17 / 31
第一章 誕生日おめでとう
第17話 フクロウ
しおりを挟む
ルヴナンとレアール、そしてピヨは白鳥に湖の向こうまで送ってもらった。
3個のたまごが、白鳥の背から降りると、よれた常緑樹の並ぶ森があった。
白鳥のお母さんは、夕方まではこの岸辺で餌を取っていることを約束し、3個のたまごを見送ってくれるそうだった。
岸辺には葦が茂り、その向こうには森が広がっている。
「もうすぐだよ もうすぐだよ ルヴナン」
森の奥からピヨは視線を感じ、声のする方を向いた。
「白鳥になれる泉は、すぐそこさ ホッホー」
ルヴナンが前にでて、驚いたように言う。
「き、君は……あの時の」
「知り合いなの? ルヴナン」
見上げるようにルヴナンの傍に寄るピヨ。
「僕がお母さんの巣から出る時に、白鳥の泉を教えてくれたフクロウだ」
震える声で、ルヴナンは言う。その声の奥底には覚悟が感じられた。
「本当にあるの? そんな魔法の泉が」
レアールが皮肉っぽく、フクロウに問う。
「ルヴナン ルヴナン 白鳥になれる泉は まっすぐさ ホッホー!」
レアールの言葉に応えず、フクロウはばたばたと飛んで去っていく。
ついに近くに泉があることを知り、ルヴナンは殻を震わせた。
そんなルヴナンを、ピヨは不安げに見上げる。
何かピヨが言おうとする前に、レアールが言い出した。
「君って結構賢いと思っていたけど、あんな信じられない奴のいう事だったの?」
「僕だって、縋りたい気持ちで来ているんだ。美しくなれるなら……」
ピヨには分からない。ルヴナンにとって、美しくなることがどれだけ重要か。
白鳥になる泉に言ったら、本当にルヴナンの悩み解決するのか。
ピヨは恐ろしかった。ピヨはルヴナンが白鳥に変わっても悩み続けそうで、悲しくなった。それ以上に、ルヴナンが美しくなっても、ルヴナンは美しさで悩みそうな気がしていた。ピヨは何とかしてあげたくて、岸辺で待っていた白鳥に問うた。
「白鳥は、そんなに美しい鳥なの? 美しければ、ルヴナンは助かる?」
白鳥のお母さんは、首をもたげてピヨに言った。
「本当に美しいかは、空をはばたいて、その目で見なければ分からないものだよ」
その厳しい声に、ピヨは少しドキッとした。
僕たちは卵だ。
まだ世界を恐れて、ずっと生まれることのできない卵。
ずっと出る勇気が出なくて、殻の中で縮こまっていることを選んだ。
小さな、小さな、雛にもなれない卵なのだ。
その時、ピヨには分かってしまった。
「(ルヴナンは、誰かに見て美しいと言われない限り、救われない)」
ルヴナンがもし美しい白鳥になっても、その目で見て、そこに美しいと言ってくれる誰かがいないと……ルヴナンはそのまま嘆き続ける、ということを。
フクロウが去ったざわめく森を背に、ピヨはこの先で待ち受ける自身とルヴナンの試練を、ひしひしと感じたのだった。
3個のたまごが、白鳥の背から降りると、よれた常緑樹の並ぶ森があった。
白鳥のお母さんは、夕方まではこの岸辺で餌を取っていることを約束し、3個のたまごを見送ってくれるそうだった。
岸辺には葦が茂り、その向こうには森が広がっている。
「もうすぐだよ もうすぐだよ ルヴナン」
森の奥からピヨは視線を感じ、声のする方を向いた。
「白鳥になれる泉は、すぐそこさ ホッホー」
ルヴナンが前にでて、驚いたように言う。
「き、君は……あの時の」
「知り合いなの? ルヴナン」
見上げるようにルヴナンの傍に寄るピヨ。
「僕がお母さんの巣から出る時に、白鳥の泉を教えてくれたフクロウだ」
震える声で、ルヴナンは言う。その声の奥底には覚悟が感じられた。
「本当にあるの? そんな魔法の泉が」
レアールが皮肉っぽく、フクロウに問う。
「ルヴナン ルヴナン 白鳥になれる泉は まっすぐさ ホッホー!」
レアールの言葉に応えず、フクロウはばたばたと飛んで去っていく。
ついに近くに泉があることを知り、ルヴナンは殻を震わせた。
そんなルヴナンを、ピヨは不安げに見上げる。
何かピヨが言おうとする前に、レアールが言い出した。
「君って結構賢いと思っていたけど、あんな信じられない奴のいう事だったの?」
「僕だって、縋りたい気持ちで来ているんだ。美しくなれるなら……」
ピヨには分からない。ルヴナンにとって、美しくなることがどれだけ重要か。
白鳥になる泉に言ったら、本当にルヴナンの悩み解決するのか。
ピヨは恐ろしかった。ピヨはルヴナンが白鳥に変わっても悩み続けそうで、悲しくなった。それ以上に、ルヴナンが美しくなっても、ルヴナンは美しさで悩みそうな気がしていた。ピヨは何とかしてあげたくて、岸辺で待っていた白鳥に問うた。
「白鳥は、そんなに美しい鳥なの? 美しければ、ルヴナンは助かる?」
白鳥のお母さんは、首をもたげてピヨに言った。
「本当に美しいかは、空をはばたいて、その目で見なければ分からないものだよ」
その厳しい声に、ピヨは少しドキッとした。
僕たちは卵だ。
まだ世界を恐れて、ずっと生まれることのできない卵。
ずっと出る勇気が出なくて、殻の中で縮こまっていることを選んだ。
小さな、小さな、雛にもなれない卵なのだ。
その時、ピヨには分かってしまった。
「(ルヴナンは、誰かに見て美しいと言われない限り、救われない)」
ルヴナンがもし美しい白鳥になっても、その目で見て、そこに美しいと言ってくれる誰かがいないと……ルヴナンはそのまま嘆き続ける、ということを。
フクロウが去ったざわめく森を背に、ピヨはこの先で待ち受ける自身とルヴナンの試練を、ひしひしと感じたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる