデが目の前から搔き消える。

   トントン、と背中を叩かれ振り向くと、少しお尻を突き出して立つツナデ。

「いや、前から後ろって、この距離なら《縮地》でも一瞬で移動できるし…」

『しゃーないやん、部屋ん中狭いし!』

   ちょっと頬を膨らませぷぅっと膨れるツナデ。

『マスター、《空間跳躍》レベル1では視界の範囲で移動可能です。マスターのイメージする『テレポート』の原理はわかりませんが、始点から到達点までの空間を無いものとし、移動するスキルのようです。《縮地》は距離を瞬間的に移動するスキルです。』

   要するに《空間跳躍》間を無いものとして点から点へ移動。《縮地》は間を物凄いスピードで移動するという事だ。
   今のように移動の間に俺と言う物理的障害があれば《縮地》はぶつかるが、《空間跳躍》は通り抜けるのだ。
   テレポート、来ました!
   俺も使いたい!

『……マスター、スキル《空間跳躍》の習得に失敗しました。取得条件が不足しているようです』

   がーん、条件不足か…まあ、最初魔法習得の時も直ぐに習得出来たものと条件が揃わないと習得出来なかったものがあったよな。
   その辺りはよくわからないが、ラノベやゲーム的には空間魔法や時空魔法的なものの習得がいるのかもしれない。でもいつか手に入りそうだよな。希望は持とう。

   ジライヤが『くわあぁ』とあくびをする。いつの間にか小さくなってルーナの横に寝そべっていた。
“やっと終わったか?”とでも言っているみたい、人が片眉をあげるように顔を歪める。

   ルーナはぐっすり眠っているし、夕食にも少し時間がある。

「よし、ジライヤ風呂に入ろう」

   ベッドからジライヤを抱き上げると脚をだらんと垂らして尻尾だけがフリフリ揺れる。

『お風呂、入る、ぬくぬく』

「おう、ツナデも入るか」

『ん~、まあ入ってもええけど』

   おれは右にジライヤ、左にツナデを抱え風呂に向かった。






「丁度いい温度のお湯を出すのってなかなか難しいよな」

   バスタブにようやく半分ほど溜まったお湯を見て独り言ちる。

「……あっ!そうだ」

   突然の声にジライヤとツナデがピクンとする。

「お湯だって、《コピー》すりゃあいいんじゃん。《水魔法》で出しても《コピー》で出しても元はどっちも俺の魔力だし!」

   バスタブに半分溜まった湯に手を突っ込み《コピー》発動。

   バシャン

    一気に溢れそうなほど嵩が増えた。

「これでいつでも直ぐにお湯が沸く、これが本当の瞬間湯沸かしってか」


   ……静まり返る浴室。

   ツナデさん、そんなチベットスナギツネのような眼で見ないで、ジライヤも憐れみを視線に載せないでね。
   俺のオヤジギャグに対してではなく瞬間湯沸かし器が解らない、そう、そうゆうことだ!

   何もなかったことにして風呂に入る。逃避と言いたくば、言うがいい!俺は誰に言い訳をしてるんだろう?
   今日はしっかり石鹸を泡だてて身体を洗い、ジライヤも洗う。ツナデは自分で洗える。全員洗い終わったら直ぐに新しく張りなおしたお湯にゆっくり浸かった。
   ジライヤはバスタブの縁に顎を乗せ四肢を弛緩させている。ツナデはお湯に浸かったり縁に登ったりを繰り返してたが。もしかして熱いのは苦手か?猿は水嫌いという説もあるが温泉に浸かるニホンザルも有名だがな。
   そんなことを考えながら、まあまあゆっくりお風呂を堪能した。


   身支度を整えてからお湯を張りなおしておく。そろそろルーナを起こして風呂に入れて夕食に行こう。

   ベッドを除くと丁度もぞもぞしだしたので起こすことにする。

「むー、おはよ、フブキ」

「起きたか、ご飯の前にお風呂入るか」

「ん~」

 目をこすりながら起き上がったルーナはふとツナデと視線があった。

「あれ、ツナデ?あえ?」

 多少寝ぼけているものの、変化に戸惑っているようだ。

『ほら、ちゃっちゃと風呂に入ってしまい』

 言いつつルーナを脱がせにかかる。ツナデ母さん再びである。俺はジャージの下と半袖体操着なので多少濡れてもどうとでもなる。

「もう大丈夫か、身体でどこかおかしなところとかないか?」

 メディカルポッドは俺の魔法というかスキルなんだが、作った俺自身把握できていないのでルーナの体調はナビゲーターの診断以外は本人に聞くしかない。
 レベルが上がったから身体が大きくなったという感じはないが、見た目じゃ全然わからないから。

