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「そんなものまであるんだ。でも、ダスト・シュートの中もちゃんと放射能の汚染を防げるようになってるのかな?」
「うーん。確か、ゴミは溜まる一方で、回収用の入り口はない仕組みになっているはずだ。だから、普通の地下室のような作りだったとしても、気密性は保たれていて、ダスト・シュートから放射線が侵入してくることはないと思うけど」
「そっか。でも、溜まる一方ってことは、ゴミを入れ続けていたらいつかは満杯になっちゃうんだよね。食品が付着していて腐る部分があるゴミだけはダスト・シュートに入れて、それ以外の梱包部分はまた別の場所に置いておくことにしましょう。食品が付着しているゴミも、一度ゴミ袋に入れて、ダスト・シュートに入れる前にできるだけ潰して体積を少なくしましょう」
朝日奈さんはそう提案した。
「そうだね。じゃあ、とりあえずカップラーメンの容器は重ねておこうか。倉庫にゴミ袋があったから、それを取って来るよ」
僕は倉庫に行き、ゴミ袋を手にするとすぐに食堂に戻った。その間に、朝日奈さんはゴミの分別を済ませていた。
「こっちの、ダスト・シュートの前に置いてあるのがダスト・シュートに捨てるゴミを入れる袋で、食器棚の近くに置いてあるのがダスト・シュートには入れないゴミを入れる袋ね。位置で区別することにしましょう」
「うん、分かった」
「この後はどうする? 私、できればお風呂に入りたいんだけど……」
「入ってきなよ」
「タオルとか着替えはあるのかな? それと、お風呂ってお湯も出るの?」
「タオルや着替えは、倉庫にあるのを見かけた。お風呂は、電気でお湯を沸かす仕組みになってるから大丈夫だと思う」
「そっか。電気で沸かすのか……。それも節約しないといけないね」
「発電量が変わらないのなら、その範囲内でどれだけ実際に電気を使っても、燃料の消費量は変化しないから大丈夫だと思うよ」
「いえ、それなら、発電量を調整して、停電しないギリギリのラインを早いところ見つけないといけない、ってことでしょ?」
「そうだけど、とりあえず今日のところは考えないことにしようよ。僕も朝日奈さんも、今は気が張っているから疲れを感じないだけで、実際には色々と精神的な疲労が溜まっているだろうし。今日はもう夜も遅いから、さっさとお風呂に入って寝てしまおう」
「寝れる……かな。こんな状況で」
朝日奈さんは心細そうにそう言った。
「眠れなくても寝ないといけない。長丁場になるから、体力を温存しておかないと」
「うん、分かった。じゃあ、交替でお風呂に入ったら、発電機の発電量を最低のラインにしておきましょう」
「交替で? 僕は1日くらいならお風呂に入らなくても平気だけど」
「駄目よ。共同生活をするんだから、ちゃんと毎日お風呂に入って」
朝日奈さんはそう言って僕を睨んだ。
「分かったよ。ちゃんと入るから」
僕は諦めて頷いた。
それから僕たちは倉庫へ行き、タオルや着替えを調べた。タオルはフェイスタオルとバスタオルの2種類があったが、朝日奈さんは洗濯に必要な洗剤の量を節約するために、お風呂上がりでもバスタオルではなくフェイスタオルを使おうと主張した。着替えは、下着を除けば、男女兼用の藍色の浴衣と、フリーサイズの白いジャージの上下しかなかった。とりあえず、今日は浴衣に着替えることにする。朝日奈さんはボディーソープとシャンプー以外に、リンスや乳液や化粧水も欲しがったが、生憎、この倉庫には保湿クリームしか見当たらなかった。
「贅沢は言えないし、保湿クリームで妥協することにする。リンスに関しては、そんなものは最初からこの世に存在しなかったんだと思って諦める……。ボディーソープとシャンプーも1種類ずつしかなくて、しかも私が普段使っているメーカーのものじゃないけど、あるだけマシだと自分に言い聞かせる」
