生まれることも飛ぶこともできない殻の中の僕たち

はるかず

文字の大きさ
30 / 31
第二章

第30話 食べること、生きること

しおりを挟む
 アッハッハと笑い声の中、グォーと、ルヴナンとピヨのお腹が鳴った。
 互いに顔を見合わせて、あれ? なんで? みたいな顔を互いに確認した後、お腹が急激に痛くなりだした、ピヨはたまらなくなって声を上げる。
 苦しい! 苦しい! お腹が背にくっついてしまいそうだ!
 気が付けば、隣でルヴナンも大きな声で鳴いていた。ルヴナンも同じ痛みなんだ! この痛みはなだろう?! でも、痛い、苦しい、誰か―—!
 ピヨは懸命に叫んだ。這いつくばり、ジタバタしながら転げまわっている。
「あれ! まぁ! ピヨピヨないちゃって」
「どうしたの? これはいったい何ごとなの?」
 アデリーが疑問を言うと、カワウソおばさんが、餌のドングリを石で叩く音を立てていた。
「お腹が減ってるんだよ。アタシらにも子がいるからわかるさ、食べて生きたいってね」
 その言葉に、たまごの上にはてなマークを浮かべ、アデリーはピヨたちの傍に寄る。不安そうに声をかけてみるが、ピヨたちは叫んでばかりだ。ピヨピヨピヨ! その横でカワウソは、ドングリやら豆などをすり潰し、最後に自身の身体から乳を混ぜると、ピヨたちの口の目の前に突き出したのだ。
 ピヨとルヴナンは、むしゃむしゃと口に突っ込まれるまま、エサをほおばった。

 ピヨはもっと―—!もっと―—と、食らいついた。パクつけばパクつくほど、体が言うことを効かなくなっていく。どうしてもその口に入れる行為を止めることが出来ない、自分が自分で動かせない恐ろしさと、痛みから助かりたい一心だけで、食らいついていた。
 しばらくすると、お腹が満たされたように膨れ、ピヨとルヴナンは安堵の息を漏らして、スゥっと眠ってしまった。
 カワウソが二匹に草をかけて言った。
「アタシたちも、この子達も。生まれるとね、口に何かを入れてないと元気がでないんだよ」
 アデリーはよくわからないうちに、二人が魔法のように寝ているのを見て、もっと不思議そうにしていた。
「それって大変? 叫ぶくらい?」
「そうだね。まったく生きるってことと同じくらい、食べるのは大変だね!」
 カワウソは大きく頷いて、アデリーの方を見た。
「私も、生まれたら、食べるってしてみたい」
 アデリーは恐怖よりも、生にたいする欲求を口にした。まるでそうでないといけないかのように、その声には生に対する期待より、真面目さがにじみ出ていた。
 彼女は大人しくなった二匹に近寄って、その生まれたばかりの存在を感じることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

だーるまさんがーこーろんだ

辻堂安古市
絵本
友だちがころんだ時に。 君はどうする?

処理中です...