【完結】ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

問題のある令嬢は？

　アリナはグルダイヤ侯爵に雇われた学者ではないが、解読を学んだことのある教師を雇い、図書室も利用が出来るので、アリナとファミラは勉強に勤しんでいた。

　だが、クリスティーナは令息に教えて欲しいことがあるのと言って、話し掛ける姿がよく見られるようになった。

　Ｓクラスの高位貴族の令息となれば、婚約者のいる者がほとんどであり、教師に頼んで欲しいと言われて、相手にすることもなかった。

「皆、恥ずかしがり屋なのね」

　クリスティーナは連れて来たメイド相手に、毎日同じような話をしていた。

「婚約者にいる方だったのではありませんか」
「そうかもしれないけど、そんな私が近付いたくらいで壊れるなら、どうせ壊れてしまう関係でしょう？」
「ですが、あまりそう言った行為を行うと、問題になるのではありませんか」
「別に婚約して、デートに行きましょうなんて言ったわけではないのよ？」

　そんなことは当たり前だろうと思ったが、メイドは黙って聞いていた。

　誰も行きたがらないクリスティーナのメイドに、結婚して辞めることになっており、報酬のために引き受けたのである。

　メイドは学園に付いて行くことはなく、何かあっても私では止めらないという理由で、諫めることはしない。もし何か問題を起こして帰ることになっても、報酬は変わらないという条件も付けている。

　そこまでの条件にしなければ、誰も行く者がいなかったのである。

　メイドはただ、報酬のために身の回りの世話だけをすればいい。

　だが、ついにクリスティーナは３年生に王子がいると知り、挨拶して置かないとと言い出し、アリナとファミラを連れて、エルドールのクラスへ向かった。

「ちょっと、あなた。王子殿下はどちらかしら？」
「はい？」

　廊下から一番近い席に座っていた侯爵令嬢であるドリーナは声を掛けられ、あまりに失礼な態度に驚いた。

「呼んできて頂戴と言っているの」
「いえ、私が王子殿下をお呼びすることは出来ません」
「どうしてよ！」

　丁度、エルドールは不在であったが、どうしてよと言われても、親しい間柄でもなければ、このような無作法な令嬢をエルドール王子殿下に近付ける方が、問題になると分かっているからである。

「クリスティーナ様、失礼です。お止めください」

　ファミラが厳しい口調で、クリスティーナを諫めたが、クリスティーナは嫌よと言って引き下がらない。

「問題になったら、国に戻されますよ」

　仕方ないと思ったファミラは、クリスティーナの耳元で囁いた。

「っな」
「そういうお約束でしたでしょう？それとも帰りたいのですか？」
「そんなことあるわけないじゃない」
「では止めてください。お騒がせしました、申し訳ございませんでした」

　ファミラは深く頭を下げて、クリスティーナを行きましょうと歩かせた。アリナは一言も発さずに、後を付いて行き、ドリーナはお目付け役なのだろうなと思った。

　翌日、クリスティーナは昨日は、アリナとファミラも王子殿下に挨拶したいだろうと、良かれと思って連れて行ったが、またファミラに止められることを考えて、今度は一人で３年生のクラスに向かった。

「王子殿下ぁ！」

　ドアのところから、大きな声で叫んだ。

　誰だと思い、エルドールもそちらを見たが、クラスメイトもそちらを一斉に見た。

　クリスティーナは、エルドールの顔を知らなかった。

　短期留学で、学年も違い、生徒会長でもない、相手が王族であれば挨拶くらいはしたかもしれないが、ただの侯爵令嬢である。

　しかも、王家の窓口はオーバンとメイランである。

　クリスティーナは呼べば分かるだろうと思ってのことだったが、クラスメイトも向いたことで分からなかった。

　そして、クラスメイトの中には昨日も来て、騒ぎを起こしたことを知っている者もおり、誰もクリスティーナに教えてくれる者はいなかった。