朝日奈さんは残念そうに言った。そんな大げさな、と思わないこともなかったが、女性にとってはそういうものが死活問題なのだろうと思い、僕は余計なことは言わなかった。
お風呂には先に朝日奈さんが入ることになった。その間、僕は自分の部屋――「雪の間」のベッドの上に寝転がり、これからのことを考えていた。
朝日奈さんは15分ほどでお風呂から上がり、僕の部屋をノックした。
「随分と早かったね」
僕はドアを開けるとそう言った。
「いつもはもっと時間をかけるんだけど、地下水を汲み上げるのにも、お湯を沸かすのにも電気を使っていると思うと、長湯できなくて……。2人だけならバスタブにお湯を張るより、シャワーの方が節約になると思って、シャワーで済ませたから。山上くんもできればシャワーだけにしてね。それと、ボディーソープやシャンプーも量が限られているんだから節約してね」
洗面所にはドライヤーもあったはずなのだが、それを使った様子はなく、朝日奈さんの髪はまだ少し濡れていた。おそらく、ドライヤーの電気の消費量を考え、使わなかったのだろう。藍色の浴衣がよく似合っており、一瞬、2人でどこかの温泉宿にでも旅行に来ているような錯覚に陥りかけた。
「はいはい、分かったよ」
僕はそう答えると、携帯電話と財布を「雪の間」のベッドの上に置き、着替えを持って洗面所兼脱衣所へ向かった。洗面所には、洗面台の他に、洗濯機と籠と、タオルなどを入れておくための棚があった。
洗面所に入った途端、柔らかな甘い匂いがして、僕は顔が熱くなるのを感じた。ボディーソープとシャンプーの匂いなのは分かっているのだが、つい先ほど朝日奈さんが入ったお風呂を僕も使うのかと思うと、今さらながら躊躇した。しかし、朝日奈さんの方は少なくとも表面上はあまり気にしていないのに、僕の方が自意識過剰になってどうするんだと自分に言い聞かせ、僕は浴室の中に入った。
「うーん。確か、ゴミは溜まる一方で、回収用の入り口はない仕組みになっているはずだ。だから、普通の地下室のような作りだったとしても、気密性は保たれていて、ダスト・シュートから放射線が侵入してくることはないと思うけど」
「そっか。でも、溜まる一方ってことは、ゴミを入れ続けていたらいつかは満杯になっちゃうんだよね。食品が付着していて腐る部分があるゴミだけはダスト・シュートに入れて、それ以外の梱包部分はまた別の場所に置いておくことにしましょう。食品が付着しているゴミも、一度ゴミ袋に入れて、ダスト・シュートに入れる前にできるだけ潰して体積を少なくしましょう」
朝日奈さんはそう提案した。
「そうだね。じゃあ、とりあえずカップラーメンの容器は重ねておこうか。倉庫にゴミ袋があったから、それを取って来るよ」
僕は倉庫に行き、ゴミ袋を手にするとすぐに食堂に戻った。その間に、朝日奈さんはゴミの分別を済ませていた。
「こっちの、ダスト・シュートの前に置いてあるのがダスト・シュートに捨てるゴミを入れる袋で、食器棚の近くに置いてあるのがダスト・シュートには入れないゴミを入れる袋ね。位置で区別することにしましょう」
「うん、分かった」
「この後はどうする? 私、できればお風呂に入りたいんだけど……」
「入ってきなよ」
「タオルとか着替えはあるのかな? それと、お風呂ってお湯も出るの?」
「タオルや着替えは、倉庫にあるのを見かけた。お風呂は、電気でお湯を沸かす仕組みになってるから大丈夫だと思う」
「そっか。電気で沸かすのか……。それも節約しないといけないね」
「発電量が変わらないのなら、その範囲内でどれだけ実際に電気を使っても、燃料の消費量は変化しないから大丈夫だと思うよ」
「いえ、それなら、発電量を調整して、停電しないギリギリのラインを早いところ見つけないといけない、ってことでしょ?」