「うん、お腹減った」

   それだけ言うとツナデに連れられ浴室に向かう。 
 ルーナをさっと風呂に入れたら食事をとり、早めに休ませよう。










 そう思っていたのに食べた後は元気だった。
   しばらく子犬モードのジライヤとちみっこツナデ(分体)と遊んではしゃいでいるルーナを横目で見ながら、俺は荷物の整理をする。
 成長したツナデに合わせてお猿さんリュックを《錬金術》で心持ち大きくしたり、タオルでぐるぐる巻きにしたペットボトルをそのまま入れられる巾着タイプのペットボトルカバーをホーンラビットの皮で作ってみたり。
 《錬金術》は便利だ。普通は縫って袋状にするのに《錬金術》だと繋ぎ目や境ののない袋が出来上がるのだから。(なんとなく錬金術の使い方を間違えているような気もしないではない)

   あと、ツナデの《投擲》スキルでどんなものが投げられるのか試す必要もある。ルーナのスローイングナイフを5本ほどコピーしておいて明日試してみよう。


   さて、はしゃぎ疲れる前に寝るよう言うと素直にベッドに潜り込む。ルーナを挟んでツナデとジライヤも丸くなる。俺も洗濯を済ませたら寝よう。なんだか主夫のようだ。

   明日も朝から冒険者ギルドだな。








   おかしい。


   隣のベッドで寝ていたはずなのに。

   起きると俺の上に全員乗っているのはなぜだろう。
   ベッドがひっついているのがよくないのか?

   俺が目覚めた気配で左太腿の上に頭を載せているジライヤが眼を開ける。
   右側から胸の上に頭を載せているルーナを起こさないようにそっとずらしていると、左側から腹の上に頭を載せていたツナデも眼を覚ます。

「もうちょっと寝てていいぞ」

   ツナデとジライヤに言うとジライヤはルーナの横に移動してまた眼を閉じる。
   ツナデは俺と一緒に起きた。浴室で顔を洗うと、ツナデも同じように顔を洗う。
   服を着替えたらルーナの着替えを準備して出発の準備をしておく。
   凍ったビタン水(タオルグルグル巻きバージョン)を《複製》で2つ出すと昨日作ったカバーをかけて1つはツナデに渡し、もう1つはルーナのリュックの中と入れ替えておく。
   昨日使ったものはゴミ専用麻袋に入れてどこかでまとめて焼却するつもりだ。

   そうこうしているうちにルーナが眼を覚ます。

「おはよ、フブキ、ジライヤ、ツナデ」

「おはよう、ルーナ。よく眠れたか」

『起きたら顔洗うんやで』

『おはよ』

   ジライヤが前脚を突っ張って伸びをすると、すくっと立ち上がりベッドを降りる。降りた時には大型サイズに戻ってた。
   ツナデがルーナを浴室に連れて行ったので戻ってくるまでジライヤをもふっていよう。
   すっげーふかふかで気持ちがいいのだ。小さいのもいいが大きいジライヤもモフリがいがある。

「お腹すいたー」

   ルーナが駆け寄ってくる。

「じゃあ着替えてご飯な」

   ここでもツナデ母さんはルーナの着替えを手伝ってくれる。進化でさらに指先が器用になったのか昨日より早い?

「さあ食堂に行こうか」


   朝のメニューはフレンチドレッシングに似たものがかかったサラダと白パンより柔らかなロールパンっぽいもの。スープはポトフぽいが野菜だけだ。それにベーコンのような肉。最近は食堂で食べる機会があれば《記憶》してメニューを増やしている。

   これで一人前60テナなんだがやはり都会ミスル田舎ムル村より割高なのかな。
   ツナデは基本芋か果物なんだが、バナナに似たムークというのがあった。皮は緑だが中身が濃いオレンジ色で口当たりはねっとりではなくシャクっとしていて水分も多い。
   見た途端、ツナデのしっぽがピンと立ち上がったのでムークは好物認定した。
   鑑定で『熟すまえは皮は茶色で身は硬いが火を通すことで甘さが増す。熟すと皮が青くなり……』とあったが逆じゃないのかとツッコミたかった。

   ジライヤの朝食はロックリザードの肉にした。器から溢れそうなサイズを食べている。ジライヤの器が小さくなってきたので後でデカくするか。

   食事が済んだら冒険者ギルドに行って魔石の代金受け取りとそのあとは軽い依頼をこなしつつ色々試してみるか。





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