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55 街の西側

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 西門まで結構距離があった。今までは街の中央からみて東側しかうろついてなかったから。街の東側はどちらかといえばベルーガ方面に向けた冒険者や商人、それを相手にする商店や職人の暮らす区域で、街の中心が領主の館を中心とした貴族と金持ちの高級住宅っぽい。
 それを過ぎると庶民の住居区っぽくなる。畑や果樹園みたいなのは街の北西に広がっていた。街壁の外にも畑は続いている。
(肉は基本モンスターのお肉なので牧畜は専業がなく、農家の人が乳牛や鳥を飼っているので牧場はない)

 西門は東門に比べて倍以上の大きさだった。
 ここから多くの馬車が街道に旅立って行く。西に向かう街道は道幅も広く馴らされているので馬車も走りやすそうだ。
 ミスルの街から西にクエンという街へ、南西にブルス、北西に王都と主要都市に繋がる主街道なんだと。

 門を出るとすぐ左は森だ。ここが職員の言っていた薬草の生えてる森だろう。
 と言ってもこんな街道近くには生えてないがな。

 《アクティブマップ》を常時展開であたりを注意しつつ森の中へ分け入る。街道近くは樹もまばらだな。

 ん、ルーナは森に入った途端足音をたてなくなった。こういうところはというより本能なんだろうか。
 ゆっくりと注意を怠らず森を進む。ゆっくりと言っても俺たちの場合常人の走るスピードより速いんだが。
 数キロほど進んだ頃に南側に少し魔素が濃くなっている場所があった。

「ビンゴ」

 ヤクシャクの木が生えているのをマップで確認できた。さらに進んで行くとまだはっきりと見えないのにルーナが見つけたようだ。

「フブキ、あそこ」

 木の下に到着すると俺は籠を取り出し一つルーナに渡す。ツナデがジライヤの背から飛び上がりヤクシャクの木をするりと登りだした。

『落としちゃるから、下で受けや』

 ツナデがリュックの横のポケットから取り出したナイフで花を切りとると、ぽいぽい下に落とす。それをルーナが籠でキャッチしていくという具合だ。
 俺は花を一つ摘み左手に持ち、右手に《コピー》でヤクシャクの花を出す。
《魔力感知》で二つを見比べると案の定コピー物の方が魔素が多い。
 この辺りの魔素濃度はベルーガの森に比べ低い。だからか周囲の魔素を吸収する植物も魔素が少ないようだ。

「これは全部コピーとかしなくてよかった。ちょっと混ぜるくらいにしよう」

 俺も手の届く辺りの花を摘んでいく。ルーナとツナデはあっという間に籠に山盛り摘んだので俺は籠半分のヤクシャクをコピーで出し、まとめて麻袋に詰める。少し袋を降って中を撹拌してからアイテムボックスにしまった。

 あたりを警戒していたジライヤの耳がピクリと動く。俺のマップにも赤表示がでた。

「ゴブリンか、どこにでも湧いて出るんだな」

『倒す?フブキ』

「近付いて来るようなら倒そう、逃げるようなら放置でいいさ。ゴブリンなら新人冒険者の稼ぎになるだろうし」

 訊いてきたジライヤにそう説明する。昨日や今日訓練していた新人君の糧になってもらおう。

 と考えたフブキだが、素人に毛が生えたかどうかもわからないくらいの彼らにはゴブリンは強敵で見習い冒険者の仕事では無いなどと、思いもしないのだった。


   しばらく移動して少し森が丸く開けたところがあった。つい最近までここに大きな木々が生えていたようだが人に伐採されたのか、切り株がいくつか残っている。
 日を遮る巨木の葉がなくなったので、陽光をしっかりと浴びたジオウ草が群生している。手にとってみるがこれもやはりベルーガより魔素がやや少なめだ。

 ツナデとルーナが早速ジオウ草を摘み出したので俺も仲間入りをした。

 マップに黄色の点がいくつか出たので片っ端から調べて行くとホーンラビットがいた。

「ジライヤ、南東方向、こっちにホーンラビットが何匹かいるみたいだ、捕まえてきてもらっていいか」

 ジライヤに解りやすいように方角を指差す。

『わかった、行って来る』

 足音もなく颯爽と走り去るジライヤを見送る。ダークシャドウウルフになってから隠密性が増しているなあ。

 ヤクシャクの花と同じように少しのコピー品を混ぜてジオウ草も麻袋に収納した。

 マップのホーンラビットの黄色が一瞬赤に変わってすぐにはいい色になったので、ジライヤが仕留めたのがわかる。二つ目も同じように灰色に変わった時コールがきた。

『ツナデのレベルが上がりました』

「これで今日の依頼は終わりか。ここ陽当たりいいしジライヤが戻ってきたらお昼ご飯にしよう」

 少し日陰になった位置の切り株、表面は斧で削り折っているのでボコボコギザギザだ。表面を魔法で綺麗に均してテーブルがわりにする。周りに結界石もセットしておこう。

 昼ごはんに臓物煮込みと、これには酸味のあるパンの方が合うのでイラ麦パンとあとはサラダ。
 ツナデにはムークとテトポ、ジライヤにはロックリザードの肉にしよう。
 用意が整った頃にこっちに戻ってきていたはずのジライヤがマップから消えた。