「そうだけど、とりあえず今日のところは考えないことにしようよ。僕も朝日奈さんも、今は気が張っているから疲れを感じないだけで、実際には色々と精神的な疲労が溜まっているだろうし。今日はもう夜も遅いから、さっさとお風呂に入って寝てしまおう」
「寝れる……かな。こんな状況で」
朝日奈さんは心細そうにそう言った。
「眠れなくても寝ないといけない。長丁場になるから、体力を温存しておかないと」
「うん、分かった。じゃあ、交替でお風呂に入ったら、発電機の発電量を最低のラインにしておきましょう」
「交替で? 僕は1日くらいならお風呂に入らなくても平気だけど」
「駄目よ。共同生活をするんだから、ちゃんと毎日お風呂に入って」
朝日奈さんはそう言って僕を睨んだ。
「分かったよ。ちゃんと入るから」
僕は諦めて頷いた。
それから僕たちは倉庫へ行き、タオルや着替えを調べた。タオルはフェイスタオルとバスタオルの2種類があったが、朝日奈さんは洗濯に必要な洗剤の量を節約するために、お風呂上がりでもバスタオルではなくフェイスタオルを使おうと主張した。着替えは、下着を除けば、男女兼用の藍色の浴衣と、フリーサイズの白いジャージの上下しかなかった。とりあえず、今日は浴衣に着替えることにする。朝日奈さんはボディーソープとシャンプー以外に、リンスや乳液や化粧水も欲しがったが、生憎、この倉庫には保湿クリームしか見当たらなかった。
「贅沢は言えないし、保湿クリームで妥協することにする。リンスに関しては、そんなものは最初からこの世に存在しなかったんだと思って諦める……。ボディーソープとシャンプーも1種類ずつしかなくて、しかも私が普段使っているメーカーのものじゃないけど、あるだけマシだと自分に言い聞かせる」
朝日奈さんは残念そうに言った。そんな大げさな、と思わないこともなかったが、女性にとってはそういうものが死活問題なのだろうと思い、僕は余計なことは言わなかった。
お風呂には先に朝日奈さんが入ることになった。その間、僕は自分の部屋――「雪の間」のベッドの上に寝転がり、これからのことを考えていた。
朝日奈さんは15分ほどでお風呂から上がり、僕の部屋をノックした。
「随分と早かったね」
僕はドアを開けるとそう言った。
「いつもはもっと時間をかけるんだけど、地下水を汲み上げるのにも、お湯を沸かすのにも電気を使っていると思うと、長湯できなくて……。2人だけならバスタブにお湯を張るより、シャワーの方が節約になると思って、シャワーで済ませたから。山上くんもできればシャワーだけにしてね。それと、ボディーソープやシャンプーも量が限られているんだから節約してね」
洗面所にはドライヤーもあったはずなのだが、それを使った様子はなく、朝日奈さんの髪はまだ少し濡れていた。おそらく、ドライヤーの電気の消費量を考え、使わなかったのだろう。藍色の浴衣がよく似合っており、一瞬、2人でどこかの温泉宿にでも旅行に来ているような錯覚に陥りかけた。
「はいはい、分かったよ」
僕はそう答えると、携帯電話と財布を「雪の間」のベッドの上に置き、着替えを持って洗面所兼脱衣所へ向かった。洗面所には、洗面台の他に、洗濯機と籠と、タオルなどを入れておくための棚があった。
洗面所に入った途端、柔らかな甘い匂いがして、僕は顔が熱くなるのを感じた。ボディーソープとシャンプーの匂いなのは分かっているのだが、つい先ほど朝日奈さんが入ったお風呂を僕も使うのかと思うと、今さらながら躊躇した。しかし、朝日奈さんの方は少なくとも表面上はあまり気にしていないのに、僕の方が自意識過剰になってどうするんだと自分に言い聞かせ、僕は浴室の中に入った。
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