「え、ジライヤ?」

 マップをもう一度確かめるがジライヤを指し示す青い点がない。

『マスター、ジライヤは《遁甲》中と思われます。よってマップから消失したようです』

 なんだ、脅かしてくれるなよ。
 焦ったり、安堵したりする俺をツナデとルーナが心配そうにみていた。

「ごめん、なんでもないんだ」

 そう言うと足元の陰から黒い霧が立ち上り、ぬっとジライヤが現れた。ホーンラビットを2匹咥えている。

「おかえりジライヤ、それこっちにもらおうか。ご飯の用意できてるから昼飯にしよう」

 焦っていたことなどなかったように、ジライヤからホーンラビットを受け取りアイテムボックスに収納する。血抜きは後でやればいい。

 ジライヤの頭をもしゃもしゃもふってからご飯を食べ始めた。








 食後もしばらく木陰にもたれて休憩しているとジライヤが横に寝そべってきたので軽くもふっていた。
 ルーナとツナデは休憩に飽きたのかもぞもぞし出す。何も言わずに見ているとツナデが石を拾ってルーナに投げ出した。
 ルーナはそれを鞘をつけたままのナイフで弾く。

 カン、コン、カン…

 カン、カカン、コン…

 ココン、カン、カカン…

 カカコン、ココン、カカン…

 だんだん投げる間隔が早くなってきてないか?

 ココココン、カカン、ココン、ごんっ

「いった~~い!」

 弾き損ねた石がルーナの顔面にヒットしたようだ。頭を押さえてルーナが蹲る。

「ルーナ?」

 俺は身を起こしルーナを呼ぶ。立ち上がったルーナはタタタッとしっかりした足取りでかけて来る。頭をぶつけた影響というか問題はない様だが…ツナデもよってきた。

『かんにんな、簡単に弾くさかい、段々はよ投げてしもた』

「むー、訓練だもん、弾けなかったルーナがダメなんだ」

「ルーナ、見せてみろ」

 額を抑えるルーナの手を退けて前髪をかき上げ額をあらわにする。額には傷と少量の出血、すでにコブになりかけた膨らみがあった。

「《ヒール》」

 回復魔法をかけるとみるみるコブは引っ込み傷も消えて行く。ただ血はついたままなのでタオルを水魔法で濡らし拭いてやった。

「あっ、いたっ……くない?」

 怪我のところを拭かれると痛いと言う思いからつい声を出したルーナだが、全然痛みがなかったので不思議そうに俺を見る。

「ん、魔法で怪我は先に治療したぞ?」

「すごーい。魔法ってすごい、いいなぁ」

「そうか?」

 前もこんな会話をしたよな。今の姿になっても根本的な性格というか感じ方は一緒なんだと、なんだか少しホッとしたような、変な感じだ。

『怪我してもフブキが治してくれるさかい、なんぼでもやったるで』

『ツナデ、加減しろ』

『なんや、ジライヤも混ざりたいんか?』

『言ってない。ルーナは小さい』

『小さい言うてもウチと変わらんやん』

「はいはい、その辺で終わりにしような。そろそろ街に戻ろう」

 君ら全員ステータスは0歳、同い年だからな。まあ人とモンスターでは成長速度が違うが。
 なぜか言い合いを始めたツナデとジライヤを諌め街に戻るため立ち上がり尻を払う。

 あ、その前にホーンラビットの血抜きしておかないと。

 アイテムボックスからホーンラビットを取り出すと、足元の地面がボコりとサッカーボール大に凹んだ。
 ツナデが胸を張ってドヤ顔だ。《地魔法》で穴を掘ってくれたんだろう。
 すると今度はスパンっとホーンラビットの頭が落ちた。
 俺は慌てて両手に一匹づつホーンラビットの後ろ足を持って穴の上にかざす。
 今度はジライヤが『ふふん、どうだ』とでも言いそうな顔をした。《風魔法》で頭を落としたんだな。いやそれはちょっと危ないからやる前に言ってくれ。

 ツナデが『むむっ』と唸った後ぽん、両手を打ち合わせる。するとホーンラビットから血が勢いよく噴き出した。
 だか噴き出した血は飛び散ることなく穴に吸い込まれて行く。

 驚く俺を見上げてツナデがさらにドヤ顔だ。

『マスター、ツナデが《水魔法》で流体、この場合は血液ですね。それをコントロールして排出を促したようです。
マスターにも可能でしょう』

 さしずめ《流体操作リキッドコントロール》てとこか。これがあると血抜きが早くすむな。

 なんて考えてたらルーナが両手に持ったナイフをチュインと振るう。
 ホーンラビットの腹がパックリ割れ内臓がむき出しになった。

「……お前達、俺がホーンラビットを持ってるのを忘れてないか?危ないだろう。一言声をかけてからやってくれよ」

 ツナデとルーナがそれぞれ内臓を落とした後、ジライヤが《地魔法》で穴を塞ぎあっという間に解体が終わった。
 麻袋を取り出しホーンラビットを入れながら首を振る俺。

 じゃあさっさと街に戻るか。なんだか疲れた気がする。









なんちゃって『ミスルの街」マップ

 

ごめんピント甘かった。
そういえばエバーナ大陸(今いる所)の地図入れてなかったか。



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血抜きは《水魔法》の方にしました。
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